明けましておめでとうございます。
昨年は、個人投資家にとって厳しい一年でした。米国発のサブプライム問題の影響で、世界の金融市場が混乱し、日本の株式市場も不安定な状況が続きました。特に酷かったのが新興市場です。いわゆるライブドアショック以降、ジャスダック、ヘラクレス、マザーズといった新興市場の株価は低空飛行に終始し、個人投資家は強烈なダメージを受けました。個人の株式売買は昔も今も信用取引に負っている部分が多く、投資家の大宗が個人である新興市場の低迷は、担保などを通じて、東証1部などを含めた市場全体に波及し、市場全体としても個人投資家の取引意欲が大きく損なわれました。実際に、株式委託売買代金に占める個人投資家の売買代金の比率は、ピーク時の30%から大きく低下しており、現在においてその比率は20%を下回る歴史的低水準となっています。残念ながら、こうした傾向は今年も続くでありましょう。この状態が長引けば日本の資本市場全体に致命的ダメージを与えると思います。流動性を失った市場に魅力はありません。現在日本の資本市場のメインプレーヤーである外人投資家が日本を見捨てれば、脆弱な日本の資本市場はゲームオーバーになります。資金は堰を切ったように国外に逃げるでしょう。日本市場が世界のローカル市場に一旦成り下がれば、その再生は至難の技です。こうした危機的な日本の資本市場を救うも殺すもすべては、膨大な資産を有する日本の個人投資家の行動如何に掛かっていると思います。残念ながら政治は内向きになり、こうした危機に極めて鈍感です。税制一つとってもそれは明らかです。気付いた時はもはや手遅れでしょう。今年も昨年以上に大変厳しい年になることを、新年早々ではありますが覚悟しないといけないと思います。
もっとも、何事もそうですがピンチはチャンスです。「人の行く裏に道あり花の山」です。常に前向きの姿勢を保つことが肝心です。「おもしろき こともなき世を おもしろく (すみなすものは 心なりけり)」です。
新興市場における株価の低迷は、新興市場に対する不信感に原因があります。しかしながら、市場自体を否定しても意味がありません。上場企業、証券会社などの金融機関、そして金融当局を含めた市場関係者全員が解決に向けて努力し、投資家の市場に対する信頼を取り戻す必要があります。昨年の9月末から金融商品取引法が施行され、金融商品取引業者には説明責任、適合性原則を踏まえた行動が一層厳格に求められるようになりました。自由化以降の資本市場で起きた、「投資家不在の供給者論理」から生じた様々な不祥事を再び繰り返さないためには、単に法令を遵守するだけではなく、その精神、趣旨を正しく理解し、それに沿った行動をしなければなりません。すなわち、自らの行動を、絶対的な基準で問い直す必要があるということです。自らを律せられない者は、個人、組織を問わず、市場から淘汰されます。松井証券では、自己規律を徹底するため、昨年末に倫理コードを定めました。私自らが率先して、この倫理コードの精神を貫いていく所存です。
ところで、この数年でオンライン証券会社の口座数は急増し、松井証券においても70万を超えました。しかしながら、見た目の口座数ほどには個人投資家層の裾野は広がっておりません。松井証券の株式委託売買代金を顧客の月間約定件数ワイズで分類してみると、月間約定件数が100回(一日5回以上)を超える超アクティブ・トレーダーの売買代金は、全体売買代金の40%〜50%を占めています。そして、この超アクティブ・トレーダーは、松井証券の顧客70万人のうち5,000人程度(すなわち1%以下)に過ぎないのです。日本におけるオンライン取引口座数は累計で1,200万口座を突破したとも言われていますが、重複分を考慮すれば、とてもオンライン証券会社がリテール分野を制覇したなどと言える状況ではありませんし、また、実際には売買の大宗を生み出しているのはこれらの超アクティブ・トレーダーです。その数は業界全体で10万人にも満たないのではないかと推測しています。
こうして見てみると、現下の競争状態は、より多くの超アクティブ・トレーダーを獲得した証券会社が、売買代金ベースでの市場シェアを獲得してきたというに過ぎないといえます。この文脈の下では、個人投資家層の真の獲得競争はまだ緒についたばかりともいえ、従って、最近の新規獲得口座数の減少、売買代金の低迷などをもって、オンライン証券業界がピークアウトしたとの一部報道は事実誤認であり、事実はオンライン証券業界自体が未だに発展途上にあるということなのです。富士登山に例えれば、おそらく三合目にさえ未だ達していない段階だと認識しています。このことは、売買代金を生み出す預かり資産に視点を移せば、一層明らかになります。個人投資家が保有する株式100兆円の内、個人の売買代金で7割超のシェアを占めるオンライン証券主要5社の預かり資産は、その一割にも満たないわずか10兆円程度に過ぎないのです。オンライン証券がリテール市場を制覇したなどという論はジョーク以外の何ものでもないといえます。個人投資家の金融資産が本格的にオンライン証券業界に流入してくるのは、まさにこれからなのです。
現在繰広げられている競争は、委託手数料水準が自由化前と比較して最低三十分の一まで下がった結果新たに生まれた超アクティブ・トレーダーの争奪戦という段階に過ぎません。これはこれで、市場の流動性を激増させたという点では極めて意味があったと考えています。しかしながら、劇はこれで終わりではありません。競争の「第一幕」の一場面に過ぎないのです。「第一幕」の幕開けをしたのは松井証券であり(マネックス証券の松本さんにも同志としてこの幕開けに参加してもらいましたが)、その後、新規参入者が現れ、途中から熾烈な手数料引下げ競争が繰広げられてきました。その過程で松井証券は、オンライン証券内で当初80%を占めていたシェアを大きく失う結果となりました。経営者として多いに反省しなくてはならないと思っています。
