米ドル/円 2024年以来の160円を突破
先週の米ドル/円は、中東情勢を巡るヘッドラインに振らされる一週間となった。週初23日の東京市場は、原油高に伴う米長期金利の上昇を背景にドル買いが先行し、159.66円台半ばまで上昇した。しかし、トランプ大統領が「イランと建設的な協議を行った」として、当初予定していたイランのエネルギー施設や発電所への攻撃を「5日間延期する」よう米軍に指示したとのヘッドラインが流れると、WTI原油先物価格が急落。米ドル/円も円売りドル買いの巻き戻しが見られ、一時158.02円まで下落した。
24日は、イランが米国との交渉事実を否定する声明を出し、情勢の不透明感が再び強まった。また、同日発表された日本の2月全国消費者物価指数(CPI)が前年比+1.6%と市場予想を下回ったことも、日銀の早期利上げ観測を一時的に和らげ、米ドル/円は反発に転じた。25日から26日にかけては、米国が提示した15項目の和平案をイランが「過大かつ非論理的」として拒否した一方、イラン側が独自の5条件を突き返したと報じられ、停戦交渉の難航が意識された。26日には、トランプ大統領がイランの発電所等への攻撃期限をさらに4月6日まで再延期すると表明。米ドル/円は円高ドル安で反応したものの、一時的な反応にとどまった。週末27日には、中東での戦争長期化懸念からドル買い地合いが一段と強まり、2024年7月以来となる160円の大台を突破。一時160.41円まで上値を伸ばした。
中東情勢
中東情勢は、軍事的なエスカレーションと水面下での停戦交渉が交錯する、極めて緊迫した局面が続いている。トランプ政権は、イランに対して「核開発の完全停止」「ミサイル制限」「ホルムズ海峡の開放」「代理勢力への支援禁止」などを含む15項目の和平案を提示したとされる。これに対し、イラン側は米国案を拒絶する一方、「攻撃の完全停止」「戦争被害への賠償」「ホルムズ海峡の主権的権利の承認」など5つの条件を提示している。両者の主張には依然として大きな隔たりがあり、パキスタンが仲介を模索しているものの、早期の合意に至るかは不透明な状況だ。
軍事面では、米強襲揚陸艦「トリポリ」に乗った3500人規模の海兵隊が中東に到着したほか、精鋭の第82空挺師団3000人の派遣される見通しとなっている。ワシントン・ポスト紙などは、米軍がイランの石油輸出拠点であるカーグ島への上陸を含む、数週間にわたる地上作戦の準備を進めていると報じており、交渉が決裂した場合には戦火が拡大するリスクがくすぶっている。一方で、イエメンの親イラン武装組織「フーシ派」がイスラエルへの攻撃を開始し、バブ・エル・マンデブ海峡の事実上の封鎖を示唆するなど、戦域の広がりも懸念されている。
中東情勢の緊迫化が続く中、米国では11月の中間選挙を控え、全米ガソリン平均価格が1ガロン4ドル目前まで上昇しており、共和党にとって逆風となりかねない。米長期金利の上昇や株安による支持率低下を避けるため、トランプ大統領が最終的に目的を達成したと宣言して一方的に攻撃を終了する、いわゆる「TACO(Trump Always Chickens Out)」の可能性を指摘する声も根強い。トランプ大統領の訪中日程が5月中旬に再設定されたことも、米国が4月中には事態を収束させたい意向の現れと見られるが、イスラエルの戦闘継続意欲は依然として高く、予断を許さない状況が続く。
日銀の金融政策見通し
日本の金融政策を巡っては、この一週間で追加利上げ期待が高まった。まず雇用面では、2026年春闘の第1回回答集計結果が公表され、平均賃上げ率が5.26%と、昨年(5.46%)に迫る高い水準を記録した。深刻な人手不足を背景に、中小企業の賃上げ率も5.05%と好調な滑り出しを見せており、賃金と物価の好循環を確認したい日銀にとって、利上げを後押しする強力な材料となった。物価面では、2月の全国CPI(除生鮮)が前年比1.6%まで鈍化したものの、これは政府の電気・ガス代補助金の影響が大きい。日銀が新たに公表を開始した「特殊要因を除くコアCPI」では前年比+2.2%と目標の2%を上回る水準を維持しており、基調的なインフレ圧力は依然として強いことが示されている。
さらに日銀は、需給ギャップと自然利子率(r*)の推計値をアップデートした。需給ギャップは2025年7-9月期時点で+0.45%と、従来の供給超過(マイナス)から需要超過(プラス)へ大幅に上方修正された。自然利子率の推計レンジも、下限が従来の▲1.0%から▲0.9%へとわずかに引き上げられ、物価目標2%を加味した名目の中立金利は+1.1%~+2.5%となった。3月会合の「主な意見」では、原油高による物価上振れリスクを警戒するタカ派的な意見が圧倒的であり、「今後も間を長く空けずに緩和度合いの調整を検討することになる」「利上げを加速させる必要性にも注意を払う」といった踏み込んだ発言が相次いだ。
これらのデータを受け、4月会合で日銀が利上げすると市場が織り込む確率は7割弱まで上昇している。植田総裁も国会答弁で「短期金利が適切に調整されなければ長期金利上振れリスクがある」と言及しており、4月利上げの地均しを進めている印象を受ける。中東情勢が劇的に悪化し、日本経済が深刻なリセッションに陥らない限り、日銀は4月会合での25bpの追加利上げに踏み切る可能性が高い。
今週の注目材料と米ドル/円相場の見通し
米国では、4月3日に発表される3月雇用統計が重要イベントとなる。非農業部門雇用者数は3月30日時点で前月比+6.0万人と見込まれている。2月のネガティブサプライズからの反動を含め、強い結果となれば、FRBによる年内の利下げ観測がさらに後退し、米ドル円を押し上げる要因になり得る。また、1日のISM製造業景況指数も、原油高が景況感やインフレ期待に与える影響を測る上で重要だ。
日本では、31日の東京都区部CPIや1日の日銀短観が注目される。特に日銀短観において、中東情勢を受けた企業の先行き懸念や予想インフレ率の上昇が確認されれば、4月利上げ期待が一段と高まり、円を下支えする可能性がある。
基本シナリオとしては、当局の為替介入への警戒感が続く中で中東情勢の長期化懸念を背景とした「ドル高地合い」が続き、上値を試す動きが想定される。目先は2024年7月高値161.95円を意識した展開が見込まれる。