【投資環境の見通し】 2017年03月
~リスクオフに警戒~

各市場の見通し

対象インデックス 基本シナリオ 今後3~6ケ月の見通し 2017年の見通し 長期的見通し
国内株式 一旦ピークアウトの可能性 straight straight
先進国株式 基本は成長も17年は波乱含み down straight up
新興国株式 先進国を上回る成長続く up up up
国内債券 日銀緩和で横ばい続く straight straight
先進国債券 米金利上昇の調整後横ばい down straight
新興国債券 緩やかな金利下落=価格上昇 up up up
国内リート 当面横ばいもいずれ調整へ straight straight down
海外リート 成長力あるが金利対比で弱い down down up
コモディティ 金価格は当面弱含み down straight up
外国為替 円安も春がピークか 円安→円高 円高 横ばい

出所:松井証券予想

★基本シナリオ:短期調整リスクも、中長期は新興国>米国>欧州>日本>ロシア、リートは当面回避

【短期】市場全体が徐々にリスクオフ気味に調整局面入りする可能性が高いとみている。3月15日に米FRBは利上げを発表したが、イエレン議長が経済見通しは前回までと変わらないと説明したことで利上げペース加速への期待が遠のき、米株価は上昇したものの為替はドル安(円高)となり、米長期金利は低下した。翌日の日本株は、昨年来高値圏を維持したものの、若干の弱含みの反応だった。引き続き米景気拡大が続く可能性が高いが、次回の米利上げは6月を予想する見方が多いとみられるため、前倒しとならない限りは円安・金利高・株高の再来とはなりにくい。国内景気と企業業績も、円安効果が一巡、今後は輸入品価格上昇による消費冷え込みリスクが懸念される。18年3月期会社予想の増益幅も限定的に留まる可能性があり、株価の押し上げ材料としては期待薄とみる。一方で、4月以降、フランス、ドイツと続く欧州選挙や英国のEU離脱動向なども市場心理にマイナスに作用するリスクがあるだろう。そうなると、昨年6月の英国国民投票時や同11月の米大統領選時の再来を連想して調整幅が大きくなりやすい。原油価格が、米シェール増産を背景に1バレル50ドル前後でこう着していることも、市場のピークアウト感を醸成しやすいだろう。

【中長期】前回レポート(12月)から変更なし。中長期的には、米国経済がけん引する形で、経済成長率の高い順に、『新興国>米国>欧州>日本>ロシア』という順番に変化はないだろう。米トランプ政権の政策効果により短期的に景気が上向いても、財政の制約がある中では、米国は元の成長率に戻る可能性があるとみている。ただし、移民を含めた人口増加を背景にした米国経済の堅調な成長は続くだろう。中国経済は引き続き波乱要因ではあるが、完全な市場経済ではない国家であり、実態がどうであっても、政府がコントロールして現在の年6%程度の成長を維持することは可能だろう。

上記の前提に基づき、中長期的には、経済成長率の高い地域の株価上昇傾向が続くのがメインシナリオ。市場金利は、米国が上昇、日本と欧州が横ばい、新興国は成長率が落ち着くことで下落傾向を予想する。

株式市場の見通し

★株式市場: 春以降は日本と欧米の株価に調整リスク、新興国株は底堅いか

中長期的には、その国の経済成長率に近い動きになると考えられるため、新興国株>米国株>欧州株>日本株>ロシア株という選好順位は、前回レポート(12月)から変更はない。短期的には、次の米利上げ見通しへの不透明感、米新政権への過剰期待のはく落、欧州での選挙や英EU離脱などへの不安拡大から当面は調整色が強まる可能性があろう。

国内株式

国内経済の成長率の低さを考えれば、中長期的にみた上昇期待は持ちにくい。国内経済の変化が小さい分、海外のマクロ動向の影響を受けてドル円相場や原油価格が変化するのに合わせて、上昇と下落を繰り返す相場がこれからも続くだろう。数ヶ月から数年単位で「上がったら売り、下がったら買う」取引を繰り返すのが国内株式投資の基本シナリオと考える。

