【エヌビディア決算直前】AIインフラ大爆発の裏で動くマネー

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2026年05月20日

【エヌビディア決算直前】AIインフラ大爆発の裏で動くマネー

マーケットアナリスト大山です。今週も宜しくお願いします。


先週の株式市場はS&P500株価指数は若干プラス。マーケットは金利の上昇がキツく、インフレ懸念、FRBの金融政策が「利上げ」に傾きつつあるとみられる中で頭が重い展開です。加えて米中首脳会談の進展にサプライズがなく、中東紛争終結に向けた動きは完全に停滞していますし、戦争長期化懸念を受けた原油高&金利先高観が売り材料だったように感じています。
今週は日本時間21日早朝にエヌビディアの決算が開示される予定で、市場の期待が高まっています。
コンセンサスは、フアンCEOが再び予想を上回る業績を発表、配当増額を行うとの見方が支配的です。現状の株価は12ヶ月の予想PER約25倍で取引され、最近急騰した他の半導体株に比べれば、かなりリーズナブルに見えます。
外部環境は、主要取引先やAI関連企業のアナウンスを見れば好調な業績はテッパン、コーニングへの出資を機に光関係・インフラ株が値を上げていますが、ファンCEOの発言次第で、市場の他のセクターをさらに押し上げることもあるかもしれません。


消えたリスクプレミアム2.7%の正体と、ウォール街が追いついた「8,000ポイント」の世界

株価は高値圏、日米の株式市場が史上最高値圏を猛烈な勢いで突き進む中、ウォール街の潮目が完全に変わったと言えます。かつて徹底的な「弱気派」の急先鋒として知られたモルガン・スタンレーのマイク・ウィルソン氏が、S&P500の12カ月目標株価を一気に「8,000ポイント」、さらには「8,300ポイント」へと上方修正してきたのです。ヤルデニ・リサーチのエド・ヤルデニ氏にいたっては「8,250ポイント」を掲げています。私がかねてより主張してきた「年末8,000ポイント」のシナリオに、ようやくウォール街の巨頭たちが追いついてきた形です。
金利上昇やインフレ再加速というマクロの重力が牙を剥く中で、なぜこれほど強気な見通しが正当化されるのか。今、市場の「割高感」を示す決定的なエビデンスとして、FRB(米連邦準備制度理事会)が金融安定報告書で突きつけた「ERP(株式リスクプレミアム)=2.7%」という数字が大きな議論を呼んでいます。
この「ERP=2.7%」の正体を、限界まで噛み砕いて説明しましょう。現在、アメリカの株式市場全体の予想利益利回り(PERの逆数)は「4.7%」です。一方で、何の不確実性もない安全な「10年物インフレ連動国債(TIPS)」を買うだけで、国が「2%」近くの実質利回りを保証してくれます。リスクプレミアムとは、この2つの差、すなわち「わざわざ暴落の危険(リスク)を冒して株を買うことで、どれだけ余分に取り分(ご褒美)がもらえるか」という引き算の数字です。
4.7%(株)-2%(国債)=わずか「2.7%」。
過去35年間の平均中央値が「4.6%」ですから、現在の2.7%はドットコムバブル以来、過去20年間で最低水準に近い異常値です。例えるなら、「いつ崩落するか分からない剥き出しの危険な崖を命がけで登っているのに、頂上で手渡される報酬が飴玉1個の状態」です。投資のセオリーから言えば、これほど割に合わない勝負はありません。だからこそ、教科書通りのウォール街のベア派は「狂気だ、バブルだ」と警告し続けてきたわけです。
しかし、この数字を見て「だから暴落する」と結論づけるのは、相場の実体を見誤っています。投資家がこの「薄すぎるご褒美」を受け入れているのは、彼らが盲目だからではありません。背後にある、前年同期のコンセンサス予想である3,650億ドルから、足元で7,250億ドル〜8,000億ドル(約110兆〜120兆円)へと「ほぼ倍増」したハイパースケーラーたちのAI設備投資(Capex)の圧倒的な爆発力を、本気で確信しているからです。
この天文学的なキャッシュが社会に物理的に投下されることで、企業収益は平均を遥かに上回るペースで加速し、強烈なポジティブ・レバレッジが働きます。
今の「予想利回り4.7%」という数字は、これからのAIがもたらす大爆発を甘く見積もっているに過ぎません。数年後、投資が実を結んで企業の利益が劇的に拡大すれば、今の株価のままでも、実質的な利回りは4.7%から8%や10%へと跳ね上がります。そうなれば、国債(2%)を引いた後の「ご褒美(プレミアム)」も、後から2.7%⇒5%⇒6%と勝手に拡大していくでしょう。
投資家は「今は割高に見えるけれど、AIの未来に賭ければ、後からものすごいご褒美がついてくる」と信じて突き進んでいるのです。
弱気のストラテジストらが180度転換した本質もここにあります。金利という物理的な重力を、AIインフラ投資という桁外れのロケットエンジンがねじ伏せている・・・これこそが、消えたリスクプレミアムの裏にある相場の「実体」です。


