5%超の金利が迫る「7-9月期決算」―資本コスト高がAIを選別し、K字消費が価格決定力を問う
マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。
今週、米国株の強気相場は4周年を迎えた。S&P500は2022年の安値から約120%上昇し、先週は7818ポイントの最高値を記録している。しかし週明けの市場に祝賀ムードはない。中国CXMTのメモリ設計進展の報を受けて半導体指数は2.7%下落、マイクロンは3.9%安、サンディスクは6%安とS&P500で最大の下げとなった。ドル指数は2025年5月中旬以来の高水準にある。
前回コラムでは、金利5%超の世界観・ヘッジファンドCTAの限界・7-9月期決算(Q3決算)が試す「危うい均衡」を論じた。今週は、その均衡を形づくる力学を一本の線で辿ってみたい。原油価格が再び上昇して金利を押し上げ、金利がAIを選別し、選別が消費を分断し、分断が決算の勝敗を決める――。各論点の「結果」が、次の論点の「原因」になっている点に注目してほしい。
【今週のコラム要約】
【論点1】原油高・粘着インフレ→長期金利5%超の定着
↓結果:資本コストの上昇
【論点2】AIは「規模」から「回収」へ―選別の始まり
↓結果:株高の恩恵と資本の偏在
【論点3】K字型消費の鮮明化
↓結果:「誰に売り、値上げを通せるか」が業績を分ける
【論点4】Q3決算は価格決定力の審判
↓
【総括】注目3銘柄へ:META/DAL/JPMに注目したい
論点1:原油が押し上げる「粘着インフレ」と金利5%超の定着
出発点は原油だ。月曜はサウジアラビアがフーシ派による新たな攻撃に直面し、ブレント原油は1.8%上昇した。オックスフォード・エコノミクスは、ブレントが来年第2四半期まで1バレル100ドルを上回って推移すると予想する。8月のPCE価格指数は前年比+3.4%、コアは+3.0%。インフレは5年以上目標を上回り続けている。
FRBは9月に3年ぶりの利上げに踏み切った。クリーブランド連銀のハマック総裁は「小幅な調整を比較的迅速に行う方が望ましい」と述べ、「インフレ志向」が経済に定着するリスクに言及した。FedWatchでは10月据え置きが約78%と優勢な一方、12月の利上げ確率は9割近い。時間軸が後ずれしただけで、引き締めの方向性は変わっていない。
この結果、10年債利回りは2月下旬の約3.96%から5.2%台へ、30年債は先週5.73%と2002年以来の水準に達した。バークレイズは10年物のタームプレミアムを1.3~1.5%と推計する。クック理事を巡る調査委員会の設置でFRBの独立性への疑念も再燃しており、これもプレミアムを下支えしかねない。水曜のCPI(コア予想+0.2%)は重要だが、仮に鈍化しても、原油と財政が支える「金利の床」はすぐには下がらないだろう。
▼論点1の結果=無リスク金利の切り上げで、すべての企業の資本コストが上昇。これが論点2の原因となる。
論点2:資本コスト上昇が迫る、AIの「規模」から「回収」への転換
資本コストの上昇を最も強く受けるのは、巨額の先行投資を続けるAIだ。ブロードコムのホック・タンCEOは「最大の制約は資本だ」と語り、インテルのリップ・ブー・タンCEOも資本コストと長期的なROIを課題に挙げた。米大手テック4社の今年の設備投資は約7,450億ドル、2026年の世界のAIインフラ向け債券発行は約4,500億ドルに達する。
市場の評価軸はすでに変わり始めている。トリヴァリート・リサーチによれば、予想PERが最も高い銘柄群の倍率縮小幅は最も低い銘柄群の約100倍で、1999年以降でもこれを上回る例はわずか5.3%しかない。S&P500の予想PERも年初の22から19へ低下した。SimCorpのブラウン氏は主因を高い利回りとし、インフラ構築に多額の資金を要するAI企業は「特に脆弱」と指摘する。
象徴的なのがメタだ。パーソナルAIエージェント「Muse」はエージェント由来トラフィックの40%を占めるヒットとなり、月曜には新モデル「Muse wonder」を公開して株価は3.4%上昇した。一方で、無料プランだけでユーザー1人あたり年間1,100ドル相当のAPIクレジットを付与しており、アプリ利用者1人あたりの年間収益63.54ドルとの差は大きい。営業利益率は43%から37%へ低下した。OpenAIの年換算売上高が従来の想定を約200億ドル下回るとのFT報道でAI株が揺れたことも含め、市場は「どれだけ作るか」から「いつ、どれだけ回収できるか」へと問いを移している。
