インド株復活なるか!? 「英語国の罠」とフィリピンとの類似性から読み解く

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2026年08月12日

インド株復活なるか!? 「英語国の罠」とフィリピンとの類似性から読み解く

投資信託の普及で、日本の個人投資家にとっても、インド株式は身近な投資対象になった。ただ、フィリピン株と聞いて、ピンとくる人は少ないだろう。国内籍のフィリピン株投信は3本存在するものの、純資産額は合計で20億円にも満たず、存在感は極めて小さい。さて、インドとフィリピンと聞くと「アジアの新興国」くらいしか共通点が見いだせないように思えてしまうが、実はとても似ているのではないかと最近思う。


コロナ禍の2020年、両国とも経常黒字

「資源国の罠」は聞いたことがあるけど「英語国の罠」ってなんだ!? タイトルが気になって仕方ない人もいるかもしれないが、順を追って話を展開するので、焦らずに追っていただきたい。

まずは、インドとフィリピンの国際収支構造からみていこう。ある国が外国との取引において、全体としてどれくらい儲かったか、もしくは、どれくらい損したかを示す指標を経常収支という。常に外国との取引において損をしている国は経常赤字国と呼ばれ、インドとフィリピンはそのイメージが強い。自国で消費するエネルギーを輸入に頼っているうえ、製造業がそこまで強くなく、輸出で稼げていないことが大きい。

経常赤字体質であるということは自国通貨安の懸念に常にさらされているということでもある。これは特に新興国にとっては死活問題にも発展し得る。米ドルやユーロ建て債務の返済が困難になるうえ、金融政策の自由度も狭めることにもなるためだ。前述の通り、インド、フィリピンとも、いわゆる経常赤字国であり、投資対象として考えた場合、その点を危惧する声は多い。しかし、なぜかコロナ禍の2020年はそろって経常黒字となっている。

インド及びフィリピンの経常収支推移

2020年に両国が経常黒字となった第一の理由は原油価格の下落だ。新型コロナウイルスの感染拡大による経済活動の停止で、原油の需要は激減。WTI先物の価格がマイナス(購入すればお金がもらえる状況)にもなった。当然、エネルギーを輸入に頼る両国の経常収支にはプラスに働く。

もう一つは、財の輸出入以外の分野におけるインドとフィリピンの国際収支上の特徴だ。経常収支は①貿易収支②サービス収支③第一次所得収支④第二次所得収支――からなる。インドの場合、貿易収支(=財の収支)での赤字を、得意分野であるITなどのサービス収支の黒字で一部を補填しているというのが実態だ。コロナ禍では、財の貿易の停滞とエネルギー価格の下落から、貿易収支の赤字が減少する一方、モノの移動があまり伴わないサービス輸出による受取が2000億ドル程度と安定していたため、結果的に2020年は経常黒字となった。

インド及びフィリピンのサービス収支の推移

フィリピンも、サービス収支はコロナ禍で落ち込んでいない。これは欧米企業からのコールセンターなどの業務受託が悪化しなかったことも原因だろう。このほか、フィリピンにおいて注目すべきは、第二次所得収支の底堅さだ。第二次所得収支は財・サービス取引や、配当金・利子の受取・支払といった投資における収益(第一次所得収支)以外の取引によるもので、海外の出稼ぎ労働者の自国への送金などが該当する。

インドおよびフィリピンの第二次所得収支(海外からの送金など)の推移

2020年は多少へこんではいるものの、世界的なロックダウンや渡航制限といった状況を考えると、踏ん張っているように見える。家族との絆を重んじるフィリピン人の海外出稼ぎ労働者(Overseas Filipino Worker=OFW)がコロナ禍でも自国への送金を欠かさなかったこと、そしてコロナ禍においては、OFWに占める割合が多い、医療従事者などのエッセンシャルワーカーの活躍の場が多く、雇用が維持されたことが背景にあるのではないか。

ちなみにインドにおいても、第二次所得収支の影響は大きく、2020年も水準は維持されている。世界に散らばる印僑の自国への送金が寄与しているとみられる。その点、フィリピンと構造は同じだ。

つまり、製造業に強みを持つとは言えず、エネルギーも輸入に頼っているのが両国の特徴だが、ITサービス、コールセンター、海外への出稼ぎと言った独自の外貨獲得手段を持ち、その強みが発揮されたのが2020年と言えよう。


