円高進行で米ドル円が一時155円まで急落した理由を解説

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2026年09月07日

円高進行で米ドル円が一時155円まで急落した理由を解説


先週は、ベッセント財務長官による円安是正への圧力や日銀の高田審議委員の発言を受けた日銀利上げ加速観測、GPIF資産構成見直しに関する思惑から円高が進み、週初160円台で推移していた米ドル/円は一時155円台前半まで5円近く急落する展開となった。

ベッセント財務長官は、G20財務相・中央銀行総裁会議の期間中、繰り返し日銀による早期利上げへの期待感を強く示唆し、9月の日銀金融政策決定会合に向け、外堀を埋めにかかった。米国側には、円安と円金利上昇が進み、その影響が米国債市場にも波及する事態を避けたいとの思惑があるとみられる。このため、円相場の安定だけではなく、日本のインフレ抑制に繋がる政策対応も重視していると考えられる。

円相場が依然として無秩序な動きを見せているかとの問いに、「いや。かなり抑制されていると思う」    
円安是正のため日銀が追加利上げを検討すべきかとの質問に対し、植田総裁が高市首相の支持‌を得て、金融政策で「正しい判断を下す」と期待している                               
出典:円の動き「かなり抑制されている」、無秩序ではない=米財務長官                  

The Secretary emphasized the importance of sound formulation and communication of monetary policy to anchor inflation expectations and avoid excess exchange rate volatility.                                                       
Secretary Bessent also expressed strong support for Japan’s decisive market and monetary steps to address the substantial undervaluation of the yen and noted the role of yen weakness in contributing to domestic inflationary pressures in Japan.  
                                                             
ベッセント財務長官は、インフレ期待を安定させ、過度な為替変動を回避するために、金融政策を適切に策定し、伝達することの重要性を強調した。                                  
さらにベッセント長官は、円の大幅な過小評価に対処するための日本の断固たる市場・金融面での措置に強い支持を表明するとともに、円安が日本国内のインフレ圧力の一因となっている点に言及した。    
出典:READOUT: Secretary of the Treasury Scott Bessent's Meeting with Bank of Japan Governor Kazuo Ueda    

また、9月1日付のニューヨークタイムズは、邊銭と財務長官が日本の経済政策の方向性に不満を表明していたと報じた。今後は、政府・日銀がそれぞれインフレリスクにどのように対応するかが焦点となる。金融政策面では、9月日銀会合での政策判断と、今後の利上げペースに関する植田総裁の発言が注目される。高市政権の政策転換を見極めるには今後の予算編成や財政運営を確認する必要がある。

Over two hours, Mr. Bessent, who closely followed the country’s economy as a hedge fund manager, unloaded his frustration with the economic direction set by the Japanese leader. Ms. Takaichi had expanded government spending while leaning on the Bank of Japan to keep interest rates low. The strategy was driving capital out of Tokyo, sending Japan’s currency to four-decade lows.                 
                                                             
2時間にわたり、ヘッジファンド運用者として日本経済を注視してきたベッセント氏は、日本の首相が定めた経済路線への不満をぶちまけた。高市首相は政府支出を拡大する一方で、日銀に金利を低く抑えるよう圧力をかけていた。この戦略は資本を東京から流出させ、日本の通貨を約40年ぶりの安値へと押し下げていた。                                                      
出典:The Woman at the Center of Japan’s Currency Fight(New York Times)

翌日2日、日銀の高田審議委員が講演と記者会見を行った。高田委員は、利上げの間隔や幅について、従来の半年に1回や25bpずつといった固定的な考え方にとらわれず、経済・物価情勢に応じて機動的に判断する必要があるとの考えを示した。一般論として、連続利上げの可能性にも言及した。