ネットワーキングの「新たな枠組みレジーム」:コヒレント、ルメンタム、そしてフジクラ(5803)

AIインフラの拡充は、いまや半導体の外側、すなわちデータセンターの「神経系」へと完全にシフトしています。その決定的な引き金となったのが、ネットワーク機器の巨人シスコシステムズの決算です。ハイパースケーラーからのAIインフラ受注が、前回の50億ドルから一気に90億ドル前後へと、わずか1年でほぼ倍増する見通しとなりました。これこそが、AI需要が単なる「チャットボット(お喋り)」から、自律的にタスクを判断して実行する「AIエージェント」のフェーズへ世代交代した何よりの証明です。
処理されるデータ量が爆発的に跳ね上がる中、データセンターの内部は「銅ケーブルから光ファイバーケーブルへ」という、壮大な物理的転換(大工事)を迫られています。エヌビディアが光通信の巨人コーニングに対して最大32億ドルを投資する権利を得たというニュースは、まさにこの物理的臨界点を象徴しています。従来の銅線では、AIエージェントが求める爆速の通信速度と莫大な発熱量に耐えられないのです。
この「銅から光へ」のスーパーサイクルにおいて、真の支配者として浮上しているのが、光通信の基幹部材を握る企業群です。トランシーバーやレーザー光源などの光モジュール技術で世界をリードするコヒレント(Coherent)やルメンタム(Lumentum)は、ハイパースケーラーの巨大な設備投資マネーを直接吸い上げる、最有力の上流銘柄として横並びで推奨されています。
そして、このグローバルな軍拡競争の血管となる「光ファイバー」そのものの物理的供給を牛耳っているのが、日本の電線株、なかでもフジクラ(5803)です。前期純利益+72.5%という無双の数字を叩き出し、日米の生産能力を最大3倍にするため最大3,000億円を投じるという強烈な決意を示しました。決算資料に「光ケーブルの急峻な増産により、水素等の原材料調達が追いつかなくなる懸念」と明記されている事実は、デジタルの夢が「地球の物理的資源の限界」にぶつかっている、最高に贅沢なボトルネック(実体)に他なりません。古河電工や住友電工も含め、日本の物理技術が世界のデータセンターを繋いでいます。
この材料不足レジームをさらに裏付けるのが、半導体サプライチェーンの隠れた主役、Qnity Electronics(Q)の覚醒です。昨年化学大手デュポンから分社化した目立たない存在ながら、主要半導体メーカーへの部材供給を独占し、株価は今年に入って瞬く間に2倍になりました。
AI熱狂の裏側で、光ファイバー、部材供給を行う「フィジカル」な実体を持つ企業が価格決定権を握り、市場を支配する。これこそが、いま投資家が目撃している「新レジーム」の真実なのです。


電力を制する者がAIを制す:HUT、FLNC、環境の臨界点

デジタルを動かすための「限界」は、通信網(光)の先にある「電力」のフェーズへ。いま深刻な臨界点を迎えています。
調査会社ギャラップの世論調査で「地域内にAIデータセンターを建てるくらいなら、むしろ原子力発電所を作ってくれ」と住民の半数が回答した事実は、過剰な電力・水消費や公共料金高騰といった、生活インフラが食い荒らされることへのリアルな恐怖(実体)を象徴しています。
それもそのはず、ハイパースケーラーの2026年の設備投資額は、1年前のコンセンサス予想からほぼ倍増の「7,250億ドル」へ上方修正され、2030年までに世界の発電設備の増強だけで5,110億ドル(約80兆円)の巨費が投じられる見通しで、天然ガスと太陽光の現場は「受注殺到」のパニック状態にあります。
このエネルギー軍拡競争の「果実」を直接吸い上げて爆騰しているのが、米国のインフラ新星たちです。マイアミのエネルギーインフラ企業Hut8(HUT)は98億ドルのメガ契約締結で株価が急騰。エネルギー貯蔵・バッテリーのフルエンス・エナジー(FLNC)は大手ハイパースケーラー2社との供給契約を機に空売りの買い戻しが殺到し、株価はわずか1週間で2倍に跳ね上がりました。
これらはまさに、受注残7.6兆円を誇る三菱重工(7011)や、冷却特需で過去最高売上を叩き出したダイキン(6367)の「グローバル・マクロ版」に他なりません。「電力を制する者がAIを制す」。この絶対的な物理原則の前に、世界のマネーはひれ伏すしかないのです。


