タイムリミットまでの静寂、金利に対する不感症:なぜ超富裕層はキャッシュを握るのか
※今週のコラムは2026年4月6日早朝に執筆しています。
マーケットアナリスト大山です。今週も宜しくお願いします。
トランプ大統領がイランに予告していた発電所・橋梁への攻撃の猶予は日本時間7日の午前9時と見られていましたが、新たにSNSに「Tuesday 8PM」と投稿され、詳細は不明でよくわからないと言われていますがこの文面だけ見れば「1日延長?」と読むことが出来ます。中東情勢に進展が見られるのでしょうか。
NY市場が閉まっている間に何かが起きる、あるいは起きないという『静寂の恐怖』を投資家が試されている気がします。
【今週のコラム要約】
- 中東情勢の緊張続くもAIへの信頼は回復
- NY連銀は企業の投資が金利に「不感症」であると指摘
- 一方で変圧器不足等の「物理的な制約」がデータセンター建設の壁に
OpenAIの巨額調達やスペースXの上場観測が、市場に「次なる成長」への強い期待を再注入している。
巨大テックは潤沢なキャッシュを武器に、金利高を無視してAIへの先行投資を加速させている。
今後は期待先行の銘柄ではなく、インフラの急所を握る企業の選別が重要となる。
市場は懸念の壁から「次なる成長へ」
依然市場は「懸念の壁」を登っていますが、S&P500株価指数は1月末の過去最高値から約6%、米イラン紛争直前からわずか約4.3%下落しただけに過ぎません。原油価格は高止まり、先物価格からも夏にかけてエネルギーコストが高止まりする兆候が見られているものの、米主要メディアCNBCは先週末に、調整局面は既に90-95%ほど通過・消化したのではないか?と伝えています。確かに先週の値動きを見ると、不確実性は残っているものの、緊張緩和の兆しが見えると、投資家が積極的に市場に復帰しようとする傾向が強まっている・・・と感じます。
FACTSETによれば、これから始まる1‐3月期の企業決算に於いて、ウォール街が第一四半期の利益成長率を14%、通年で18%強と見込んでいる・・・からでしょうか。国内経済が2%程度で緩やかに拡大し、期待インフレの低下に伴って金利急騰リスクが多少和らいでいること、そしてOBBBAによる減税という財政支援があれば戦争リスクが払拭されれば株価を押し上げるには十分だと見られているのかもしれません。
さらに、投資家は中東の海峡再開の可能性を考え、週末に報じられたメガAI企業の新規上場(スペースXのIPO)とOpenAIの最新の巨額資金調達ラウンドを受けて、AIへの信頼が回復していると判断しているのではないでしょうか(OpenAIはシリコンバレー史上最大の民間資金調達1,220億ドルの新資金調達を確約、これにてOpenAIの企業価値は8,520億ドルへ。これまでのマイクロソフト一辺倒だった資本構成という歴史的な関係から、資本を提供する企業が多様化することになります)。
この様に、状況証拠を並べてみれば、市場のムードは最悪期には無いと考えています。
週末の報道をさらに見ていくと、資産1億ドルを持つ超富裕層グループ「R360」メンバーの資産運用の様子を伝えていて、現在は約3割をキャッシュポジションに置き、虎視眈々と次の展開を狙っていると言います。リスクウエイトを急激に落としたのか、徐々に落としてきたのかは分かりませんが、資金を引き上げるという事ではなく、次の投資機会に備えてメンバーが十分な流動性を確保していると報じています。
(グループメンバーの認識として運用資産は、次の世代に受け継ぎたい資産であるため、市場の短期的な変動は気にしない)
CNBCによれば、欧州系プライベート・バンク(ウエルスマネジメント)のUBSも、米系プライベート・バンクも同様の傾向があることを伝えていました。ハイネットワース層の投資家にとって、大型株の中でテクノロジー企業と金融セクターは中長期的なスペシャルシチュエーションと映っているようです。
ここで一つ、非常に興味深いデータをご紹介します。ニューヨーク連銀が最近発表したレポート(SR1190)によると、現代の企業投資は「金利の上下に対して極めて鈍感(不感症)」になっているというのです。
かつては「金利上昇=設備投資の冷え込み」が常識でしたが、今は違うのです。
巨大ハイテク企業は、銀行からの借金ではなく、自前で稼いだ「潤沢な手元のキャッシュ」でAIへの巨額投資(設備投資Capex)を続けています。つまり、ハイテク企業にとっては、目先の金利が5%だろうが6%だろうが、AI覇権争いに遅れるリスクの方が遥かに大きいのです。
これが、金利高止まりの中でもS&P500が底堅く推移し、富裕層が「次の買い場」を虎視眈々と狙っているロジックの正体・・・だと考えています。
「情報の期待値」が剥げ、見えてきた「物理の現実」
しかし、無敵に見えるAI投資にも、実は「物理的な壁」が立ち塞がっています。
今、米国のAIデータセンター建設現場で起きているのは、資金不足ではなく「部品不足」です。
変圧器(トランス)の納期は5年
スイッチギア、バッテリーの不足
データセンターのコストのうち、これらの部品はわずか10%に過ぎません。しかし、この「10%の部品」がなければ、どんなに高性能なGPU(半導体)があっても「ただ熱を発するだけの箱」になってしまうのです。この「デジタル(情報の魔法)がアナログ(物理の制約)に屈服する瞬間が間近に迫っています。
市場が今、Mag7(超大型テック7社)を厳しく選別し始めているのは、単なる戦争への恐怖ではなく、この「計画通りに物理インフラが建つのか?」という、冷徹な現実(リアル)に気づき始めたからです。
私たちは今、何を「ハッスル」して物色すべきか?
1‐3月期を振り返ります:
S&P500 index:マイナス4.6305%
マグニフィセント⑦ index:マイナス12.0403%
マイクロソフト:マイナス23.4585%
メタ:マイナス13.3255%
こうしてみると、年初来のパフォーマンスでマグニフィセント⑦index以上に出遅れたマイクロソフト<MSFT>やメタ<META>にチャンスはないのか?と考えてしまいます。仮にS&P500株価指数のマイナス4.6%を戦争由来のマイナスと考えれば、4.6%以上に下がった部分が個別要因かもしれません。ですから私は、むしろここからが「真の選別投資」の始まりだと考えても良いのではないか?と思うのです。
マイクロソフト<MSFT>:「AIが既存ソフトを食う」という懸念で売られ、株価は10年ぶりの割安水準(PERベース)にあります。しかし、彼らはAzureというクラウドビジネスを通じた「知性の地主(インフラ)」であると考えています。
メタ<META>:彼らは誰よりも早く「供給制約の重要性」に気づき、コーニングと巨額の光ファイバー契約を結びました。「物理的な血管」を自前で確保した強みは、今後さらに際立つのではないでしょうか。
結論:情報の霧を抜け、物理の「急所」を握る
今の相場を読み解く鍵は、FRBの利下げ時期を当てることではなく、「AIという魔法を動かすための、泥臭い物理インフラの急所」を誰が握っているかを見極めることだと考えています。
創業175年老舗企業、最近の株価は「深い眠りから目覚めたシンデレラ」と呼ばれるコーニング<GLW>、そして日本企業のフジクラ<5803>が脚光を浴びているのは、偶然ではありません。情報の夢が剥落し、実体が顔を出す今の局面こそ、長期的な「スペシャル・シチュエーション」を仕込む絶好の機会かもしれません。
この月曜日の朝、未だ暗闇のカウントダウンが続きますが、私たちは「手元に届く部品」と「確実に稼働するインフラ」を信じて市場に向き合うしかないと考えています。