注意すべきは、AI投資が他セクターの資本を吸い上げている点だ。巨額の社債発行は投資家の需要を吸収し、他企業の借入コストも押し上げうる。住宅ローン金利は7.4%に達した。
▼論点2の結果=4年間の強気相場がもたらした資産効果は株式保有層に偏り、借入コストの上昇は家計に重くのしかかる。これが論点3の原因となる。
論点3:K字型消費―「1人1票」のマインドと「1ドル1票」の消費
先週金曜のミシガン大消費者信頼感指数(10月速報)は46.3と、前月の48.1、市場予想の48を下回り、過去最低だった5月の44.8に迫った。特に低所得層と株式保有額の少ない層で急低下しており、1年先の期待インフレ率は4.7%、5~10年先も3.5%へ上昇した。
同大の特別レポートでは、これまで通りの購買水準を維持すると答えた消費者はわずか31%にとどまる。FRBの消費者金融調査でも、ローン返済が滞る世帯の割合は約12%から20%近くへ上昇し、2010年以来の高水準となった。その一方で、所得上位層の純資産の中央値は31%増加している。
対照的なのがデルタ航空の決算だ。ジェット燃料の高騰で通期の利益見通しは下方修正したものの、7-9月期の営業収益は前年比+21%、プレミアム収益は+18%、10-12月期も+20%の増収を見込む。富裕層は値上げを容易に受け入れている、という経営陣の説明がK字の上側を物語る。
このズレは集計方法から生まれる。マインド指数は「1人1票」で人口の多い低・中所得層の苦境を映すが、マクロの消費支出は上位20%の富裕層が過半を担う「1ドル1票」の世界だ。さらに値上がりを警戒した前倒し購買が、7-9月期の数字を一時的に押し上げている可能性もある。
▼論点3の結果=企業業績は「誰に売っているか」と「値上げを通せるか」で分かれる。これが論点4の判定基準となる。
論点4:Q3決算は「価格決定力」の審判
ファクトセットによれば、S&P500のQ3利益成長率見通しは+29.6%と3四半期連続で25%を上回り、上方ガイダンスを出した企業は72社と過去最多だ。純利益率は15%と2009年以降で2番目の高さが見込まれる。ドイツ銀行は、製造業では堅調な需要が価格転嫁を後押しした一方、消費者環境は弱いと指摘しており、まさにK字の構図と重なる。
ただし、高い成長はすでに織り込み済みだ。予想PERが圧縮される局面では、増益が株高に直結するとは限らない。決算で見極めるべきは次の3点だろう。第一に、コスト増を価格に転嫁して利益率を守れているか。第二に、AI投資について回収の道筋を数字で示せているか。第三に、顧客構成がK字の上側(プレミアム層)に寄っているか、下側の信用悪化にさらされていないか。
10月13日から始まる大手銀行の決算はその試金石になる。金融セクターの増益率は+4.9%と、ハイテク(+66.5%)に大きく劣後する見通しだ。モルガン・スタンレーのウィルソン氏は、金融株の相対パフォーマンスを株式市場の方向性を示す「最も重要な指標」と位置付けている。
総括:一本の線が示す「選別の物差し」と注目3銘柄
原油高が金利5%超を定着させ、資本コストの上昇がAIを「回収」で選別し、資産効果の偏在が消費をK字に割り、その結果、決算は価格決定力の審判となる。この一本の線の上では、指数全体を買う戦略よりも、線の各段階で「勝ち側」に立つ企業を選ぶ戦略が有効だと考える。
・メタ・プラットフォームズ(META):論点2の試金石。Muse Wonderで技術面の評価は高まったが、年1,300億~1,450億ドルの設備投資に対し、eコマースやサブスクリプションによる収益化の道筋と営業利益率の底打ちを示せるかが焦点となる。
・デルタ航空(DAL):論点3・4の体現者。燃料高でも営業収益+21%増を支えるプレミアム需要は価格決定力の証拠だ。今後は燃料コストを運賃にどこまで転嫁し続けられるか、プレミアム単価の伸びを注視したい。
・JPモルガン・チェース(JPM):論点1と論点3の交点。高金利のフォワードカーブは純金利収入の追い風となる一方、延滞率の上昇はK字下側の信用リスクを映す。CNBCは、直近5回の決算のうち4回は発表後に株価が下落しており、ハードルは低くないと伝える。2027年の純金利収入ガイダンスと与信費用を確認したい。
日本時間水曜夜に開示される物価統計CPI(消費者物価指数)で金利の重力が和らげば、出遅れていた金融・景気敏感株への循環が起こり得る。逆に上振れれば、論点1から線全体が再び締め付けられる。いずれの場合も、物差しは同じだ。
「資本コストを上回るリターンを、価格決定力で確保できる企業か」。この一点で銘柄を点検したい。