130周年を迎える「NYダウ」とは? これからも輝き続けるか
2026年は「NYダウ」(ダウ・ジョーンズ工業株価平均)が誕生し、130周年の節目の年になる。インデックスファンドが連動を目指す米国株指数としては、S&P500が主役の座に君臨しているものの、「米国株式のシンボル」として、今なお、強い存在感を示し続けているのがNYダウだ。たった30銘柄、極めて主観的な選定基準、株価の単純平均という不可解な算出方法…。ツッコミどころ満載でも、「伝統」の一言で一蹴する強さは、これからの時代にこそ、価値が増してくるのかもしれない。
目次
1896年に誕生したダウ、当初は12銘柄で構成
それにしても、なぜ「工業株平均」なのだろうか。そこには歴史的背景も隠れている。19世紀後半、米国の大企業の中心は鉄道会社だった。ダウ・ジョーンズ社の共同創業者でジャーナリストのチャールズ・ダウ氏が、当初算出していたのも鉄道会社の株価平均だ。しかし、それだけだと米国経済の動向を測る指標としては不十分だと考え、鉄道で運ばれていた工業製品を生産した企業の株価平均の算出を画策する。
かくして1896年5月26日、NYダウ(ダウ・ジョーンズ工業株価平均)は誕生する。記念すべき最初の数値は「40.94」。当初の構成銘柄数は、現在の30銘柄ではなく、12銘柄の平均であり、紙と鉛筆によって、1日1回の頻度で更新されていた。現在のNYダウは製造業に限らず、サービス業や金融なども含む指数であるが、輸送関連企業は含まれていない。先輩にあたる鉄道株平均が「ダウ・ジョーンズ輸送株平均」と名を変え、現在も存在するためだ。(※1)
余談だが、筆者は信用格付け会社に在籍していた過去があるので、ちょっとした豆知識を挟み込みたい。「AAA」といったアルファベットを用いた格付けの起源は、1909年にムーディーズが公表した、鉄道会社が発行する債券(鉄道債)に対する評価だとされている(※2)。ダウ誕生の話とともに、米国における直接金融の歴史の長さと奥深さが伝わるエピソードではないか。
「評判」「関心」…主観的な基準で構成銘柄を選定
歴史的経緯の話はこれくらいにして、NYダウの特徴を深掘りしてみよう。例えば構成銘柄の採用基準。現在、NYダウを算出しているS&Pダウ・ジョーンズ・インデックスが公表しているメソドロジーによれば、以下に当てはまる企業に限られるという。
・評判が高い
・持続的な成長を達成している
・多くの投資家が高い関心を示している
「持続的な成長」は定量的な基準で評価できそうだが、「評判」(reputation)や「関心」(interest)は人間による定性的な判断に頼る部分が多くなる。実際、構成銘柄を選定しているのは指数委員会という会議体であり、前述の基準などをもとに、米国上場企業の1%にも満たない30社を選定する。(※3)
非常に狭き門であり、例えば、米国を代表するハイテク企業でもあるアルファベット(グーグル持ち株会社)が構成銘柄に入ったのも、2026年6月29日と、つい最近だ。構成銘柄の見直しについては、他の代表的な指数でよくあるように、四半期に1度といった定期レビューが設けられているわけではなく、あくまで、「必要に応じて」となっている。(※4)
NYダウ構成銘柄一覧(2026年8月18日時点)
| アルファベット ※6月29日採用 |
ボーイング | ウォルト・ ディズニー |
JPモルガン・ チェース |
ナイキ | ユナイテッド・ ヘルス |
| アマゾン | キャタピラー | ゴールドマン・ サックス |
ジョンソン・ エンド・ ジョンソン |
エヌビディア | ウォルマート |
| アメリカン・ エキスプレス |
シェブロン | ホーム・デポ | マクドナルド | プロクター・ アンド・ ギャンブル |
セールスフォース |
| アムジェン | シスコシステムズ | ハネウェル・ インターナショナル |
メルク | シャーウィン・ ウィリアムズ |
トラベラーズ |
| アップル | コカ・コーラ | IBM | マイクロソフト | 3M | ビザ |
(出所)S&P Dow Jones IndicesウェブサイトおよびQUICKをもとに松井証券作成
「単純平均」にはリバランス効果というメリットも
また、株価の単純平均というのも、他の指数ではあまり見られないNYダウの特徴だろう。分かりやすく言えば、構成する30銘柄を同じ株数ずつ持ったポートフォリオを組めば、誰でも容易にNYダウと同じ値動きを再現できる。
