“スト競”の楠木教授が聞く 戦略ストーリーの達人たち 第3回
「一橋大学教授 楠木建×松井道夫 松井証券社長」
楠木建の戦略ストーリー対談
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週刊東洋経済2012年1月14日号より許可を得て転載。
競争戦略の本質の一つは「他社と違うことをする」である。松井証券はこの点で特筆すべき戦略をとってきた。かつては、小さな「株屋さん」でしかなかったが、2000年代に個人の株取引では大手をしのぐ存在になる。11年3月期の連結経常利益は84億円、06年3月期にはなんと370億円もの経常利益を稼ぎ出した。
松井証券が急成長したのは、ほかの証券会社がしないことをしてきたからである。それは「何をしないか」という意思決定にほかならない。
対面営業をやめて電話受注に切り替え、インターネットが登場するとネット取引に特化した。手数料の自由化後、ほかの証券会社が情報提供やコンサルティングを売り≠ノする中で、松井証券はこの種の複雑な業務には手を出さず、株式知識が豊富な個人投資家を相手にした。
「何をしないか」をはっきりさせることが違いをつくる。しかし、その決断と実行は容易ではない。個別の問題にアドホックに対応していては、自ら切り捨てる決断はできない。そこに一貫性のある戦略ストーリーが必要になる。経営者の戦略ストーリーを拠り所に、「何をしないか」を明確にした企業の好例が松井証券である。
(楠木建)
楠木 松井証券は日本初のインターネット証券として、個人の株取引では大手をしのぐ存在です。「何をしないか」をはっきりさせるポジショニングが際立っています。
松井 松井証券はネットで先行したのがすごいとみんなは言うが、そんなの大した話じゃない。「営業」をやめたことが、僕の経営の原点であり、成否のカギだったんです。
楠木 それが1992年。まだバブルの余韻が残っていた頃です。営業マンにはそれぞれお得意さんがいたはずで、当時の時流からすれば、コンサルテーションだとかの名前を冠して営業を強化するのが普通です。
松井 でもお客さんがそれに乗って儲かったためしがない(笑)。当時の株の営業って、客からいかに手数料を取るかしか考えていなかった。それなのに、訳のわからない「誠意」なんてもので装う。
楠木 証券会社の屋台骨であったはずの「営業」の撤廃とは大胆です。その決断をどう下したのですか。
松井 証券会社の営業マンはよく「株じゃなくて私を売っています」なんて言います。でも、「自分が売り」だの「お客様のために」だのといった言葉は、コモディティ化したビジネスを正当化したいときに言う詭弁にすぎない。そんなまやかしはいずれ成り立たなくなると、証券業界に来たときから予感していました。
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