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道夫が吼える! 〜松井証券社長の熱いメッセージ〜【特別号】
2010年1月1日発行
発行 松井証券株式会社 http://www.matsui.co.jp
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明けましておめでとうございます。
昨年、政権交代があり、多くの日本国民がこれで世の中が変わるかもしれない
という期待を抱きました。新政権が様々な新しい試みをしている最中なので、
性急に結果を求めることは慎むべきだと思いますが、一つだけ確かなことが
あります。政治で変えられるものは世の中のほんの一部に過ぎないということ
です。
今から30年ほど前に米ハーバード大学のエズラ・ボーゲル教授が“ジャパン
アズ ナンバーワン”という本を出しました。戦後日本の驚異的な経済成長を、
その頃元気が無かったアメリカは教訓とすべしという内容ですが、それほど当
時の日本は輝いていたわけです。『ジャパン イズ ナンバーワンと勘違い
していい気になった日本は、1990年を境に坂を転げ落ちるようにして世界から
取り残されていった。だから失われた20年なのだ』 とよく謂われます。その
20年の間に育った世代が今、社会人としてスタートを切ろうとしていますが、
彼らがこれから見るのは“坂の上の雲”ではなく“坂の下の薮”なのでしょう
か。
政治は日本の進むべき方向を示すべきだという論をよく聞きますが、私は違う
と思います。政治が世の中を変えるのではなく、世の中が政治を変えるのだと
信じているからです。失われた20年と言われても、20年間日本が変わらなかっ
たとは思いません。確かに、一人当たり国内総生産の国別順位などを見せつけ
られれば、ずいぶん落ちたものだとは思いますが、それは豊かさの一面に過ぎ
ません。若い世代が 『車を持つなんてウザイだけじゃん』 と言うのは、逆に
豊かになった証という見方もできると思います。豊かさの定義は明らかにこの
20年間で変わったと感じます。その兆しが今そこいら中で出ていることに気が
付くことから、本当の変化が始まります。
ところで、【ボンクラ】という言葉があります。語源は【盆蔵】や【盆暗】
など諸説あって、漢字では書けません。要は人を貶す際に使われる言葉で、
あまり良い意味で使われることはありません。
弊社二代目社長だった今は亡き岳父から 『何もしないボンクラの方が、色々し
たがるボンクラより遥かに良い。なぜなら、前者は会社をなかなか潰さないが、
後者は一瞬で潰す』 と言われました。彼は、自身について 『僕のようなボン
クラはね・・・』 というのが口癖でしたから、私のことをボンクラと指摘した
訳ではありませんが、キツイ言葉であったことは確かです。少なくとも思考と
いう点では、府立一中、東京高校、東京帝大という絵に描いたようなエリート
コースを歩み、戦後40年間オーナー社長として完全独立を維持し続けた岳父の
足元にも及ばないことは自覚していました。私が跡を継いでからも会社は潰れ
ずに済み、それどころか1,500億円ほどの経常利益を積み増し、一度も赤字に
陥ったことはありません。では、私は何もしないボンクラだったのでしょうか、
それともボンクラではなかったのでしょうか。
どこかのブログにあったのですが、ボンクラは仏語の【BON COURAGE】、即ち
【頑張れ】の略だというジョークに思わず膝をポンと叩いてしまいました。
大学の先輩で日本生命の社長・会長をされた故伊藤助成さんから教わった言葉
があります。【坐忘】という禅の言葉です。『どんなことでも、新しいものを
取り入れる為には古いものを捨てなくてはならない。その余白にしか新しいも
のは入ってこない。だから古いものをどんどん捨てなさい』。シュンペーター
の創造的破壊にも繋がる言葉かもしれません。【頑張れ】と【坐忘】と何の
関係がある?と怪訝に思われるかもしれませんが、大いに関係があります。
私がこれまでしでかした色々なことの中でモノになったのは、【坐忘】に通ず
ることだと、最近気がついたのです。私は、徹底的に過去を否定し、岳父が築
いたものをこれでもかというほど捨てました。岳父は、私のすることを黙って
見ているだけで、一切口を挟むようなことはしませんでした。外交セールスを
否定した余白には受身営業であるコールセンター・ビジネスというものがスト
ンと収まりました。それで弊社の売上げに直結する株式売買代金は5倍ほどに
なりました。そのコールセンターを捨てた余白にはインターネット・ビジネス
というものが入ってきて、更に60倍ほどになりました。締めて300倍です。
私が実行して上手くいったのは足し算ではなく全て引き算でした。業容が拡大
したのは結果であって、後からついてきたものに過ぎません。私は、自身に、
又、社員にも常日頃言い聞かせていることがあります。『みんな、頑張るのは
やめよう。どうか頑張らないでくれ。頑張ったって、所詮何割の世界でしかな
い。頑張らないでも良い方法を頑張って考え実行しよう。そうすれば何倍、
何十倍、何百倍の世界の門が開く』。
私は、松井に来てからの20年間、何もしないどころか、削ぎ落とすことに力を
注いできました。ボンクラはボンクラでも【BON COURAGE】、坐忘の経営に徹
して頑張ってきたつもりです。事業を拡大しようなどと思ったことは一度も
ありません。拡大できるかどうかは私ではなく世の中が決めてくれるものです。
このスタンスは今後も変えるつもりはありません。
冒頭、日本はこの20年間で大いに変わったということを申しました。頑張れ
頑張れと云いますが、頑張るべき方向が変わってきているように思うのです。
新しいものを受け入れる為にも、古いものを捨てることに頑張るべきでしょう。
20年も経てば新しい価値観が生まれ、新しい流れが生まれるものです。
回顧はこのくらいにして、大事なのは展望です。
