ワールドカップでスペインが16年ぶり優勝! サッカーの強さの源泉は何か?
1カ月超にわたり、熱戦が繰り広げられたサッカーの北中米ワールドカップは、スペインの16年ぶり、2回目の優勝で幕を閉じた。数々の感動的なシーンに加え、トランプ政権による政治介入など、ピッチの外でも話題の尽きない大会だった。そんな話をすればキリがないが、ワールドカップを見ていつも思うのが、国としてのサッカーの強さの源泉は何かということだ。
「サッカーの強さに人口は関係ない」は本当か?
よく聞く言説が「国の人口とサッカーの強さに関係はない」というものだ。確かに世界で人口が最も多いインドはワールドカップへの出場経験がないし、2番目に人口が多い中国は2002年に1度出場しただけだ。世界の人口上位20カ国のうち、今回のワールドカップに出場しているのは、開催国枠の米国やメキシコを含め9カ国にとどまる。
「サッカーにおいてピッチに立つのは1チーム11人だし、人口なんて関係ない」という理屈もしばしば耳にするが、半分正しくて、半分は誤りだと感じる。才能の出現を単純な確率論で考えれば、分母が大きい方が有利であるのは明確であるためだ。むしろ、「人口は一つの要素だが、それ以外の要素も大きく影響する」と考えるのが自然ではないか。
サッカーの強さの3大要素「人口」「所得」「経験」
15年以上前の書籍になるが、ジャーナリストのサイモン・クーパー氏と、スポーツ経済学者のステファン・シマンスキー氏の共著『「ジャパン」はなぜ負けるのか 経済学が解明するサッカーの不条理』(2010年・NHK出版、森田浩之訳)に興味深いことが書かれている。同著によると、サッカーの国際試合において結果を左右するのは「国の人口、国民所得、国際試合の経験」だという。
人口・所得・経験…。あることに筆者は気づく。経済学の成長理論であるソローモデルとほぼシンクロするのだ。同モデルでは「労働力」と「資本」、「技術進歩(イノベーション)」の3つの要素で国の成長を説明する。労働力人口が増えれば、生産活動に参加できる人が増える。資本の蓄積によって設備投資やインフラ整備が進めば労働者1人当たりの生産性が高まる。ただ、資本蓄積の効果には限界もあり、最終的には技術進歩でどのように生産性を高めていくかが、国の持続的な成長のカギになる。
サッカーの3要素に当てはめてみよう。ソローモデルの「労働力」が前述の「人口」にあたることは明確だが、「サッカー人口」と言い換えてもよい。国民の大半がクリケットに夢中のインドはサッカー人口がさほど多くないといえるだろう。「資本」は「所得」で説明できる。なぜなら、国民の所得が高く、豊かな国ほど、高品質なピッチやトレーニング施設などが整備されると考えられるためだ。これらは「サッカー資本」と呼んでもよいだろう。
「経験」がもたらす瞬時のイマジネーション
ソローモデルの「技術進歩」(「全要素生産性」ともいう)は厄介な存在だ。というのも、何が技術進歩につながるかは経済学最大のミステリーと言ってよく、いまだにコンセンサスが得られていないためだ。ある人は教育であると主張するが、文化や地理に起因するという見方もある。最近では政治や経済の「制度」が影響するという説も支持を集めている。完全には対応しないが、サッカーの文脈では「経験」が最も近いのではないか。
佐野海舟選手がブラジル戦で見せた、インターセプトからパスをせずにドリブルで決めたゴール、上田綺世選手の鮮やかな股抜きシュート、そして、攻撃の起点となる鈴木彩艶選手の正確なキック。欧州の主要リーグでの経験が、瞬時の想像力の土台になっているような気がしてならない。
1993年の「ドーハの悲劇」において、当時の日本代表は時間稼ぎの術すら知らず、ロスタイムにゴールを許し、ワールドカップ初出場を逃した。数多の国際試合を経験した今の日本代表が同じ失敗をするとは考えられない。「経験」は人口や資本では説明できないサッカーの強さに絡んでくる。
人口増加は経済成長にとって諸刃の剣
今回優勝したスペインは、人口・所得・経験の3要素を高い水準でバランスよく備えている好例ともいえる。そして、印象に残ったチームのひとつでもある、人口50万人強のアフリカの小国、カーボベルデ。欧州の主要リーグで活躍するカーボベルデ系移民を積極的に代表にスカウトすることで、人口・所得・経験の弱点を補って余りあるチームを作り上げ、準優勝国のアルゼンチンを延長戦後半まで苦しめた。
人口は大事な要素ではあるが、それだけでは説明できない――。サッカーの強さも国の経済成長も同じだ。特に経済成長を考えた場合、人口増加は諸刃の剣にもなるので、より注意が必要となる。いくら人口が増えていても、拡大する資源や消費財に対する需要が国内である程度賄えなければ、資本蓄積は進まない。輸入ばかり増え、経常赤字によって自国通貨安のリスクに常にさらされることになる。特に新興国の場合、自国通貨安は対外債務の増加や金融政策の不安定化につながり、経済危機を引き起こしかねない。
それだけ、国の経済成長は狭い道を進むことでようやく達成されるものであり、サッカーも然りだ。しかし、サッカー日本代表はその狭い道を着実に前へ進んでいるように思える。