市場の焦点は、トランプ関税違憲判決と日銀審議委員人事へ【鈴木翔の週間マーケットトピック】
先週(2月16日~20日)の米ドル/円は、152円台で取引を開始したものの週初から円安が進行し、155円台を回復して取引を終えた。しかし、週明け23日は、東京市場が休場となる中、1円ほど急落する場面が見られた。
16日は、日本の25年10-12月期実質GDPが市場予想を下回ったことを受けて円安が進行。17日から18日にかけてはイラン情勢の緊張が高まる中、ドル高が進行し、米ドル/円は一時153.92円まで上昇した。その後は、18日発表の米経済指標が市場予想を上回ったことや19日早朝に公表されたFOMC議事要旨で利上げへの政策転換が議論されていたことが判明し、155円台を回復した。しかし、20日に米連邦最高裁がトランプ大統領の関税措置を違法とする判決を下すと、一時155円を割り込んだ。その後は下げ渋り、155円台を回復して取引を終えたが、週末にトランプ大統領が関税引き上げを表明したことなどを受け、週明け東京市場が休場となる中、一時154円まで急落となった。
日本:GDP下振れと財政規律に対する警戒感が円安要因に
日本では、弱い経済指標や政治の動向が円安要因となった。16日に発表された日本の2025年10-12月期実質GDP(1次速報)は前期比年率+0.2%と、市場予想同+1.6%を大きく下回る結果となった。設備投資、在庫、輸出、公共投資が事前予想対比で下振れたことが、低成長に繋がった。この結果を受け、日銀の早期利上げ観測が後退し、円売りが優勢となった。
同日夕方には、高市首相と植田日銀総裁の会談が行われた。2025年11月に高市首相と植田総裁が初めて会談をした際は、植田総裁から「経済、物価、金融情勢、金融政策について様々な側面から率直に良い話ができた」など、詳しい説明があり、12月の追加利上げに繋がった。しかし、今回は「一般的な経済、金融情勢の意見交換であった」「具体的なことについては特にお話しできることはない」と述べるにとどまり、早期利上げ期待への警戒感後退に繋がった。
衆院選での自民党大勝により、野党の極端な減税要求をのむ必要がなくなり、過度な財政拡張懸念は後退している。これを受けて超長期国債利回りが低下し、債券市場は落ち着きを取り戻しつつある。しかし、18日に召集された特別国会や高市首相の会見などで、「責任ある積極財政」という政権の基本方針が繰り返し強調されているため、市場では依然として高市政権の財政規律に対する警戒感、「高市トレード」への思惑が燻り続けており、これが円の重石となっている。加えて、米国の関税合意に基づく日本の対米投資第1号案件が発表され、その代替として外貨準備の活用案が浮上していることも、通貨政策の規律を乱すものとして円売り材料視された。
米国:関税違憲判決でリスクオフに
米国では、堅調な経済指標とインフレ懸念を背景に利下げ観測が後退し、ドル高が進行した。18日に発表された米1月鉱工業生産が前月比+0.7%と市場予想を上回ったことに加え、同日公表された1月開催分のFOMC議事要旨で次の一手として利上げが議論されていたことが明らかになった。これを受け、市場の利下げ期待は大きく後退し、米ドル/円は19日に155円台へと上昇した。
20日もドル買戻しが続いていたが、トランプ関税を巡る最高裁判決がその流れを変えることになった。米連邦最高裁20日、IEEPA(国際緊急経済権限法)に基づくトランプ政権の相互関税を違法と判断した。これを受け、トランプ大統領は直ちに1974年通商法122条に基づき、150日の期間限定で各国からの輸入品に10%の関税を課す大統領令に署名し、翌21日には同条の最高税率である15%への引き上げを表明した。
関税を巡る一連の報道を受け、株安・金利低下・ドル安の反応となっている。市場がリスクオフとなったのは、再び関税政策を巡る不透明感が高まったためだ。新関税の根拠法の問題や先行きの関税率、関税の返還など不確定な要因が多方面に及んでいる。
・通商法122条に基づく関税は、適用期間が最長150日と定められている。150日以降も関税を継続するには議会承認を得るか、別の法律を根拠にする必要があり、トランプ政権はこれまでのような機動的な関税政策運営は難しくなる見通し。
・トランプ大統領は代替措置となる関税の税率を10%と発表したものの、1日もたたないうちに最高税率の15%に変更すると表明したり、24日にはトランプ大統領が新たな国家安全保障関税を検討しているとWSJが報じるなど、先行きの関税率について不透明な状況。
・これまで米国が各国と結んでいた貿易合意は、今回違憲とされた関税(IEEPA)を前提としていた。既に貿易合意を結んでいる日本やEU、英国などは、前提が崩れたとして米国に再交渉を要求する可能性がある。既にEUは米国との通商協定の批准を凍結した。
・米最高裁は、IEEPAに基づいて徴収された関税を政府が還付する義務があるかについては言及していない。そのため、輸入業者が税関・国境取締局(CBP)への異議申し立てや国際貿易裁判所(CIT)への訴訟を通じて還付を求めることになる。トランプ大統領自身も「今後5年間は法廷闘争を続けることになる」と述べており、還付の実施には数年間を要する可能性が高く、短期的な経済の押し上げや輸入業者の利益回復効果は限定的になると見られている。
今後の見通し
米国では引き続き、関税を巡るトランプ政権の動向やイラン情勢を巡る地政学リスクに注目が集まる。関税政策の不透明感はドル安材料となるものの、イラン情勢の緊迫化はドル高材料となり、方向感の出づらい展開が想定される。
日本時間25日午前11時には、トランプ大統領による一般教書演説が予定されている。トランプ大統領は、経済政策を訴え、コスト削減を狙った新たな施策を発表する見通しだとWSJが報じている。関政策やイランなどに言及する可能性もあり、演説内容には留意する必要があるだろう。
日本では、日銀の審議委員人事が最大の焦点となる。3月末に任期を迎える野口委員と、6月末に任期を迎える中川委員の後任人事案が、25日にも国会に提示される公算が大きい。ここで積極財政や金融緩和を支持する「リフレ派」の人物が起用されれば、利上げペースが抑制されるとの見方から、円安材料になる可能性がある。
米ドル/円は155円を中心とした展開を想定している。下値は1月安値の152.10円が意識される。上値は直近の下落幅の半値戻しにあたる155.77円や61.8%戻しにあたる156.64円が意識されるが、150円台後半からは為替介入への警戒感が強まるため、上値は限定的になりそうだ。