2017年の展望:4月後半~5月前半に発表予定の17年3月期決算は、輸出企業も国内産業も多くの企業が会社予想比上振れ着地を予想するが、3Q決算内容からある程度想定されており、サプライズとはならないだろう。年内にあと1回程度の米利上げがあると想定され、もう一段の円安となる可能性があるが、1ドル117~120円程度に留まるだろう。そうすると18年3月期会社予想の前提レートも現在の1ドル112~115円から大きく修正されることもないとみる。増益予想となる企業は多いとみられるが、増益幅が小幅に留まると株価へのインパクトは期待しにくい。微増益であれば配当や自社株買いも前年並みとなる企業が多いだろう。「全体に悪くないが相場全体を押し上げるほどではない」決算発表が予想される。また、欧州政治リスクで市場心理がリスクオフに傾きやすいことに加え、徐々にガソリンを始めとする輸入品値上げによる消費の冷え込みなども意識されて、株価は調整局面入りする可能性がある。

先進国株式

前回レポート(12月)から変更なし。中長期的には潜在的成長力があるが、当面は欧米ともに調整リスクがある。米国株は米大統領選前から史上最高値圏にあり、そこからさらに一段と上昇しており、過熱感が強いと感じる。特に、トランプ氏が掲げたインフラ投資と金融緩和への期待から関連株が相場をけん引してきた。しかし、インフラ投資は大部分を民間投資に頼り、政府の計画通りに進まない可能性があるため、期待以下の規模に留まる可能性がある。金融に関しても、世界の大手金融機関に対して「バーゼルⅢ」という共通の規制の枠組みが進行しており、米大手銀行に対して極端な緩和は難しい。したがっていずれも期待外れとなり、株価が調整局面入りするリスクがある。米FRBがさらなる利上げに踏み切った場合、そこが短期的なピークとなる可能性もあろう。欧州は、春以降にオランダ、フランス、ドイツで選挙があり、現在の政策の持続性が懸念される。さらに巨額の和解金を要求されているドイツ銀と、不良債権問題が懸念されるイタリアの銀行の経営不安が払しょくできていないことも、株価の重石となり続ける。ギリシャ財政難が解決されていないこともいずれ懸念事項として再燃するリスクがある。欧米ともに中長期的な株価上昇期待は持てるが、投資のタイミングは短期的な株価下落の後、懸念がある程度払しょくされた後の方がよさそうだ。

新興国株式

前回レポート(12月)から基本シナリオに変更なし。新興国は中国、韓国、ロシア、ブラジルなどに減速懸念があるが、人口増加を背景に先進国よりも高い経済成長が続いており、中長期的には安定した株価上昇が期待できよう。米大統領選挙後に、新興国売り→米国買いという形で新興国株は一旦下落したが、年明け以降は回復基調にある。日本株と欧米株に調整リスクがある中では、相対的にも投資妙味があるのではないだろうか。

★債券市場:国内横ばい、米利上げ、新興国は緩やかな金利低下

国内債券

前回レポート(12月)から変更なし。国内金利は、日銀のマイナス金利&長期金利0%誘導政策のため、短期金利も長期金利もほぼ横ばいの推移と見る。米利上げがあった場合、国内長期金利に若干の上昇圧力がかかるが、既に長期金利がプラス圏に浮上しており、現時点以上の上昇は期待しにくい。銀行など金融機関はこの数年間の低金利で有価証券運用を減らし、余剰資金を200兆円以上も増やしている。債券利回りがプラスとなれば、すぐに買い圧力がかかり、再びゼロ%近辺に押し戻されることが想定される。債券投信価格としては、米金利の動きにつられて短期的に上下するリスクがあり、安全度は決して高くない上に、結果としての横ばい圏の動きが長期化する可能性が高く、投資妙味は低い。

