加速するAI経済、AI軍拡競争は加速する
マーケットアナリスト大山です。今週も宜しくお願いします。
今週は米ベッセント財務長官が13日までの日程で来日、14-15日は米中首脳会談、日本企業の1‐3月期(年度末)決算発表がピークを迎え、イベントが詰まっている状態です。
先週末に開示された米雇用統計は、非農業部門雇用者数は2か月連続で市場予想を上回り、失業率は前月と変わらぬ4.3%が維持され、中東情勢に伴ってエネルギーコストが上昇している中であっても労働市場は堅調であると示されていました。
ただし、同日に発表になった景況感を示す経済統計ミシガン大消費者信頼感指数は依然として低迷、過去最低を更新しました。物価上昇が家計や購買環境に与える影響への懸念が強まっています。
しかし株式市場は好調、半導体株は依然上昇基調が続いています。4月に株価が3倍になったインテル<INTC>、2倍になったマイクロン<MU>やサンディスク<SNDK>などは上昇基調を維持し、マグニフィセントセブンindexも昨年10月の高値を抜いてきました。
中東情勢に対する懸念は過去のもので、「中東由来のコストプッシュ?米企業には関係ない」と言わんばかりです。AI懸念は急速に薄れ、企業のAI向け設備投資は米国経済成長に一役買っています(米商務省曰く)。1-3月期GDP成長率は人工知能(AI)・データセンター関連投資に牽引されて2%成長に戻り(経済成長がAI関連投資への偏重が懸念されますが)、前四半期の0.5%成長から大きく復活。株式市場を動かすのは企業業績である・・・と言いたい感じ。暗いムードはどこへやら・・・。
米国企業決算発表は終盤に入ります
ここまでS&P500構成企業の89%が、2026年第1四半期1‐3月期業績を報告しています。
先週末5/8段階でFACTSETが纏めていますが、S&P500構成企業のうち、予想を上回る業績を発表した企業の割合と、その業績サプライズの大きさは、いずれも近年の平均を上回っています。
開示された1‐3月期第1四半期の業績は、前週末まで及び前四半期末と比較して上昇していました。
決算発表した企業のうち、84%が予想を上回るEPSを報告、これは2021年第2四半期(87%)以来、S&P500構成企業の中でEPSのプラスサプライズを報告した企業の割合としては最高。
3月31日以降では、「マグニフィセント7」のうち3社(Alphabet、Amazon.com、Meta Platforms)が決算発表したEPSサプライズが、この期間の指数全体の収益成長率の上昇に最も大きく貢献しています。
利益はどうか?というと、利益も同様に好調です。売上もS&P500構成企業の80%が予想を上回る実績を報告しています。
この様な情勢の中でハイテク株が今後も業績を維持できるのかどうかは市場参加者でも大きな話題になりました。CNBCはモーニングスターの調査を報じていますが、AI関連銘柄は2019年以来の割安水準、しかしその一方でハイパースケーラー各社が設備投資水準を無制限に維持できるかどうか見極めるのに困っている様子です。これをバブルと呼ぶのか?については「過去のバリュエーション(PER)推移を見るとよいのですが、FACTSETによれば、2025年10月の情報技術セクターPERは30倍で、以降は企業の「E」利益が増加しているので結果的に評価倍率が低下しています。「ハイテク株は株価に見合う成長を遂げている」と言えます。モーニングスターは「2019年以来最大級に割安だ」と述べていました。
これはファンダメンタルズが堅調で半導体の需要は予想を上回り(マグニフィセントセブン株価が軟調の時でも半導体メモリ、HDD、光ファイバー関連銘柄が好調だったことでも理解できます)、データセンターやインフラといった主要な成長要因も健在で、AI成長ストーリーにはまだ余地があると述べています。
事実、ハイテク大手4社(アマゾン、マイクロソフト、メタ、アルファベット)の2026年AI向け設備投資予定額は7250億ドル、さらにオラクル・コアウィーブを含めた6社合計では来年1兆ドルを優に超えてくるという見解がウォール街で確立されようとしています。
テクノロジーはあらゆるもの、あらゆる人に対する答えで、循環的なものであると同時に、ディフェンシブでもあり、収益成長の原動力でもあります。
つまり、
投資家がAIに熱狂しているとき、テクノロジー株を買い、
インフレを懸念した時も機関投資家はハイテク株を買ってきた。
ベンチマークをアウトパフォームした時もハイテク株を買ってきた。
僕が嫌いなサステイナビリティを意識した時もハイテク株を買い、
成長株に投資したかった時はもちろんハイテク株を買い、
設備投資サイクルに賭けたかった時も当然の様にハイテク株を買い、
世界情勢を懸念した時にキャッシュを(キャッシュが潤沢な企業を)求めたときもハイテク株を買ったのです。
今回だって絶対にそうだと思われています。
何故だと思いますか?FOMOだからです。
(FOMO:英語の「Fear Of Missing Out」の略。新しい情報や周囲の行動についていけないと、社会から置いてきぼりになってしまうと不安や恐怖を感じる状態のこと)
■前職で世話になったゴールドマン・サックス証券調査部トップマネジメントのJ.Covello氏が非常にユニークなことを述べていました。
米経済誌FORTUNEに掲載されていましたが、“Too Much Spend, Too Little Benefit?”
