米雇用統計悪化も米ドル/円の反応が限定的だった理由

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2026年08月10日

米雇用統計悪化も米ドル/円の反応が限定的だった理由


先週の振り返り

8月3日の米ドル/円は、157円台半ばから一気に155円台前半まで急落した。3日の東京時間には、片山財務相による「米国財務省と協調して円買い介入を実施した」との談話に加え、ベッセント米財務長官がSNSでこれを全面的に支持する投稿を行ったことが、市場に強い「円安阻止」のメッセージとなり、円買い材料となった。

しかし、その後は実需勢の円売りドル買いなどが見られる中、値を戻す展開となった。6日のNY時間には、ホルムズ海峡の通行を巡るイランとオマーンの合意内容が、米国やイスラエルの船舶通行を禁止するなど期待外れのものであったことから、原油価格が上昇。また、ウォーシュFRB議長が「インフレ指標次第で9月利上げの用意がある」とフィナンシャル・タイムズ紙が報じたことを受け、米利上げ観測が再燃した。これらの材料をきっかけに米ドル/円は158円台を回復した。

週末7日に発表された米雇用統計は、非農業部門雇用者数が減少に転じるなど市場予想を大きく下回る結果となった。これを受けて一時的にドル安が進行したものの、米ドル/円の下げは157円台後半に留まり、限定的な反応となった。


片山財務相の談話とベッセント財務長官のX投稿:日米通貨同盟の深化

8月3日の朝、片山財務相は「米国東部時間7月31日、日本国財務省は米国財務省と協調して円買い介入を実施した」と発表した。ベッセント米財務長官もXにおいて「円の無秩序な動きに対処した」「さらなる協調介入への参加をためらわない」と、異例の強力なコミットメントを示した。

また、片山財務相とベッセント財務長官から、FIMA(外国・国際通貨当局向け)レポ・ファシリティの活用についても言及があった。FIMAレポとは、海外中銀や通貨当局が保有する米国債を担保に、FRBから米ドル資金を直接調達できる制度である。

本邦当局が大規模なドル売り介入を行う場合、外貨準備として保有する米国債を市場で売却する必要があり、それが米長期金利の上昇を招くという「副作用」が懸念されていた。しかし、FIMAレポを活用すれば、米国債を売却することなくドル資金を確保できるため、米債市場への悪影響を回避しつつ、介入を継続する「実弾」を事実上無限に確保できることを意味する。これは、投機筋に対して「介入の持続性は極めて高い」と知らしめる強力な牽制となった。


米雇用統計

8月7日に発表された7月の米雇用統計は、非農業部門雇用者数が前月比2.3万人減と、市場予想の同8.0万人増を大きく下回った。過去分についても、5月・6月分が合計で10.3万人分下方修正され、3ヶ月移動平均の伸びはわずか2.0万人にまで鈍化した。

失業率は4.1%に低下したが、これは労働参加率の低下(労働供給の弱さ)を反映したものであり、労働需要の強さによるものではないとみられる。平均時給は、前月比+0.1%、前年比+3.2%に減速し、インフレ圧力の緩和が示唆された。

雇用者数が大幅に減少したにも関わらず、市場の反応が限定的だった理由は、夏場の季節性による「歪み」への警戒があったからだろう。コロナ禍以降、7月や8月の雇用データは季節調整の難しさから実態よりも弱めに出やすい傾向が指摘されている。市場参加者の多くは、今回の下振れを一時的な特殊要因によるものと判断し、労働市場が急速に悪化しているとは見なさなかったとみられる。

また、フィナンシャル・タイムズが8月6日付でウォーシュ議長が9月FOMCで利上げに踏み切る用意があると報じたことも市場の反応が限定的となった要因の一つであると考えられる。報道によると、利上げが検討されるためには、1) 今後数週間のうちに公表される指標で、インフレの加速や高水準での推移が確認されること、2)市場の利上げ織り込みが進むこと、が必要とされていたためだ。市場が今後の米金融政策の行方を占う上での注目度は、物価関連指標>雇用関連指標となっていたとみられる。


著者プロフィール

鈴木翔

鈴木翔

地方銀行、ネット銀行の運用部門で国内外の債券や株式などのディーラーを経験。松井証券に入社後はディーラーの経験を活かし、マーケットアナリストとして金利動向を踏まえた市場分析や、機関投資家・個人投資家などの投資家動向を組み合わせたマーケット情報などを提供している。


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