K字型経済の深層と逆張りの妙味:

グローバル・バリューの隠れ家:韓国株ETF(EWY)という選択肢
AIイレブン(※)や周辺インフラ銘柄への資金集中によって、市場全体の割高感が意識され始める中、抜け目のないヘッジファンド(Point72など)はすでに次なる「バリューの隠れ家」へ動き出しています。彼らが目をつけたのが、圧倒的な割安放置レジームにある韓国市場の「裏口(持株会社)戦略」です。

たとえば、米国マイクロンのPER10倍に対し、AI半導体(HBM)のトップランナーであるSKハイニックスのPERはわずか6倍。さらにその親会社である持株会社SKスクエアにいたっては、ハイニックス株価値に対して47%ものディスカウント価格で取引されています。また、サムスン電子の株式を10%保有するサムスン生命保険も、PBR(株価純資産倍率)約0.5倍という異常な割安状態で放置されています。
キオクシアの好決算が示す通り、メモリ市場の復活という「物理的実体」は間違いなく本物です。しかし、日本の投資家にとって韓国株は投資しにくいもの。
ならば恩恵受けながらも「超おいしい部分」を丸ごと内包する「iシェアーズMSCI韓国ETF(EWY)」が、過熱するAI相場における最強の「バリューの避難所」として浮上してくるかもしれません。

※ヤルデニ・リサーチのエド・ヤルデニ氏が提唱した「AI11(AIイレブン)」は、過熱する生成AI相場において、マグニフィセント・セブン(M7)という「デジタルの出口(需要側)」の裏側で、AIインフラの「物理的供給網(フィジカルな実体)」を文字通り牛耳っている主要な半導体・ハードウェア関連の11銘柄を定義した
マイクロン・テクノロジー、韓国SKハイニックス、韓国サムスン電子、ウエスタンデジタル、サンディスク(※実質WDC傘下ですが、リスト上は別掲)、ブロードコム、マーベル・テクノロジー、AMD、インテル、台湾TSMC、蘭ASMLホールディング


「大手術からの逆張り」:Applovin(APP)、ヴィクトリアズ・シークレット(VSCO)、環境の歪み

天文学的なAIインフラ投資が上層を押し上げる一方で、実体経済では足元に・・・二極化する米国経済の下の部分「K字型経済の下側」には冷酷な重力がのしかかっています。インフレの長期化とガソリン価格の高騰は、米国の日常消費を直撃しています。象徴的なファクト出ていて、直近の米国内における「ビールの販売量が前年比6.3%減」という急激な落ち込みを示しています。統計上のインフレ沈静化というノイズの裏で、庶民は日常のささやかな楽しみであるビールすら削らざるを得ないほど、物理的な生活の余裕を奪われています。まさに「消費者に息つく暇がない」現実がここにあります。インフレで米国人の消費行動が変化しているのです。
しかし、この歪みの底にこそ、次なるリターンの原石が転がっています。注目すべきは、株価が一時的に垂れてきたタイミングで、泥臭い経営の大手術によって復活の初動を迎えている「変革銘柄」への逆張り戦略です。
その筆頭が、ランジェリー大手のヴィクトリアズ・シークレット(VSCO)です。同社は過度な「woke(社会正義への配慮)」への傾倒によるブランド失墜や、関税の直撃で激しい打撃を受けてきました。しかし、新経営陣は不必要な値引き販売を縮小し、本来の強みである「セクシーなDNA」へ回帰する大手術を敢行しています。足元では関税が目先の利益を圧迫しているものの、すでにブランドの再生に伴って市場シェアは拡大の兆しを見せ始めています。
供給過剰のまま迷走を続けるナイキとは異なり、VSCOの構造改革は「来期の劇的な改善」に向けた確実な仕込み場を提供しています。AppLovin(APP)とともに、抜け目のないヘッジファンドがこの「実体の変化」に狙いを定めて逆張りを狙うという指摘が目立ち始めました。熱狂の上側だけでなく、痛みを伴う大手術の現場にこそ、手触りのある投資妙味が潜んでいるのかもしれません。


著者プロフィール

大山季之

大山季之

松井証券シニアマーケットアナリスト。1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。


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