米ドル/円 レンジブレイクの条件は?
先週の振り返り
パキスタンで行われた米国とイランの直接協議が週末に合意に至らず決裂したことやトランプ大統領がホルムズ海峡の封鎖開始を宣言したことで、週明け13日の為替市場ではドル高が進行。米ドル/円は一時159.86円まで上昇した。
しかし、その後トランプ大統領が「イラン側は合意を望んでいる」と楽観的な姿勢を示し、週内にも2回目の協議が開催される可能性が報じられると、市場の警戒感は後退し、ドル安進行となった。14日には3月の米生産者物価指数(PPI)が市場予想を下回り、FRBの利下げバイアスが維持されるとの見方が強まったこともドル安を後押しし、158円台後半まで水準を切り下げた。
15日以降は、米イランの第2回和平協議の行方や21日に期限を迎える停戦の延長検討を見極めたいとの思惑から、159円を挟んで膠着状態となる中、16日の東京時間、G7財務相・中央銀行総裁会議後の会見において、三村財務官が為替について「財務官レベルでの緊密な日米連携を確認した」と述べ、さらに片山財務相が「必要なら断固たる措置を取る」と強い牽制を行い、一時158.27円まで急落した。
しかし、片山財務相がG7で「海外中銀の多くは様子見のフロア(段階)」との声が多かったと述べたことや、景気下振れリスクを懸念する発言があったことで、市場では4月の日銀会合での追加利上げ期待が急速に低下(利上げ確率は2割未満へ)した。このため円買いは持続せず、米ドル/円は再び159円台を回復した。
17日には、イランのアラグチ外相がSNSにおいて、イスラエルとレバノンの停戦に合わせる措置として、「ホルムズ海峡はすべての商戦を対象に完全に開放される」と明言。米国がイランに対して「現金200億ドルとウランの交換取引」を検討しているといった、和解に向けた具体的な進展を示唆するヘッドラインも見られた。これを受け、ドル安が進行。米ドル/円は157.59円まで下落した。
米イランからの情報発信を受け、協議進展への期待が広がったとみられたが、週末の取引終了後にイラン革命防衛隊がホルムズ海峡の再封鎖を発表したことや米軍がイラン船舶を拿捕したことなどが伝わり、週明けの米ドル/円は、一時159円台を回復する場面が見られた。
日銀の利上げ期待が低下
13日:植田総裁の信託大会挨拶
氷見野副総裁が代読した挨拶において、植田総裁は「中東情勢がなお不透明な状況にある」と述べ、その経済・物価への影響を注視・点検する必要性を強調した。実際の利上げ時期にはコミットせず、景気の下振れリスクにも目配りした内容であったことから、市場では4月利上げに慎重になったとの受け止めが広がった。
16日:片山財務相によるG7での発言
G7財務相・中央銀行総裁会議に出席した片山財務相は、「海外中銀の多くは様子見のフロア(段階)」との声が多かったと述べ、日本での拙速な利上げが経済に悪影響を及ぼす可能性を指摘。これは日銀に対する利上げ牽制と解釈され、利上げ期待をさらに押し下げる要因となった。
17日:G7後の植田総裁会見
ワシントンでの会見において、植田総裁は4月会合での判断について明言を避けたが、「物価の上振れと景気の下振れの両方のリスクがある」とし、利上げに前のめりな発言は見られず。一方で、日本の実質金利が非常に低く緩和的である点について改めて指摘した。
これら一連の動向を経て、OIS(円金利スワップ)市場が織り込む4月会合での利上げ確率は、週初の55%程度から、週末には2割未満(約16〜18%)へと大幅に剥落。先週は中東情勢の改善期待によるドル安圧力と、日銀の利上げ見送り観測による円安圧力が拮抗し、米ドル/円は介入警戒感もあって上値の重い展開となった。
今週の注目材料と米ドル/円の見通し
今後数週間の市場は、引き続き中東情勢の進展と、それを受けた各国中央銀行の政策姿勢に大きく左右される展開が見込まれる。4月8日に米イランによって合意された2週間の停戦が期限を迎える。停戦が延長されるか、あるいはより恒久的な和平合意に向けた第2回直接協議が実現するかが最大の焦点となる。イランによる海峡開放表明とその撤回、米国によるイラン船拿捕など、航行の正常化を巡る状況は極めて流動的であり、原油価格を通じて為替に波及することになる。
米国では、ウォーシュ次期FRB議長候補の上院公聴会が4月21日に予定されている。トランプ大統領の利下げ要求に対する姿勢やFRBの独立性、バランスシート政策に関する発言が注目される。経済指標では、21日に3月小売売上高、23日に4月PMI速報値などが公表される。原油高によるインフレへの波及リスクやスタグフレーション懸念の有無を確認する機会となる。
米ドル/円は、中東情勢の緊張緩和を期待したドル安圧力と、日銀の利上げ期待後退に伴う円安圧力の板挟みとなり、高値圏(157円〜162円)でヘッドラインに左右される展開が続くことが見込まれる。上昇要因は、日銀の利上げ期待後退による円安進行だ。日銀の4月利上げ期待は現在2割未満まで低下しており、利上げが見送られた場合は「ビハインド・ザ・カーブ(対応の遅れ)」への懸念から、円が売られやすくなる。原油価格が高止まりする間は、貿易赤字を通じた実需の円売りがドル円の下支えとなる。
下落要因は、中東情勢の行方だ。米イランの和平協議が進展し、原油価格が明確に調整すれば、有事のドル買いが巻き戻され、米ドル/円の下押し圧力となる。160円を突破し、24年7月高値161.95円に近づくにつれ、日本当局による円買い介入が強く意識され、上値が重くなるだろう。