『AIのコストは高く、成果は低い』とのことで、これは企業の担当者にとっても市場参加者にとても「冷や汗レベル」の話です。
記事を要約すると
・膨大なAI投資と低い費用対効果の現実AIインフラへの巨額投資が続く一方で、95%の企業が実証実験から利益を得ておらず、費用対効果の低さが浮き彫りになっています。
・利益の偏在と生産性向上の限界投資資金の大部分は特定の半導体企業に集中しています。AIは労働を部分的に補完するのみで、投資を正当化する生産性向上をもたらしていません。
・FOMOと「負けないため」の軍拡競争企業は投資回収よりも「乗り遅れる恐怖(FOMO)」に突き動かされ、「負けないこと」を目的とした軍拡競争で設備投資を拡大し続けています。
最新の調査では、企業のAIインフラへの莫大な投資コストに対して、実際に得られている成果(ROI)が著しく低いという厳しい現実が浮き彫りになりました。2026年から2031年にかけて、AI関連の累積設備投資額は約7.6兆ドルに達すると予測される一方で、米マサチューセッツ工科大学の調査ではAIを導入した組織の95%が収益に結びついておらず、米コンサル企業のEY社曰く、調査対象企業の99%がAI関連リスクによる財務上の損失を報告しているとのこと。企業のマネジメントが「AIが生産性に与えている効果」と「現場の報告」の内容には、未だ大きな隔たりがあるように見えます。
AIは労働者を全面的に置き換えるほどの劇的な生産性向上をもたらしておらず、エコシステムに流入する投資資金の大部分が、Nvidiaのようなサプライチェーンの上流企業に吸い上げられているのが現状なのです。
それにもかかわらず、ハイパースケーラーを中心とする企業が巨額のAI投資を止めない最大の理由は、合理的な資本配分や投資利益率(ROI)の追求ではなく、「FOMO(乗り遅れることへの恐怖)」です。現在のAIブームを牽引しているのは経営者たちのあからさまな不安感であり、この状況は「軍拡競争」に例えられています。軍拡競争とは、その定義上「勝つこと」ではなく「負けないこと」を意味します。
経営トップたちは、ROIの試算表が利益を示しているからデータセンターを建設しているわけではありません。
彼らが恐れているのは、競合他社がAIによって業界を変革していくのをただ傍観し、致命的な判断ミスを犯すことです。その「負けることの代償」は、将来回収できないかもしれないインフラに現金を浪費するコストよりも、企業の存在を脅かすほどはるかに高いと感じられているのです。
このような「負けないこと」を最優先する軍拡競争は、企業の費用対効果(ROI)に深刻な悪影響を及ぼしています。企業は現在の株主への利益還元よりもAI軍拡競争への参入を優先しており、フリーキャッシュフローを枯渇させ、巨額の債務を発行してまで投資を拡大しています。さらに、電力不足や人材の制約といった物理的ボトルネックに直面しても、企業は野心を縮小しません。他社に遅れを取ることを恐れるあまり、コストの上昇や工期の「延長」を受け入れ、非効率性をそのまま吸収しているのです。投資判断が合理性ではなく、人間らしい不安や恐怖に支配されている結果、投下資本に対するリターン(ROI)は完全に度外視され、「過剰な支出と過小な利益」というギャップが広がり続けているのです。
これが現在の循環・加速型AI経済です。
【まとめ】
資本が合理性を超えて、恐怖心によって駆動される時、相場は常軌を逸したエネルギーを持ちます。私たちが見ているのは、単なるブームではなく、企業という生き物が生き残りをかけて「物理的な実体」を奪い合う壮大な生存競争という景色なのかもしれません。
GS J.Covello氏の「冷や汗レベル」の話は投資のチャンスとリスクに置き換えて考えるべきだと感じています。