1970年代にバンガード社のジョン・ボーグル氏が世界初の個人投資家向けインデックスファンドを開発して以降、S&P500のような時価総額加重平均型がインデックス運用には最適であるという考えが支配的となった。細かな説明は省くが、「効率的市場仮説」「現代ポートフォリオ理論」という理論の裏付けがあるためだ。
NYダウが単純平均の方式を守っているのは、一言で言えば「伝統」ということになる。ただ、コンピューターがない19世紀後半に時価総額加重平均といった複雑な計算を続けるのは困難であっただろうし、株式市場の大まかな値動きを知らせるという指数の原始的な役割を考慮すれば、代表的な銘柄の株価の平均で十分、その任務を全うできていたともいえる。
もっとも、単純平均という設計を、必ずしも、非合理的であると決めつけるべきではない。株式分割による利益確定、他の銘柄への配分というリバランス効果があるためだ。構成銘柄が株式分割をした場合、NYダウは、指数の連続性を保つために、株価の合計(分子)を割る「除数」(分母)を調整する。理解しやすくするため、構成銘柄が3つと言う前提で考えよう。
【株式分割前】
銘柄A…100ドル(指数全体の33.3%)
銘柄B…100ドル(指数全体の33.3%)
銘柄C…100ドル(指数全体の33.3%)
除数が3だとすると、指数は(100+100+100)/3=100ドル になる。
仮にAが1株を2株にする株式分割を実施したとしよう。株価の変動を考慮しなければ株価は50ドルになる。
【株式分割後】
銘柄A…50ドル(指数全体の20%)
銘柄B…100ドル(指数全体の40%)
銘柄C…100ドル(指数全体の40%)
この場合、除数を3から2.5にすることで、指数は(50+100+100)/2.5=100ドル となり連続性が保たれる。NYダウのインデックスファンドに投資していることを想定すると、仮に構成銘柄が株式分割しても、運用資金がインデックスファンドから出ていくことにはならないから、除数による調整によって、Aの利益確定、BおよびCへの再配分という動きがファンド内で自動的に生じることになる。
NYダウの指数委員会は、構成銘柄の株価水準に大きな差が生じないように、指数の中で最も株価の高い銘柄が最も株価の安い銘柄の10倍以上であるかどうかを監視する。ダウ採用銘柄というステータスを維持したいインセンティブも働き(もちろんそれだけではないが)、株価が上昇した銘柄が株式分割をすれば、このようなリバランス効果が生まれる面もある。
質を重視した銘柄選定が奏功? NYダウのインデックス運用はアリか
下のグラフは2001年以降のNYダウとS&P500の値動きを配当込み指数ベースで比べたものだ。足元ではS&P500がNYダウを上回っているが、NYダウが勝っている期間も多い。加えて、NYダウの方がS&P500よりも月次リターンベースでの標準偏差は抑えられている。30銘柄が少ないと思う人もいるかもしれない。しかし、理論的には30銘柄もあれば、十分に分散効果は効く。加えて、指数委員会による質を伴った大型株の選定が指数のボラティリティを抑える効果をもたらしている面もあるだろう。
インデックス運用の資金が世界的に拡大し、「考えない投資家」が増える中、巨大な不確実性を抱えたメガIPO企業が次々と株式市場に放たれようとしている。「時価総額加重平均型指数が効率的」であるというインデックスファンドの哲学が通用しなくなりつつある局面を迎えつつあるのかもしれない。今後、インデックスにとって、投資家への付加価値の提供をどう考えるかは重要なテーマになるだろう。
そう考えると、NYダウは投資家への付加価値提供に主眼を置いた、究極の株価指数ともいえる。130年という歴史の重みは無視できない。今こそ、NYダウの持つ価値に目を向けてもよいのではないか。
(※1)NYダウには公共株も組み入れられず、「ダウ・ジョーンズ公共株価平均」という別の指数が存在する。
(※2)小立敬「格付け会社の今後のあり方-企業会計不正事件と金融危機を受けた格付会社の規制環境の変化-」(証券アナリストジャーナル2013年10月号)
(※3)NYダウの銘柄選定については、適切なセクター配分維持も考慮されるほか、米国で設立され、米国に本店を構えている企業であることも条件。
(※4)メソドロジーには「コーポレート・アクションや市場動向に対応していつでも変更を行うことが可能」と強調している。また、変更のアナウンスは予定日の1~5日前に発表される。
【参考サイト】
「ダウ・ジョーンズ平均メソドロジー」(2026年5月)S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス