日銀利上げとイラン停戦期待が米ドル/円の上値を抑えるか?
先週の米ドル/円は往って来いの展開となった。週初30日は、160円台で取引を開始したものの、同日朝に公表された3月の日銀金融政策決定会合の主な意見が利上げに前向きなタカ派的内容だったことに加え、三村財務官による「そろそろ断固たる措置が必要」との円安牽制発言が伝わると、投機的な動きが抑制され相場は160円の大台を割り込んだ。
その後、為替市場の焦点は再び中東情勢へと移った。31日には、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)紙が「トランプ大統領は、ホルムズ海峡が事実上封鎖されたままでもイランでの軍事行動を終了させる用意がある」と報じた。イラン大統領も戦争終結への意思を示唆したことから、地政学リスクの緩和期待により「有事のドル買い」の巻き戻しが加速した。この流れを受け、1日には一時158.28円と先週の安値を付けた。
その後、市場の関心は日本時間2日午前10時に予定されていたトランプ大統領の全米向け演説に集まり、早期停戦への具体的言及が期待された。しかし、実際に行われた演説では「軍事作戦は圧倒的な勝利を収めている」と成果を強調しつつも、イラン側との合意がなければ今後2~3週間は極めて激しい攻撃を継続する構えを示すなど、強硬姿勢が改めて鮮明となった。停戦に関する新たな情報が得られなかったことで市場には失望感が広がり、早期停戦期待が後退したことでドルは再び買い戻され、159円台後半まで水準を切り上げた。
週末3日には米3月雇用統計が発表され、非農業部門雇用者数が前月比17.8万人増と市場予想を大幅に上回る堅調な結果となった。労働市場の底堅さが示されたことで一時159.85円まで上昇する局面もあったが、欧米市場が聖金曜日(グッドフライデー)の祝日で投資家不在となり市場の流動性が低下していたこともあり、反応は限定的なものに留まり、最終的に159.57円で越週した。
日銀の動向と今後の金融政策見通し
3月30日に公表となった3月会合の主な意見では、「躊躇なく利上げに進むことが必要」や「間を長く空けずに金融緩和の度合いを調整すべき」といった早期の追加利上げを支持する意見が目立った。特に、現在の金利水準が物価上昇に対して低すぎる「ビハインド・ザ・カーブ」に陥ることへの危機感が示されており、利上げの遅れが将来的に急激な引き締めを強いるリスクが強調されている。植田総裁も、短期金利の適切な調整が行われなければ長期金利が上振れるリスクがあると述べており、市場との対話を通じて追加利上げへの地均しを進めている印象だ。
本邦当局による為替牽制も強まっている。三村財務官は就任後初めて、実弾介入を示唆する「断固たる措置」という表現を用いて円安を強く牽制した。財務省が原油先物市場への介入も全方位的な照準の一つとして検討していることが示唆されており、為替市場における投機的な円売りに対する圧力は高まっている。
物価指標については、3月の東京都区部CPI(コア)が前年比+1.7%と市場予想を下振れたが、エネルギーを除くコアコアCPIは同+2.3%と2%超の伸びを維持している。また、3月調査の日銀短観では、大企業の景況感が中東情勢深刻化前としては良好であったことに加え、企業の期待インフレ率が5年先まで含めて過去最高水準を更新するなど、物価上昇の定着を示唆する内容となった。
中東情勢と今後の中東情勢の見通し
2月28日の軍事作戦開始以降、米国はイランの海空軍能力や指揮系統に甚大な打撃を与えたと主張している。これに対しイランは、世界のエネルギー輸送の要衝であるホルムズ海峡の事実上の封鎖を継続しており、周辺国の石油関連施設への攻撃も辞さない構えを示している。トランプ大統領は、ホルムズ海峡の安全確保は日本や欧州など原油輸入国が主導すべきとの立場を示し、米軍の早期撤収を模索する一方で、イラン側の譲歩がなければ攻撃をさらに激化させるという揺さぶりをかけている。
今後の中東情勢を見通す上で最重要となるのが、日本時間7日午前2時(米国東部時間6日午後1時)にはトランプ大統領による記者会見とイランとの交渉期限の行方である。当初、トランプ大統領は4月6日を期限としていたが、その後の発言では米国東部時間7日午後8時(日本時間8日午前9時)まで期限が延期された可能性が示唆されている。この期限までにホルムズ海峡の開放に関する合意が得られない場合、トランプ大統領はイラン国内の全発電所を含むインフラ施設への大規模な同時攻撃に踏み切る警告を発している。
今週(4月6日〜4月10日)の注目材料と米ドル/円の見通し
米国では6日に3月ISM非製造業景況指数、10日に3月消費者物価指数(CPI)の発表を控えている。雇用統計で労働市場の強さが示された後だけに、CPIで中東情勢悪化に伴うインフレ圧力の再燃が確認されれば、FRBの利下げ期待がさらに後退し、ドル買い要因となるだろう。
米ドル/円の見通しについては、地政学リスクに伴う「有事のドル買い」と、日本の貿易赤字拡大懸念が根強く、基本的にはドル高・円安圧力が継続しやすい。特に8日朝の交渉期限を巡る不確実性が、相場の下値を支えることになる。情勢次第では再び160円の大台を試す展開も十分に考えられる。
最大の焦点は、本邦当局による為替介入の有無となる。片山財務相や三村財務官が「断固たる措置」に言及しており、ドル円が160円を超えて投機的な円安が加速すれば、政府・日銀による実弾介入が発動されるリスクは極めて高い。水準としては、24年7月高値161.95円を超えが意識されるだろう。介入警戒感は160円近辺での上値を抑制する重石となるが、中東情勢の劇的な改善がない限り、介入で円高に押し戻されたとしても、原油高に伴う実需の円売りが続くため、円安基調そのものを反転させるのは難しいだろう。