日銀9月利上げ期待上昇も円高にならない理由
振り返り
8月10日〜14日の米ドル/円は、前週末の米雇用統計を受けたドル売りが一巡し、じり高の展開となった。週初10日は157.90円付近で取引を開始した後、実需のドル買いや日銀の早期利上げ観測報道を背景に、欧州時間には159円台を回復した。
週央以降も159円台前半での底堅い推移が続いた。12日の米消費者物価指数(CPI)発表直後には、インフレ鈍化を受けて一時158.60円台まで押し戻される場面もあったが、すぐに159円台半ばへと反発し、日米協調介入後の高値を更新した。週末にかけても、米生産者物価指数(PPI)や米小売売上高の弱含みを受けて一時的に下落したものの、結局は押し目買い意欲の強さが勝り、159.30円台で取引を終えた。
日銀の9月利上げ期待が上昇
日銀の次回9月会合での利上げ観測が急速に強まった背景には、複数の要因がある。第一に、8月10日に公表された7月会合の「主な意見」において、利上げペースの加速(2会合に1回、3ヶ月に一度)を支持するタカ派的な意見が目立ったためだ。
第二に、政治的な「援護射撃」とも取れる報道や発言が相次いだ。共同通信は、7月末の異例の日米協調介入の決め手が、植田総裁による早期利上げの示唆であったと報じ、「日銀には9月利上げ以外の選択肢はない」とする政府関係者の発言を報じた。
また、ベッセント米財務長官からも日本の政策対応(利上げ)を促すような発言が聞かれ、日銀が「外堀を埋められている」状況にあると市場は受け止めた。これらを受けて、円金利スワップ市場が織り込む9月利上げ確率は8割程度まで上昇している。
FRBの9月利上げ期待が低下
一方で、米連邦準備制度理事会(FRB)による9月利上げ期待は大幅に後退した。最大の要因は、8月7日に発表された7月米雇用統計の予想外の弱さである。非農業部門雇用者数が減少に転じ、賃金の伸びも鈍化したことで、労働需給の緩和が鮮明となった。
先週発表された7月の米CPIおよびPPIも、市場予想に一致または下振れし、インフレ再加速の懸念を和らげる内容であった。さらに、米小売売上高が市場予想に反してマイナスとなったことも、年前半の消費の勢いが減速に向かう可能性を意識させた。これらの指標を受けて、一時70%程度あった市場の9月FOMCでの利上げ織り込みは、30%弱にまで低下し、年内の利上げ見送り観測も浮上している。
米ドル/円が水準を切り上げている理由
日米の利上げ期待の変化(日本は上昇、米国は低下)は、通常であれば「円高ドル安」を促す材料である。しかし、米ドル/円が159円台へと水準を切り上げているのは、以下の構造的な要因が影響していると考えられる。
・日米金利差
日銀が9月または10月に追加利上げを実施すれば、日米金利差は縮小するだろう。しかし、それでもなお米国の金利水準との間には相応の開きがある。金利差が「縮小しているか」だけでなく、「どれだけの金利差が残っているか」が重要になる。実際、日米金利差は2025年以降、日銀の利上げなどを背景に縮小し続けているにもかかわらず、円安基調が継続している。これは、日本の利上げが円安の流れを反転させるほどの変化をもたらさなかったことを意味する。
・日本の実質金利
日銀が市場の予想するターミナルレート(利上げの到達点)である1.5%まで利上げしたとしても、日本の物価上昇率が日銀の物価安定目標である2%で推移すれば、日本の実質金利はマイナス圏に留まることになる。為替市場が注目しているのは、日本の実質金利がマイナス圏から抜け出せるかどうかである。実質金利がマイナス圏で推移している間は、円が売られやすい構造そのものは大きく変わらない。このため、日銀の追加利上げ期待が強まっても、それだけでは継続的な円高トレンドを形成するには不十分となる。
米ドル/円の今後の見通し
米ドル/円は当面、本邦当局による追加介入への警戒感から160円の節目付近では神経質な値動きとなり、円安のスピードは緩やかになることが予想される。しかし、日米の金融政策のみならず、エネルギー輸入に伴う構造的な外貨需要や対外投資フローといった円安要因は根強く、160円を再び試すような底堅い地合いが続く可能性が高い。
今後の焦点は、8月27日に予定されている氷見野副総裁の講演や、月末のジャクソンホール会議でのウォーシュFRB議長の発言である。特に日銀側が、単なる9月利上げの有無だけでなく、「3ヶ月に一度」のペースでの継続的な利上げを市場に確信させられるかどうかが、円安トレンドを転換させるための鍵となる。また、9月中旬に想定される内閣改造での財務相人事も、財政・金融政策のスタンスを占う上で重要なリスクイベントとして注目される。