今私が最も興味をもっていることに触れたいと思います。イノベーションとは
こうした事を考え悩むことから閃くものです。因みにこの【閃く】という言葉。
私の尊敬するある経営者から聞いた話ですが、『【閃】という字は門の下に人
が立っている。人は門を前にしてどうすれば開けてくれるか悩む。悩んで悩み
ぬく者の脳裏に突然解が浮かぶ。そうすると門は開く。閃きとはそういうもの
だ』 そうです。この何年か、私は取引システムの変化とそれに伴う資本市場の
在り方に興味を持ち考えてきました。今この世界で想像を絶する変化が起きよう
としています。単なる技術進歩などという表層的なものではなく、資本市場の
構造そのものが抜本的に変わろうとしています。対面かオンラインかなどと
いう議論はずっと過去のものです。オンライン取引を私が始めたのは、決して
インターネットという便利なツールが出現したからではなく、自由化に際し
証券会社のブローキングという機能を分解する必要性を感じたからです。
ツールは所詮ツールにしか過ぎません。
今年、証券業界で最も注目すべき話題は、東証次世代システム“arrowhead”
です。注文処理スピードが従来の500倍にもなります。世界の潮流に則したもの
で大いに歓迎すべきことですが、これを一番待ち望んでいたのは、個人投資家
ではなく既存のPTSやダークプールを運営する業者かもしれません。
彼らは取引所取引の高速化を契機として、取引所から流動性を奪おうと狙って
いる代替市場の運営者です。そこでは、東証に上場しているはずの銘柄が、異
なる価格で取引されています。これが、いわゆる“市場の分裂”です。米国で
市場の分裂を促進したのは機関化現象でした。市場の分裂が進む中で、個人投
資家が自身で最良の価格を発見することは、非常に困難です。一方の機関投資
家は、運用規模が大きく且つ豊富な情報を有し取引インフラが充実しているた
め、その恩恵を受けることができます。1975年5月1日のメイデー(米国版金融
ビッグバン)は、株式委託手数料の自由化に注目しがちですが、その本質的な
目的はこの市場の分裂に対処することでした。そして、それは最良執行義務を
どのように担保するかの問題でもありました。四半世紀以上に亘り最良執行義
務を担保する制度を模索し続けてきた米国と、10年前まで取引所集中原則が法
律で決められていて市場の分裂が起きようもなかった日本とでは、状況が全く
異なります。日本における資本市場の構造変化は、今後、この市場の分裂の問
題と表裏一体で進んでいくでしょう。
新しい金融商品の拡大も無視できません。中でもCFDという取引は、ここにきて
参入業者が増加しています。株式などの現物の受渡を伴わず、反対売買による
差金を決済する取引です。見方を変えれば、現物取引とCFDとの間で生じた次元
の異なる市場の分裂と言えなくもありません。金融当局は投資家保護の観点か
らルール強化の方向にあり、それ自体は当然だと思いますが、現時点ではレバ
レッジや勧誘行為に関する規制に留まっています。最良執行義務が担保されず
グレイな領域を放置するならば、業者の自己売買であるトレーディングと顧客
の委託売買であるブローキングの狭間で個人投資家が重大な不利益を蒙ること
に繋がります。
日本版金融ビッグバンから10年。その間、ルールの網の目をくぐりながら、資
本市場をオモチャにして跋扈する輩が様々な不祥事を起こし、投資家、特に個
人投資家を大いに傷つけました。ビッグバン貫徹の為の生みの苦しみとはいえ、
許せないことです。一方で業者の一人として、そういったことを放置した責任
は免れず、大いに反省すべきことだと考えています。従って、今後はこういっ
た芽を摘むことに協力するのは業者として当然の義務だとも考えています。資
本市場の急激な変化は今後も続くと予想しますが、背後にある本質を見落とし
てはなりません。過当な手数料引下げ競争、安易な事業の多角化などは、業者
の収益構造を変えました。一部の業者は、取引所の高速化や複雑な金融商品と
いった、個人投資家に極めて分かり難い分野において様々な仕掛けを用意する
はずです。勿論是々非々ではありますが、特にリテールに特化した業者につい
ては、一体何で利益を確保しているのかを監視する必要があるでしょう。例え
ば、相対取引であることを隠れ蓑に、顧客にとって不利な価格を提示すること
によって生じるトレーディング収益が何を意味するのかが問われなくてはなら
ないと思います。
松井証券は 『筋の悪いものには一切手をつけない』 を方針にしてきたつもり
です。90年間看板を掲げてこられたのも、この方針あってのものだと自負して
います。投資信託販売業務を、上場投信であるETF以外手掛けなかったのも、
それには顧客へのコンサルティングが不可欠であり、インターネット経由の販
売では筋が通らないと考えたからです。トレーディングを、顧客の注文に係る
過誤処理などのケースを除いて、一切しないと決めたのも、顧客との利益相反
を考えてのことです。『何をするか』 ではなく 『何をしないか』 が大事だと
思っています。そして 『しない』 『捨てる』 ということから新しいイノベー
ションが生まれるということも固く信じております。
松井証券は今でも吹けば飛ぶような小さな証券会社です。ただし、これまでの
90年で積み重ねてきた純資産は、人件費を含む固定費の約10年分の規模になっ
ています。商いの水準が、取引が少ない現在の更に半分になっても利益を生む
体質にしてきました。『山椒は小粒でもピリリと辛い』。それを世に問う環境
が整ってきました。大いに頑張るつもりです。こんな松井証券を本年もご支援
のほど、よろしくお願い申し上げます。
最後になりましたが、寅の年の皆様のご多幸をお祈りして、新年のご挨拶とさ
せていただきます。
平成22年 元旦
代表取締役社長 松井道夫
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