為替市場においては、日銀が利上げに踏み切っても、円高方向への反応が鈍い状態が長らく続いていた。その要因としては、日銀の利上げの進め方が緩慢であり、インフレを抑え込むには力不足ではないかという不安があったものと考えられる。日銀が政策対応の後手に回っている、いわゆるビハインドザカーブの状態にあるとの認識から、インフレ期待が十分に抑制されず、実質金利が上がりにくい環境となっていた。ベッセント財務長官の発言が注目を集めるなか、高田審議委員の発言を受けて日銀の利上げペースが加速するとの期待が高まった。これにより、インフレの上振れや政策対応の遅れに対する市場の懸念が和らぎ、円買いにつながったとみられる。

また、GPIFが8月に異例ともいえるタイミングで経営委員会を開催したことも円買い材料になったとみられる。GPIFの経営委員会は、基本ポートフォリオ等の策定・変更などの意思決定を行う機関であり、8月には開催しないのが通例とされている。8月に開かれたのは5年に1度の基本ポートフォリオ見直しが議論された2019年以来7年ぶりとなる。議事次第では、基本ポートフォリオ検証が議論されていたことが確認でき、足元の本邦金利上昇を踏まえ、ポートフォリオ見直しの検討を進める可能性がある。市場では、基本ポートフォリオ見直しによって外貨資産を売り、円債投資を増やすとの思惑が広がり、円高が進行した。

世界最大の政府系ファンド、ノルウェー政府年金基金グローバルの運営主体であるノルウェー中央銀行投資管理部門(NBIM)も、保有国債ポートフォリオの抜本的見直しの一環として、米国債の保有削減(34.1%→21.9%)や日本国債の投資配分の引き上げ(4.6%→7.4%)を提案したと報じられている。変更が正式に決まれば、早ければ2027年にも新たな配分への移行が始まる可能性があり、日本国債及び円への一定の支援材料となるだろう。

これらの材料を背景に米ドル/円は、一時155.30円まで下落した。テクニカル的には、介入後の安値である155.23円(8月3日)や155.04円(5月6日)が意識され、4日の8月雇用統計次第では、これらを明確に下抜け、下値模索の動きが加速する可能性が高い状況で雇用統計を迎えた。

8月雇用統計は、非農業部門雇用者数が市場予想を大きく上回る結果となり、米ドル/円は155円割れを回避した。雇用者数の伸びをけん引したのは、7月に低調だった業種だった。レジャー・接客業の雇用者数は、7月まで2ヶ月連続で減少していたが、8月には前月比6.2万人増加した。地方政府教育でも、雇用者数の反動増がみられ、前月比5.8万人減となった7月に対し、8月は同+4.2万人増加した。

平均時給の前年比の伸びは鈍化が続いている。企業の新規採用意欲の弱さが、賃金の伸びの鈍化に繋がっているとみられる。賃金の伸びが低調なことにより、インフレリスクは抑えられており、インフレ圧力という観点からは9月利上げ期待を押し上げる内容ではなかった。FRBは9月FOMCでの政策判断にあたり、11日に発表される8月CPIを重視することになる。

ウォラー理事は3日、最近のデータにみられるディスインフレ(インフレ減速)の兆候が今後も続くなら金利据え置きを支持すると述べた一方、8月のCPIでインフレの改善が一時的であったことが示された場合には、9月FOMC(9/15-16)での利上げを行うことが適切になる可能性があると述べている。

CPIが上振れてFRBの利上げ観測の高まりとともにドル高が進み、米ドル/円が再び160円を目指すのか、CPIが下振れてドル安が進み、米ドル/円が再び155円割れを試すのか、今週のCPIに注目が集まる。米ドル/円が155円を明確に割り込むと、円安トレンドが転換する可能性が高い。


著者プロフィール

鈴木翔

鈴木翔

地方銀行、ネット銀行の運用部門で国内外の債券や株式などのディーラーを経験。松井証券に入社後はディーラーの経験を活かし、マーケットアナリストとして金利動向を踏まえた市場分析や、機関投資家・個人投資家などの投資家動向を組み合わせたマーケット情報などを提供している。


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