米イラン停戦交渉決裂後の為替相場見通し
先週の米ドル/円は、週初6日〜7日こそ160円付近での推移となったものの、8日の日本時間早朝、トランプ大統領が、パキスタンの仲介案を受け入れ、イランとの2週間の停戦合意をSNSで発表。これを受け、リスク回避の動きが急速に巻き戻され、159円台半ばから157円台まで急落し、157.89円の安値を付けた。ホルムズ海峡の開放を条件とした停戦合意により、エネルギー供給途絶リスクが後退し、WTI原油先物価格が一時91ドル台まで急落。これにより、それまで積み上がっていた「有事のドル買い」や、原油高に伴う円売りポジションの解消が進んだ格好となった。しかし、下落は一時的なものに留まり、週後半9日〜10日は、再び地政学リスクが意識され、159円台を回復。イスラエルがレバノンへの攻撃を継続したことで、イラン側が合意違反を主張し、ホルムズ海峡を再び封鎖すると報じられるなど、停戦の実効性への疑念が強まった。
本日13日の米ドル/円は、週末にパキスタンで実施された米イランの停戦協議が合意に至らなかったことやトランプ大統領がホルムズ海峡を「全面的に封鎖」すると表明したことなどを受け、159円台後半で推移している。
米国:経済指標・金融政策動向
先週は、経済指標の発表が相次いだ。6日に発表となったISM非製造業景況指数(3月分)の総合指数は54.0と、市場予想54.9を下回り、前月56.1から低下したが、50を上回る堅調な水準を維持。詳細を見てみると、仕入価格DIが70.7と2022年10月以来の高水準に達したことで、中東情勢を受けた物流コストの上昇が反映されていたことが確認された。インフレ警戒感からFRBの利下げ開始が後ずれする可能性を示唆する内容となった。
10日には、CPI(3月分)が発表され、結果は総合指数が市場予想通り、前月比+0.9%と大幅に上昇した。一方で、コアCPIは前月比+0.2%と市場予想+0.3%を下振れた。総合指数は原油価格上昇の影響を強く受けたが、コア指数は処方薬や医療サービスなど一部品目の一時的な押し下げにより低い伸びに留まった。
底堅い労働市場と、中東情勢によるエネルギー価格上昇(インフレ上振れリスク)を受け、FRBは様子見姿勢を維持している。9日にはFOMC議事要旨(3月17〜18日開催分)が公表された。議事要旨では、参加者が利下げに対して慎重姿勢を強めている様子が示された。「大多数」の参加者が、インフレの進展が想定より遅れるリスクを指摘。また、政策金利の先行きについて「引き上げ・引き下げの双方向」の描写が妥当だとする参加者が前回から増加した。インフレ高止まりが続くなら「利上げが必要」との意見も多く、市場では早期利下げ期待がさらに後退した。利下げ開始時期の市場予想は9月頃まで後ろ倒しにされており、インフレが収束しない場合は利上げの可能性も排除しないといったタカ派姿勢が強まる可能性がある。
日本:経済指標・金融政策動向
日本では8日、賃金、労働時間及び雇用の変動を明らかにすることを目的に厚生労働省が実施する調査である毎月勤労統計(2月分速報)が発表された。2月の毎月勤労統計では、賃金の底堅い伸びが確認された。共通事業所ベースの所定内給与(一般労働者)は前年比+3.1%となり、1月(同+2.7%)から伸びが加速した。現金給与総額も前年比+3.3%と市場予想(+2.7%)を大きく上回った。名目賃金の伸びに加え、政府の補助金効果で物価の伸びが鈍化したことにより、名目賃金から物価変動の影響を除いた実質賃金は前年比+1.9%とプラス圏に転じた。今回の上振れにはサンプル入れ替えの影響も含まれるが、2025年春闘の結果が幅広く波及しており、賃金上昇率が3%台で推移している可能性が示唆された。これは日銀の利上げ姿勢を後押しする材料となる。赤澤経産相が物価高対策として「日銀の利上げも選択肢の一つ」と言及するなど、政府側の利上げ許容度が高まっている可能性もあり、今後の政府・日銀からの情報発信に注目したい。
中東情勢
米国とイランの交渉期限(日本時間8日午前9時)直前、パキスタンの仲介により、トランプ大統領は2週間の停戦に同意した。停戦は「イランによるホルムズ海峡の完全・即時・安全な開放」を条件とした。しかし、イスラエルが「レバノン(ヒズボラ)は停戦合意の対象外」として大規模な攻撃を継続。これを受け、イランはイスラエルの攻撃を合意違反と主張し、ホルムズ海峡を再び封鎖すると表明、無許可の船舶を破壊すると警告し、再び中東情勢の緊迫感が高まった。
現地時間4月11日、パキスタンのイスラマバードで、米国のバンス副大統領とイランのガリバフ国会議長らによるトップレベルの直接協議が行われた。協議は核開発問題(ウラン濃縮の権利)や制裁解除を巡る相違を埋められず、合意に至らず決裂。米側はイランが提示した10項目を「受け入れ難い」とし、核開発放棄をレッドライン(譲れない一線)とした。
協議決裂を受け、トランプ大統領は4月12日、米国海軍によるホルムズ海峡の全面的な海上封鎖(逆封鎖)を開始すると表明した。米国は海峡における機雷除去任務を開始するとともに、海域の管理権を掌握する姿勢を示した。イランに通航料を支払った船舶は全て米海軍が拿捕するとし、イランの資金源を完全に遮断する狙いがある。トランプ大統領は「ある時点であらゆる船舶が海域を出入りできるようになる」と述べ、米国主導での航行正常化を強行する意向だ。イラン側は、ホルムズ海峡に米軍艦が接近した場合は停戦違反とみなし、戦闘を再開する構えを見せている。
今後は、2週間の停戦期限を待たず、逆封鎖を巡る攻防から米国・イスラエルによるイラン本土への攻撃が再開されるかが最大の焦点となる。
今週の注目材料と米ドル/円の見通し
日銀関連では、13日に植田総裁が信託大会で挨拶(氷見野副総裁が代読)、16日にG20財務相・中央銀行総裁会議後の植田総裁会見が予定されている。市場では、中東情勢による原油高と円安を背景に、4月利上げの確率を3割程度織り込んでいる。植田総裁から4月利上げを示唆する発言があれば、円の一定の支えとなる。しかし、中東情勢の不確実性が高すぎるため、明確なガイダンスは回避される可能性が高い。
今週の米ドル/円は、停戦協議破談と米国による海峡封鎖により、ドル買い戻しが強まる見込み。原油価格が再び100ドルを上抜けて高止まりすれば、日本の貿易収支悪化懸念も加わり、米ドル/円は160円台への再浮上と定着を試す可能性が高い。
米ドル/円が160円を突破した場合、当局より牽制が入る可能性も想定され、上値も重くなることが予想される。