為替介入の回数に制限はあるのか?

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2026年05月11日

為替介入の回数に制限はあるのか?


2026年4月末から5月の大型連休にかけて実施された円買い・ドル売り介入は、その規模、手法などから過去の介入とは一線を画すものとなりました。本邦当局は、米ドル/円が一時160.70円という、2024年7月以来の高値を記録した直後、累計で約10兆円規模に達すると推計される大規模な実弾介入を実施しました。介入の背景に加え、5月11日から来日するベッセント米財務長官は何を日本に求めるのか考察したいと思います。


今回の介入の背景と過去との相違点

今回の介入の直接的なトリガーは、4月の日銀金融政策決定会合で政策金利が据え置かれた後、円安に歯止めがかからず160円を突破したことにあります。しかし、介入発動に至った理由は、単に節目の160円を突破したことではなく、円安と同時に日本の長期金利上昇の兆候が顕著になったことにあるとみられます。

米ドル/円が160円という節目、日本の長期金利(10年債利回り)が2.5%という節目を突破したことは、日銀の対応が後手に回っているという「ビハインド・ザ・カーブ」への懸念が高まったことが背景にあります。中東情勢の緊迫化に伴う原油高が日本の貿易収支をさらに悪化させ、実需面での円売り圧力が強まる中で、当局は介入によって「時間稼ぎ」をする以外に選択肢がなかったと言えます。

過去の介入との相違点として、口先介入から実弾介入までの圧倒的な速さがあります。初回の介入があった4月30日には、三村財務官から円安水準について「いよいよ断固たる措置を取る時が近づいている」「これは最後の退避勧告として申し上げる」との発言がみられました。その後の片山財務相の「断固たる措置」発言からわずか約2時間後に介入が実施されました。過去には数日から数週間のタイムラグがあるのが通例でしたが、今回は形骸化しつつあった牽制効果を復元させる狙いがあったのではないかとみられます。



IMFガイドライン

IMFは、為替介入ルールとして「過去6カ月間に、為替介入が3回以内であること、かつそれぞれの介入が3営業日以内に収まっていること」を示しています。ただ、これは介入の回数を制限するルールではなく、為替制度分類における自由変動相場制の認定基準です。

この回数を超えて介入を行ったとしても、ルール違反になるわけではなく、IMFの統計上の分類が「自由変動相場制」から「変動相場制」に変更になる可能性があるだけです。三村財務官も7日、「単なる分類の基準にすぎず、介入の回数を制約するルールではありません。」と述べています。

実際、当局は2011年10-11月には5営業日連続で介入を実施しています。ただ、それ以外の介入は概ねこのガイドラインを意識して運営されており、市場参加者の間では「3営業日以内に3回」は、介入のタイミングを測る基準として意識されています。

このルールに当てはめると、2026 年 10 月末までの半年間に残された介入余地は 1 回のみとなる中、日本連休中の値動きを鑑みて、市場では当局の介入目線として 157-158 円が意識されています。158円に近づくと上値が重くなるでしょう。


ベッセント財務長官の思惑

こうした状況下でベッセント米財務長官が11日に来日します。ベッセント氏は以前から、日銀がビハインド・ザ・カーブにあるとの認識を示しており、日本の過度な円安と金利上昇が米国債市場に悪影響を及ぼすことを懸念してきました。

ベッセント氏の訪日における最大の焦点は、日本の財政・金融政策運営であるとみられています。ベッセント氏は昨年10月に、「日本政府が日銀に政策余地を与える姿勢こそが、為替レートの過度な変動を回避する鍵となる」と述べています。これは、為替介入を容認する代わりに、日本側には金融政策の正常化と、拡張的な財政政策修正を求めたとみられています。

今回の高市首相や片山財務相との会談でも、円安阻止に向けた自助努力を迫る可能性があります。日米による円安阻止に向けた連携が確認されれば、米ドル/円の158円が当局の防衛ラインとして再認識され、投機的な円売り抑制効果が期待できるかもしれません。


介入効果の持続性

基本的に為替介入によって円安トレンドの反転は期待できません。介入はあくまでファンダメンタルズが好転するまでの「時間稼ぎ」に過ぎません。約10兆円という規模は、日本の年間貿易赤字拡大分をカバーできる額ですが、低い実質金利や日米金利差という構造的問題が解決されない限り、円安圧力は燻り続けます。

また、中東情勢緊迫化以降、米ドル/円を押し上げた要因として、原油価格上昇による実需の円売りに加え、有事のドル買いやFRBの利下げ期待低下によるドル安の巻き戻しがあります。米国は5月6日にイランに覚書を提案し、イランからの返答が10日に米国に届きました。これを読んだトランプ大統領は日本時間11日早朝に「全く受け入れられない」と発言し、原油価格が上昇、米ドル/円は157円台を回復しました。

ホルムズ海峡の開放によって、原油価格の持続的な下落が実現しなければ、日米中央銀行のインフレ警戒姿勢が継続し、FRBによる利下げ再開、日銀の追加利上げは難しくなります。これによって、円安ドル高地合いが継続し、米ドル/円は介入警戒感もありながら、高値圏での推移が続くとみられます。


著者プロフィール

鈴木翔

鈴木翔

地方銀行、ネット銀行の運用部門で国内外の債券や株式などのディーラーを経験。松井証券に入社後はディーラーの経験を活かし、マーケットアナリストとして金利動向を踏まえた市場分析や、機関投資家・個人投資家などの投資家動向を組み合わせたマーケット情報などを提供している。


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