先進国債券

代表的な世界国債インデックスの構成比率は米国30~35%、日本20%強、欧州主要5カ国(独、仏、英、イタリア、スペイン)が30~35%。 日本を除くインデックスなら欧米がほぼ半分ずつで、豪州、カナダや北欧など他の先進国の比率は極めて小さい。したがって、米金利と欧州主要国の金利がどうなるかを見ることが重要となる。米長期金利は3月の米利上げの前週に2.5%台を回復しており、既に利上げを織り込み済みだったと考えられる。しかし、米利上げは今回が最後ではない。米FRBの方針通りに年3回ペースとはならないかもしれないが、年1~2回ペースの利上げは実施されるだろう。一定ペースでの利上げが続くのであれば、長期金利も含めて金利上昇期待が続くことになる。欧州も米金利につられる形で若干の上昇となる可能性が高い。金利上昇=債券価格下落=投信含み益の縮小となるため、先進国債券投信の投資妙味は短期的には低いということになる。ただし、日本と違って欧米の市場金利はゼロ金利ではない(一部の国でマイナス金利はあるが)。債券を保有すれば一定のクーポン収入が見込める。米金利の上昇が一段落すれば債券価格下落も底打ちする可能性が高く、その段階で投資妙味が出てくると考えられる。

新興国債券

前回レポート(12月)から変更なし。新興国では、これまでの高い経済成長に減速リスクがあることでインド、ブラジル、インドネシアなどで利下げの動きが見られる。2017年も緩やかな金利低下傾向が予想される。債券投信価格としては上昇の可能性があることになる。

★リート市場:国内はピークアウトが近い点に留意、米利上げは米国リートに下落圧力

前回レポート(12月)から変更なし。リート価格は、保有物件の賃料が上昇するか、高収益物件の追加取得による利回りの上昇、さらには市場金利とリート配当利回りとの利回り差によって決まる。日米ともに不動産市況は堅調だが、どちらも長期金利上昇が足かせとなり足元では価格下落が続いている。国内リートは金利上昇が無い分、海外リートよりは下落リスクが低いが、中期的にピークアウトするリスクがある。海外リートは、金利上昇が続いている間は価格低迷が続きそうだ。

国内リート

前回レポート(12月)から変更なし。国内の不動産市況は良好な状況が続いており、年間900億円を買い入れる日銀の需給下支え効果も大きい。しかし、住宅市場では首都圏のマンション販売が減速、賃貸市場も首都圏の成約件数・賃料がともに下落基調となる中、貸家の新設着工戸数の増加が続いており、市況悪化リスクがある。オフィス市場は全国主要都市の空室率の改善が続き堅調だが、賃料上昇が緩やかで、かつ一部に留まる中、物件価格上昇の動きが目立っている。賃料が上がらずに物件価格のみが上昇すれば、その物件の利回りは低下する。各リートにとっては、首都圏の物件を取得すれば平均利回りが低下するリスクがあり、地方物件取得を増やせば首都圏より空室リスクが高まる。リート利回りの上昇期待は持ちにくくなってきている。日銀の金融緩和政策により国内金利が横ばいに留まるため、リート利回りとの格差は広がらず、リートの理論価格は下がらないとみている。しかし、米金利上昇から円金利上昇→リート価格低下を連想する投資家が存在することや、不動産市場のピークアウト懸念などから、投信価格としては上昇しにくいリスクがある。

海外リート

前回レポート(12月)から変更なし。海外リート指数では米国リートの組入れ比率が一番高いため、米国リート市場動向が最重要となる。米国不動産市場は順調な拡大が続いているが、リート自体は米利上げにより配当利回りと長期金利の利回り差が縮まるリスクが高く、価格下落基調が続きそうだ。欧州も長期金利が上昇するのであれば、価格下落懸念が生まれる。英国のEU離脱問題の行方次第によっては、英国不動産市況の悪化リスクもある。海外リートは既にかなり下落しているが、反転の可能性はまだ当分持ちにくい。

