中銀ウィーク通過で見えた円高の兆し
10月最終週の中銀ウィークでは、日米欧の中央銀行がそろって政策金利の据え置きを決定した。しかし、金融環境については見方が分かれた。日銀に先立って開催されたFOMCとECB理事会では、ウォーシュFRB議長、ラガルドECB総裁ともに、金融環境が引き締まったと指摘した。一方、日銀は展望レポートで、金融環境は「緩和的」との判断を示した。日米欧における金融環境の違いが、円のトレンド転換につながる可能性があるとみている。
FOMCサマリー
政策金利を3.75〜4.00%に据え置くことを決定した(賛成10、反対2)。クック理事とハマック・クリーブランド連銀総裁の2名が25bpの追加利上げを主張して反対票を投じた。声明文では、景気認識を「力強く拡大している」へ上方修正し、個人消費や設備投資の強さを強調した一方、インフレ率は「依然として高すぎる」とし、適切な政策スタンスの見極めに向けたデータ蓄積の重要性を指摘した。
ウォーシュ議長は、9月利上げ以降、市場参加者が投資先を選別するようになり、一部の資産では信用スプレッド(国債との利回り差)が拡大するなど、金融環境に引き締まりの兆候がみられると言及した。ただし、「全体として金融環境は引き締まってはいるものの、それを『引き締め的』と呼ぶ気はないし呼ぶこともできない」と述べ、完全にタイトな状態と断定することは避けた。
ECB理事会サマリー
政策金利を2.5%に据え置くことを全会一致で決定した。会合では追加利上げの妥当性も議論されたが、エネルギー価格の再上昇に伴うインフレ上振れリスクと景気下押しリスクが警戒されたものの、基調的インフレや賃金への二次的波及は落ち着いていると判断して見送られた。また、ラガルド総裁が2027年2月に任期満了を待たずに退任することが公表された。
声明文では、前回会合以降、金融環境が引き締まっており、今後の物価と成長を押し下げる要因になるとの表現が追加された。ラガルド総裁も長期金利が上昇すれば、需要が抑えられ、インフレも押し下げられる可能性があると指摘した。先行きの金融政策については、「状況が変わらなければ今後の方向性は極めて明確」とし、12月理事会での追加利上げの選択肢を残している。
日銀金融政策決定会合サマリー
政策金利を1.25%に据え置くことを決定した。高田審議委員が1.50%への利上げを提案し反対票を投じたが、反対多数で否決された。なお、前回9月会合で利上げに反対した浅田・佐藤両委員は今回の据え置きに賛成した。
今回の会合における最大の注目点は、基調的な物価上昇率が「2%の物価安定の目標」と概ね整合的な水準に達したと事実上認定されたことだ。これにより、政策運営の局面はインフレ率を「2%へ引き上げる」段階から「2%程度で安定・定着させる」段階へ移行した。
サプライズとなったのは、日銀が保有するETFの売却ペース加速の決定だ。日銀は年間売却ペースを、2027年1月より簿価ベースで約3,300億円から約8,600億円(時価ベースで約2.46兆円)へと引き上げる。売却完了までに要する期間は約112年から約43年に短縮されるが、株式市場全体の売買代金に占める割合は0.1%程度にとどまるため、市場への直接的な影響は限定的とみられる。
展望レポートでは、実質金利はこのところ上昇しているものの、短中期ゾーンを中心になお低い水準にあり、企業や銀行の資金調達環境も良好であることから、「緩和した状態が維持されている」との判断が示された。
植田総裁は記者会見で、「次回会合を含めて毎回の決定会合で」経済・物価・金融情勢を点検し、利上げの必要性を判断していくと表明した。基調物価が2%を超えて上振れるリスクを防ぎ、2%程度で安定・定着させるため、今後も経済・物価情勢に応じて政策金利を引き上げ、金融緩和の度合いを調整していく方針が再確認された。
今後の見通し
米国では、景気拡大やインフレの高止まりが続く一方で、AI関連企業の設備投資や債務膨張への懸念、クレジット・スプレッドの拡大といった金融ストレス・信用不安の兆候が見られ、追加利上げに対して慎重な様子見姿勢が強まっている。欧州でも、原油・天然ガス価格の上昇による物価上振れリスクが高まる一方、フランスの財政再建難航に伴う長期金利上昇など財政不安が金融環境を過度に引き締め、需要を抑制するリスクとなっている。
一方、日本は実質金利がマイナス圏にとどまり、金融環境が依然として緩和的だ。欧米中銀と比較して政策金利の水準が極めて低いことから、金利を中立水準に向けて引き上げる余地が相対的に大きく残されている。また国内では、政府によるガソリン補助金の段階的縮小や原油価格の上昇に伴うコスト増が懸念されている。こうした原材料やエネルギーの既往のコスト上昇分を企業が幅広い品目に価格転嫁する動きが継続しており、全国CPIコアは2027年初にかけて前年比+3%を超える可能性がある。
日銀はこうしたインフレ上振れリスクに対応し、ビハインド・ザ・カーブを回避するため、次回12月会合で1.50%への追加利上げを行い、その後も3カ月周期で利上げを継続する公算が大きいと見込まれている。利上げに慎重姿勢を強める欧米と中立金利に向けて粛々と利上げを進める日本という金融政策スタンスの明確な対比から、日米・日欧の金利差縮小や円安圧力が後退し、円は年末から来年にかけて円高方向に推移する可能性があるとみている。