ただ、それもまもなく終わり、競争の「第二幕」とも言うべき新しい局面を迎えるものと考えています。自由化したどのような産業でも、その「第一幕」は例外なくまずは価格競争です。それは体力戦を伴う過当競争となります。最後は採算的に限界を超えた者が脱落して幕を閉じます。この幕の最終場面では「需要の価格弾力性」を失う(価格が差別化要因にならなくなるという意味)というシナリオが必ず用意されるというのが通説です。私は今から四半世紀前の海運業界でそれを嫌というほど体験しました。安さだけで急速に伸びた会社は、その後見事に消えていきました。こうした貴重な経験をしたにも拘わらず、私はそれを忘れて一昨年大きなミスを犯しました。無期限信用取引の手数料無料化策です。ほとんど効果なく大失敗に終わりました。その際、お客様を混乱させた重い責任は痛感しておりますし、業績の急降下という形できつい罰を受けました。自業自得でしょう。
そこで今年、松井証券は手数料以外の付加価値の高いサービスを他社に先駆けて提供することによって、この「第一幕」の幕引きをしたいと考えています。
その施策として考えているのが、即時決済取引のPTS(私設取引システム)です。取引所の普通取引において三日間のタイムラグがある約定と受渡しを同時に行う取引であり、これを使えば差金決済の制約を克服することができ、同一銘柄を同じ日に何度でも売買できるようになります。つまり、お客様にとっては資金効率が飛躍的に向上することを意味します。お客様の「もっと資金効率を高めたい」というニーズに応えるために、松井証券で考えた仕組みが即時決済取引なのです。即時決済取引を通じて、現在のオンライン証券にとって極めて重要な存在である超アクティブ・トレーダーを取り返します。そして「第一幕」を幕引きします。
即時決済取引の導入による超アクティブ・トレーダーの獲得は、「第一幕」の最終章における短期的施策である一方で、これに続く「第ニ幕」のメインテーマは、オンライン取引が眞の意味でのリテール流通市場での主役になることです。その際、一番大事なスタンスは【セールスしない】ということです。これは私がオンライン証券ビジネスを日本で最初に始めた際の根本哲学でした。この裏には【セールスする】ということも認める、という意味も隠されています。その際、肝心なことは機能分けすることです。【セールスする】はオフライン証券や銀行などが担えばよいのです。セールスにはコストが発生します。このコストを受け入れるか受け入れないかは消費者が選択することです。この折衷策、すなわち『足して二で割る策』ですが、極めて顧客・消費者を小馬鹿にした安易な策だと思います。おそらく成功しないでしょう。自由化の試練を経験していない規制業者がよく考える策だからです。どちらか一方なのです。
コストというのはシビアなものです。なぜならコストはお客様が決めるものだからです。お客様は、中途半端な、供給者論理で生まれたコストを決して選ばないからです。自由化の本質はコスト競争です。換言すれば、お客様が認めないコストで成り立っている業が【虚業】であり、お客様が認めるコストで成り立っている業が【実業】です。【虚業】は【実業】に必ず駆逐されます。先物・オプション取引、NetFx、投資信託、等々『貯蓄から投資』の世の中では対象はたくさんあります。肝要なのは、対象を増やす、品揃えを増やすといった単純なものではなく、お客様の前に【どのような形・手法】でそれらを揃えるのか、なのです。競争の「第二幕」でお客様の支持を得て、リテール流通市場の主役になれるかどうかは、まさにそこに掛かっていると思っております。
今年は松井証券が創業して90年目を迎えます。独立を貫き通して、永年に亘り【松井】の看板を掲げてきました。こうした証券会社は野村證券さんなど証券業界、金融業界では極めて数少なく、その中に加われたことは誇るべきことだと思っています。これも偏に【松井】を支持していただいているお客様あってのものと感謝しております。こうしたお客様のご期待に応えることが社長としての私の最大の任務と心得ています。新しい時代には他業態、他社とのアライアンスも大事ですので、これらを臨機応変にビジネスモデルに組み込んだ上で、お客様に支持される商売を今後も展開をしていきたいと考えております。伝統と革新は二律背反ではありません。両者が両立してはじめてお客様からの信頼をかち得、競争に勝っていけるものと信じております。創業百年に向け新たなる第一歩を印したいと思っておりますので、今年も何卒宜しくご支援のほどお願い申し上げます。
最後になりましたが、皆様のご健康とご多幸を祈念して、年頭の挨拶とさせていただきます。
平成20年 元旦
代表取締役社長

商品・サービスごとの投資に係るリスクおよび手数料等の説明は、
こちらをご覧ください。
- 当社WEBサイトに記載の商品等に投資いただく際には、各商品等に所定の手数料や諸経費等をご負担いただく場合があります。また、全ての商品等には価格の変動等による損失を生じるおそれがあります。商品によっては、投資元本を超える損失が発生することがあります。WEBサイトに掲載された各商品等へのご投資にかかる手数料等およびリスクについては、当社WEBサイトの当該商品等の取引ルール、契約締結前交付書面、目論見書またはお客様向け資料などに記載されていますので、当該WEBサイトをご確認ください。
|