エヌビディア決算:市場イベントと金利の方向性
マーケットアナリスト大山です。今週も宜しくお願いします。
【今週のコラム要約】
相場の真ん中にあるのは、米国債利回りの上昇という材料です。米ベッセント財務長官から長期国債の買戻し規模を拡大する計画が出ていますが、投資家はこれをシーソーのように「バイバック(長期金利の抑制)vs財政赤字(金利上昇圧力)」の力学として捉え、"まだダメだろ?"と見ている感じがあります。
米国長期金利の上昇は、本当に、ダムの決壊寸前を見ているよう・・・でもあります。
ベッセント財務長官の出したバイバック案、報道は「期間の長い名目利付債を対象とした流動性支援の買い入れオペを、1回当たり20億ドルから少なくとも40億ドルへ倍増する(Reuters 8/20)」と伝えています。
今回のニュースは、米政府が「売れ残ってお店の棚で邪魔になっている古い長期国債を、短期の借金で手に入れたお金を使って、これまでの2倍のペースで買い取ってあげるよ」と発表した、ということです。一見、国が借金をどんどん返しているように見えますが、実態は全く違います。
先ず単純に考えて、たとえ倍増しても年間の買戻し総額はせいぜい数百億ドル規模。これに対し米連邦政府の債務総額は約40兆ドルですから、比べれば0.1%にも満たないのです。規模だけ見れば、完全に焼け石に水です。しかも買い入れの原資は短期国債の発行ですから、長期でお金を借りられない会社が短期資金で回す"自転車操業"と構図は同じ、とも言えます。
米国の借金を減らす効果はゼロですが、この目的は、国債の取引はいつでもスムーズにできますよ、という投資家を安心させる演出だと言えます。
ここまで数年、米国の高金利は特に対円でのドル高・円安要因でした。ですが、本当に米国の金利上昇が止まらなくなったら、いつかドル安要因に豹変しないのか。
もちろん、その前に金利が蓋を突き抜けて上昇する局面が来るはずですので、この先数か月から半年くらいのスパンで見ていきたいと思っています。筆者は為替の担当ではありませんが、私はこう考えています。
まず、いちばん言いたいこと
今週いちばんお伝えしたいのは、「みんなが身構えているほど、待ち望まれた急落は来にくい」という一点です。今週はエヌビディアの決算(日本時間27日早朝)と、27〜29日のジャクソンホール、28日のウォーシュFRB議長の基調講演という二大イベントが控えます。市場はこれを相当警戒しています。ですが、警戒が強いということは、価格にはすでに"悪いこと"がある程度織り込まれている、ということでもあります。イベントが無難に通過するだけで、警戒の巻き戻し(悪材料出尽くし)が起きやすい地合いだと見ています。
ウォーシュ議長はフォワードガイダンスに消極的な姿勢を貫いてきました。今回もこのスタンスは続くとみられ、「だから…何?」的な方針継続の表明にとどまるのではないか?インフレに触れ、雇用にも触れて、普通に終わる可能性のほうが高いのではないか、と私は考えています。今の金利急騰は、このタカ派スタンスを見過ぎている面もある気がします。
米国金利は"三段構え"で見ています
一段目。バイバックは焼け石に水、と市場はすでに採点済みです。発表直後に長期金利が一瞬垂れても、すぐ元の水準へ戻る展開が繰り返されています。賞味期限切れ、と即ジャッジされているわけです。
(米30年債利回りは7月初の約4.97%から8/17に5.31%と19年ぶり水準へ。ベッセント発表で一瞬5.19%へ垂れたのに、20日にはもう5.24%へ回帰しています。介入前水準に戻ったわけで、「はい、賞味期限切れ」と即ジャッジされたということです。債券利回りは全てLSEG資料から)
二段目。これまで米国の長期金利が急上昇しないでいられたのはFRBと財務省の役割が機能してきたから。FRBがQE(量的緩和:国債を大量購入)を行わない中で、いったい誰が長期債を買うのでしょうか。
FRBはバランスシートを縮小し、ウォーシュ議長はフォワードガイダンス(見通し)を封印しました。これまで政府の借金コストを人為的に抑えてきた"FRBと財務省の二人三脚"が、機能を止めつつあります。
伝統的な買い手(外国政府など)が引くのなら、需給の調整弁は「価格=もっと高い利回り」しか残りません。今の金利上昇は、"危機"であると同時に"正常化"でもある、という2つの顔が有ります。この2枚看板が厄介なところです。