★コモディティ市場:当面は下落方向

前回レポート(12月)から変更なし。米金利上昇は、原油価格と金価格の両方に下落圧力がかかりやすい。各国の経済が現状維持で、商品需給に変化がないとすれば、価格上昇よりは価格下落のリスクが高い。

金

前回レポート(12月)から変更なし。金価格は、英国のEU離脱問題や日米金融政策の不透明感などを背景に逃避資金が流入して年半ばから上昇してきた。価格上昇は米低金利の長期化も前提だったと考えられ、直近の米長期金利上昇を受けて価格は下落傾向にある。以前は「有事の金」と言われ、紛争や経済危機などがあると金が買われていたが、ここ数年はそうした傾向も消えつつあり、リスクオフ時は金ではなく「円」が買われる傾向にある。また実需面では、大消費国のインドと中国の需要が強まる可能性は現時点ではまだ低い。金価格はもうしばらく低迷しそうだ。

原油

基本的な見方に変化はない。原油価格は、昨年11月末のOPEC減産合意を受けて一時は1バレル54ドル台まで回復した。しかし、実際に減産が実施されても、原油価格が1バレル50~55ドル程度まで上昇すると、米シェールオイル業者が増産に動き、需給が緩んで再び価格が下落するリスクが常にある。1~2月は1バレル52~54ドル前後で推移していたが、3月に入り、米石油リグ稼働数の増加(シェール増産を示唆)と米原油在庫量の増加が確認されると、原油価格は1バレル50ドルを割り込んだ。今後は減産合意の行方と米シェール生産動向に一喜一憂しながら、結果として45~55ドルのボックス圏で推移する可能性が高いだろう。

その他

昨年秋以降、石炭や銅など産業用金属価格が上昇していた。理由として中国の大量買い付けが挙げられている。ただし、中国の経済成長率に変化がなく、石炭と製鉄業界は供給力削減の方向にあることから、金属価格の上昇は長続きしない可能性があるだろう。

★為替市場:現在の円安は一旦ピークを付ける可能性、2017年はポンド乱高下リスク

前回レポート(12月)から変更なし。日銀の金融緩和は、今までの金利低下を促す動きから、長短金利を横ばいにロックする動きに変わっている。米FRBが利上げすれば、日米金利差が拡大することで円売りドル買いの動きが強まり、115~120円程度の円安となる可能性があるだろう。ただし、ドル高は農産物を含めた米国の輸出競争力を低下させるし、輸入が急増した場合は、米政権が保護主義的な動きを強めるリスクもある。日本経済への影響という観点では、円安は原油や食料品などの輸入物価上昇につながり、2015年夏以降と同様に消費が冷え込む要因となりやすい。外人投資家の日本株買いが増えれば、円買い=円高要因だ。欧州の選挙や銀行の経営不安などの懸念が拡大すると、安全資産である円が買われやすい。米利上げなどをキッカケとして一時的にもう一段の円安となる可能性は十分にあるが、春以降は再び円高方向に行く可能性もあるとみている。

また、中国人民元の緩やかな元安ドル高傾向も続いているが、中国は財政主導での経済成長が続き、昨年夏のような急激な元安株安となるリスクは低いだろう。中国発リスクオフに伴う円高リスクは、現時点では低そうだ。欧州については、緩やかな経済成長が続き、変化の無い間は欧州ECBも金融緩和を続けると予想する。ただし、今年は欧州各国で選挙があり、結果次第で現在の経済政策や移民政策に対する懸念が出るリスクがある。英国のEU離脱の行方を含めてリスク要因として気に留めておく必要があろう。

松井証券ストラテジスト 田村 晋一

京都大学経済学部を卒業後、太陽神戸三井銀行(現三井住友銀行)に入行。米国MBA 留学、外資系大手コンサルティング会社勤務等を経て、UBS 証券、ドイツ証券、バークレイズ証券にて銀行セクター担当アナリストとして豊富な経験を積み重ねる。

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