為替介入後も円安ドル高が続く理由
振り返り
週明け18日から19日にかけて、米ドル/円は159円台に向けてじり高の展開となった。背景には、ホルムズ海峡封鎖の長期化懸念に伴う原油価格の高止まりや、米長期金利の上昇、さらに国内では高市首相による補正予算編成の指示を受けた財政悪化・国債増発への警戒感があった。19日にはベッセント米財務長官の「過度な変動は望ましくない」とのSNS投稿を受けて一時158.65円まで急落する場面もあったが、イラン情勢への不透明感から円安ドル高の地合いは強く、159.25円まで上昇した。
20日から21日にかけては、トランプ米大統領の「イランとの交渉は最終段階にある」との発言をきっかけに下落した。サウジアラビアのメディアが合意の最終案提示について報じたことも相まって、市場では和平交渉への期待が急速に高まり、WTI原油先物価格が100ドルを割り込むまで急落した。これに伴い米金利も低下し、ドル全面安の展開となったことで、一時158円台半ばまで値を下げた。
22日は、159円を挟んだ小動きとなった。東京時間には、小枝日銀審議委員が講演で「基調的なインフレ率は既に2%ぐらいになってきている」と述べ、利上げに前向きな姿勢(タカ派的スタンス)を示した。これが円の下支えとなり、上値を抑える要因となった。NY時間には、中東情勢を巡る「米国の新和平案に対しイランがポジティブな反応を示した」といった報道や、米国の製造業PMIが好調だったことなど、強弱入り混じる材料の中で方向感のない動きとなり、159円ちょうど近辺で先週の取引を終えた。
為替介入への警戒感
米ドル/円が159円台を回復する中、本邦当局による口先介入が上値を強く抑制した。片山財務相による「断固たる措置を取る時は取る」といった強い牽制発言に加え、米国のベッセント財務長官もSNSで「過度な為替変動は望ましくない」と投稿したことが円買いを誘発し、一時的に158円台半ばまで急落させる場面もあった。市場では心理的節目である160円が防衛ラインとして意識されており、これを超えた場合の実弾介入への警戒感が、投資家の積極的な上値追いを阻んでいる。
将来的には、160円を再び突破する動きが見られれば、当局が再介入に踏み切る可能性が高いだろう。一方、当局からの明確な円安是正メッセージや具体的な対応がなかった場合には、投機筋による円売りが加速し、再び160円の大台を試す展開となるリスクが残っている。
日銀の金融政策と利上げ観測
5月に入り、増審議委員や小枝審議委員から「適切なペースでの利上げが必要」といったタカ派的な発言が相次いだことで、6月利上げへの期待は維持されている。特に小枝委員が、基調的なインフレ率が既に2%程度にあるとの認識を示し、物価上昇リスクを強調したことは、市場の利上げ織り込みを8割程度まで押し上げた。
今後、6月会合で実際に利上げが実施されれば、インフレ懸念が落ち着き円安進行が一服する可能性がある。逆に利上げが見送られた場合、債券市場のインフレ期待がさらに上昇し、一段の円安を招く恐れがある。また、国内の補正予算編成を巡る政治的な低金利圧力が、日銀の政策自由度を制限する懸念も依然として燻っており、植田総裁が「必要なことをする余地」を確保し、タカ派的なスタンスを維持できるかが今後の米ドル/円の行方を左右する。
国内の財政政策
高市首相による2026年度補正予算の編成指示は、日本の財政悪化や国債増発への警戒感を急速に高めた。これにより日本の長期金利は一時2.8%まで急騰したが、これは通常の円高要因ではなく、財政規律への懸念を背景とした円売りを誘発する結果となった。中東情勢が緊迫化し、原油価格が高止まりする中で財政拡張路線が強まることへの警戒が、金利上昇と円安の同時進行につながった。
今後は、補正予算の規模(3兆円程度との報道)や財源が赤字国債に大きく依存するかどうかが焦点となる。政府が決算剰余金の活用などで国債増発を抑制し、財政規律に配慮した姿勢を明確に示せば、円安圧力は緩和される可能性がある。しかし、追加の現金給付などで予算が膨張し、財政規律への信認が揺らぎ続ければ、金利上昇・円安が一段と進行する可能性がある。
米国の金融政策とFRBの新体制
米国のインフレ高止まりと底堅い労働市場を受け、FRBによる早期利下げ期待が大きく後退したことでドル高基調が続いている。4月のFOMC議事要旨で、大多数の参加者がインフレ持続時の「引き締め」に言及していたことが明らかになり、タカ派的と受け止められた。トランプ大統領も早期利下げを求めない考えを示唆し、利下げ圧力をトーンダウンさせたことがドルの下支えとなった。
今後については、ウォーシュ新議長の下でも、インフレ鈍化の確かな兆しがない限り、早期の利下げは行われないとの見方が強まっている。ホルムズ海峡封鎖が長期化し、市場が「利上げ」を本格的に織り込み始めれば、米長期金利が一段と上昇し、米ドル/円を押し上げる可能性がある。来週以降のFOMCメンバーによる相次ぐ講演で、インフレ抑制を優先するタカ派的な姿勢が再確認されれば、米ドル/円の下値は極めて限定的となり、高止まりの展開が続くだろう。
今週の注目材料と米ドル/円の見通し
米国では、週明け25日はメモリアルデーの祝日で休場。28日には、4月コアPCEデフレータが発表される予定で、市場では前月比+0.3%程度と高めの伸びが予想されている。さらに同日には、1-3月期GDPの改定値や耐久財受注などの重要指標も重なる。金融政策面では、ウォーシュ新FRB議長の金融政策スタンスやメディア報道が注目されるほか、ジェファーソン副議長やウィリアムズNY連銀総裁など、FOMCの中心メンバーによる講演が相次ぐ。これらの発言を通じて、当局が依然として利下げの可能性を残しているのか、あるいはインフレ高止まりを受けて利上げの条件を提示し始めるのかが、市場の大きな関心事となる。
日本の注目材料としては、財政政策の具体化と日銀による情報発信、そして週末の経済指標が焦点となる。25日には高市首相が2026年度補正予算の詳細について具体的な説明を行う予定となっている。27日には、植田日銀総裁が国際コンファレンスで挨拶を行うが、これは専門的な内容が中心となるため、短期的な政策運営への言及は限定的との見方もある。29日には、日銀の追加利上げ判断を占う上で極めて重要となる5月東京都区部CPIが公表されるが、補助金終了や食品価格の動向といった一時的要因が強いため、日銀の姿勢に与える影響は限定される可能性がある。また同日には、4月30日以降の「実弾介入」の総額を示す外国為替平衡操作実施状況も判明する。
中東情勢の膠着により原油価格が高止まりし、インフレ懸念が払拭されない場合、米ドル/円は再び160円の節目を試す可能性がある。米国の経済指標(PCEデフレータ等)が強く、FRBメンバーからタカ派的な発言が相次げば、下値余地は極めて限定的となる。
一方、ホルムズ海峡の開放に向けた機運が高まれば、原油安・米金利低下とともに米ドル/円は下落に転じる可能性がある。また、160円に接近する場面では、本邦当局による実弾介入への警戒感が強く、上値を抑える重石となる。さらに、日銀審議委員による相次ぐタカ派発言を受けて、6月の追加利上げが強く意識されれば、円を買い戻す動きが強まることも考えられる。