三段目。だから為替の豹変点はまだ先、というのが私の整理です。財政不安を伴う"悪い金利上昇"が主役になれば、ドル売りに変質しうる。ただし、その手前で一段の金利急騰がないと成立しません。当面は「金利低下=即円高」も「金利上昇=際限なきドル高」も、どちらの単純連想も禁物、という宙ぶらりんの局面だと見ています。
米国金利を三段に分けてお話ししましたが、根っこは一つです。
「支え役(買い手)が細っているのに、借金は増え続けている」。だから金利は上がりやすく、小さな対策では止まりにくい。そしてこの流れがどこかで為替の風向きまで変える可能性がある――そこを数か月から半年のスパンで見ていきたい、ということです。
本題:AIは"単一リスク"であることを忘れずに
ここは強気の裏側として、必ず併記しておきたい点です。AIマネーは株だけでなく、社債発行を通じて長期金利の一因にすらなっています。だからこそ、AIが崩れれば株も債券も金利観も同時に揺れるのです。
少数の巨大テック企業に時価総額が集中している以上、集中は効率であると同時に、脆さでもあります。
「強気に乗るなら、単一リスクへの過度な集中は避ける」という前提を、ぜひセットで持っていただきたいのです。
個別への落とし込み――エヌビディア×メモリは同じコインの裏表
そのうえで、個別のテーマに落とします。エヌビディア決算の焦点は、約75%という高い粗利率を維持できるかどうかです。次世代「ルービン」への量産移行で歩留まりが一時的に落ちる警戒はありますが、同社は中国向けデータセンター売上を会社予想・コンセンサス双方から除外済みで、ここは構造的な上振れ余地とも読めます。決算起点で大きく崩れる土壌ではない、というのが筆者の見立てです。
そして注目したいのがメモリです。マイクロンの経営陣は「供給が需要に追いつけない状況に終わりは見えない」と語り、データセンター顧客は現状の供給約束量の大幅増を求め、複数年のtake-or-pay契約で需要の可視性は過去サイクルと段違い、と伝わっています。新工場の量産は2027年半ば以降で、逼迫は2027年を越えて続く公算。SKハイニックスやサムスンの大規模な株主還元計画も、当事者たちの需給観の強さの裏書きと受け取れます。メモリの逼迫がエヌビディアの出荷を規定し、エヌビディア決算がメモリ需要の確度を映す。まさに同じコインの裏表です。関連銘柄としてマイクロン・テクノロジーの動向は、決算前後の一つの温度計になります。
日本株への伝播――"時間差"がポイントです
メモリ強気が本物なら、その恩恵は米韓の半導体だけにとどまりません。DRAM・HBMの逼迫は、①製造装置、②検査・後工程、③素材・部材、という日本が強い"川上〜川中"へ順番に染み出してきます。HBM増産=前工程投資=日本の装置・材料需要、という導線でつながっているわけです。メモリメーカーが能力増強に踏み切れば、その設備投資の受注は数四半期先行して日本勢の受注残やガイダンスに乗ってきます。メモリの強気は"時間差"で日本の半導体サプライチェーンに波及する、というのが柱に据える理由です。
しかも足元は、この伝播がまだ株価に十分織り込まれていないように見えます。米ハイパースケーラーやメモリ本体には強気が集まりやすい一方、その一次・二次サプライヤーである日本の装置・素材株は、"間接的だから"という理由で確信が一段薄い・・・、ここに「認識と行動のギャップ」と同じ構図があると感じます。
ただし逆回転もセットで意識しておきます。エヌビディア決算やメモリ需給が失速すれば、この伝播経路はそのまま下方向の増幅装置に変わります。前工程投資は需要観が崩れた時の受注の引きが速い。単一リスク(AI)の触手は、日本の半導体サプライチェーンにも同じように伸びている、という点は併記しておきます。
まとめ
今週は、金利(三段構え)・AI単一リスク・エヌビディア×メモリ、という三本の糸が一点で絡む週です。中心シナリオは「みんなが身構えるほど、待ち望まれた急落は来にくい」。イベント直前の持ち高調整で一時的に振れる場面があるかもしれませんが、そこは慌てず、各人の時間軸で判断していただきたいと思います。
注視ポイントは、株価水準そのものより、エヌビディアの粗利率とFCFの行方(株主還元)、イベント通過後に長期金利がどこへ落ち着くかの二つ。この二つが、今週の相場の"答え合わせ"になります。