英語話者の多さゆえに起きうる産業の偏り

ここでようやく、「英語国の罠」の話にたどり着く。インドとフィリピン、真っ先に思いつく共通点は、英語を話す人が多いということだ。フィリピンにおいて英語はフィリピノ語と並んで公用語とされ、成人の約8割が英語を理解するという。インドの場合、英語を使う人は人口の1割超にとどまるとされるが、14億人超の人口を考慮すれば、米国に次いで英語話者が多い国ということになる(※補足あり)。このことは産業構造にも影響を与えているのではないだろうか。

インドやフィリピンが強みを持つITサービスやコールセンター、海外への出稼ぎはいずれも英語が武器になるビジネス領域だ。こうした分野が伸びる一方、国内製造業の空洞化は深刻な問題として顕在化した。通常、国の経済発展に伴い、中心となる産業は、第一次産業→第二次産業(製造業)→第三次産業(サービス業)と移っていくとされるが、第二次産業をスキップして、第三次産業に移行してしまったのがインド、フィリピンの類似点といえるのかもしれない。

製造業が国の成長にとって重要なのは、経常収支に与える影響だけではない。例えば、そのバリューチェーンの広さは重要なポイントとなる。製造現場はもとより、開発やマーケティング、販売、物流など、製造業は多方面の経済活動に関与し、多くの雇用と付加価値を生む。そして何より、製造業を通じたイノベーション創出は国の永続的な成長に欠かせない要素となり得る。


「課題」が明確なインド・フィリピン、人口動態面での強みも

ここまでの話を通じて、インドとフィリピンに対してネガティブなイメージを持った人もいるかもしれない。しかし、筆者の見立ては全く逆で、この2か国は投資先として、とても期待できる国だと考えている。製造業強化とそれを促進するためのインフラ整備と言った具合に、課題が非常に明確であるためだ。実際にインドではモディ首相のもと、「メイク・イン・インディア」という製造業振興策が進められているし、フィリピンもこれまで厳格だった外資系企業による出資規制の大幅な緩和に踏み切っている。ピンチはチャンスにもなり得るのだ。

「罠」という言葉を敢えて使ったが、本来、英語が通じる国というのは対内直接投資を呼び込むうえで大きなアドバンテージでもある。そして、ポジティブな意味で、両国の共通点としてあげられるのが人口動態面での優位性だ。両国とも人口ボーナス期の真っただ中であり、製造業強化がそれにうまくかみ合えば、資本蓄積の進展とイノベーションによる生産性向上で大化けする可能性も否めない。

インド・フィリピンの「生産年齢人口÷従属年齢人口」の推移

さて、話は変わるのだが、日本も明治維新や第二次世界大戦の敗戦と言ったタイミングで、英語の公用語化の構想が論じられたとされている。仮に実現していたら、日本の産業構造はどのようになっていただろうか。製造業を核とした高度経済成長は成し遂げられなかった可能性も否定できない。

筆者はお世辞にも英語が達者とは言えないが、日本人にとって英語が不得手なのは悪いことばかりではなかったのかもしれない。やはり国の経済成長はなかなか難しいものである。


【※補足】
フィリピンの英語話者の割合については、9割近くに達するという情報もあるが、フィリピン国営通信社(Philippine News Agency)の報道によれば、成人人口の80%が英語の会話や記述を理解し、47%が英語で考える能力を持っているとしている(「ソーシャル・ウェザー・ステーションズ」2023年調査)。インドの英語話者に関する情報は、2011年国勢調査が最新となっており、英語を母語、第2言語、第3言語としている人の比率を合計すると10.6%になる。


著者プロフィール

海老澤界

海老澤界

松井証券シニアファンドアナリスト。横浜国立大学経済学部卒業後、日刊工業新聞記者を経て格付投資情報センター(R&I)入社。年金・投信関連ニューズレター記者、日本経済新聞記者(出向)、ファンドアナリストを経て、マネー誌「ダイヤモンドZAi」アナリストを務める。長年、投資信託について運用、販売、マーケティングなど多面的にウォッチ。投信アワードの企画・選定にもかかわる。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。投資信託を多面的にウォッチし、豊富な投信アワードの企画・選定経験から客観的にトレンドを解説。


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