なぜ「フィデュ―シャリー・デューティー」が大切なのか

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2026年04月07日

なぜ「フィデュ―シャリー・デューティー」が大切なのか

「フィデュ―シャリー・デューティー」という言葉がある。「受託者責任」ともいう。投資信託をはじめとする金融商品に関わる金融機関にとって、年々重要が増しているキーワードだ。実は、金融商品に限らず我々の生活に身近な概念でもある。


「受託者責任(フィデュ―シャリー・デューティー)」とは

そもそも「受託者責任(フィデュ―シャリー・デューティー)」とは何か。人間は自分の手に負えない問題に直面した時、専門家に頼らざるを得ない。病気やケガをすれば医師の診察を受けなければならないし、法律のことで悩んだら、弁護士の力を借りるしかない。当然、人によって力量は異なるが、頼んだ以上、信じて託す以上のことはできない。そして託された医師や弁護士は、委託者の利益を第一に考えて行動する義務・責任を負う。これがフィデュ―シャリー・デューティーだ。

フィデュ―シャリー・デューティーのイメージ図①

投資の世界でもフィデュ―シャリー・デューティーは重要な概念だ。例えば、金融庁は2017年に「顧客本位の業務運営に関する原則」を策定し、金融事業者に対して、顧客本位の金融商品・サービスの提供にかかわる具体的な方策の開示を促した。こうした世の中の流れを受け、筆者は評価会社に在籍していた頃、投資信託の販売会社が「いかに顧客本位で業務を遂行しているか」をレーティングするビジネスに携わっていたこともある。

前述の「顧客本位の業務運営」は金融事業者の裁量に委ねられた「努力義務」の側面が大きいが、投信という金融商品においては、フィデュ―シャリー・デューティーに関わる非常に強力な法的規範が存在する。投信の運用会社は、受益者の利益を追求して行動する義務を負う。そして、その義務に反して受益者に損害を生じさせた場合、受益者に対して損害賠償責任を負うことも投信法に明記されている(※本文後に補足)。


突然、動けなくなる…

自分ごとで恐縮だが、3月に5日間ほどヘルニアで入院した。騙しだまし使い続けていたガラスの腰がついに壊れ、身動きが取れないほどの激痛が襲ってきたためだ。入院してからも約3日間、ベッドの上で寝たきりの状態が続き、トイレにも行けない時間を過ごした。しかし、そんな日々が皮肉にも、フィデュ―シャリー・デューティーについて改めて考えるきっかけを与えてくれた。

病床で毎朝一番、スマホで欠かさず確認していたのが、日本経済新聞に連載されていた村木厚子さん(元厚生労働次官)の「私の履歴書」だ。そういえば初回(2026年3月1日付)にこんな話があった。全く身に覚えのない罪で大阪地検特捜部に逮捕された村木さんは拘置所で「人は一瞬で支えられる側になる」と気づいたという。

村木さんの壮絶な体験を自分に重ねるのは恐れ多いが、入院中の筆者は支えられなければ生きていけない状況だった。特に入院当初、自分でどうにかできるのは半径1メートルの世界にあるものだけだ。それも、体の使い方を一歩誤れば、全身に激痛が走る。人に頼るのは苦手だが、少し大げさに言えば生存にすら関わってくる問題にもなりかねない。躊躇しつつ、もたびたびナースコールのボタンを押した。

幸いにも、お願いしたことの2倍以上の丁寧な対応をしてくれることがほとんどだった。ただ、自分が非力になった時、すべてを他者に委ねなければいけないこともあるという現実を突きつけられ、恐怖すら覚えたのも事実だ。もちろん、すべての職業においてフィデュ―シャリー・デューティーという言葉が使われているわけではないが、共通する思想は我々の生活に身近なあらゆる場面で求められている。


フィデュ―シャリー・デューティーの土台は?

投資の話に戻ろう。頼む側は資産運用に必要な知識や情報を持ってなければ、時間もない場合が多い。場合によっては不安だらけの状況で、大事なお金を他人に託す。託された側は見られていないところで手を抜くことはできるだろう。だからこそフィデュ―シャリー・デューティーの考え方を皆が共有することが必要になってくる。

法令や原則などももちろん大事だ。ただ、フィデュ―シャリー・デューティーの前提になるのは、自分の大切な心や体、財産を、安心して他人の良心と専門性に委ねることができる、信頼に基づいた「社会」の存在ではないか。冒頭のイメージ図は左に「専門家」、右に「受益者」と分けたが、実際にはきれいに分かれるわけではない。専門家はある場面では受益者であり、逆も然りだ。誰しも頼られる側にも頼る側にもなり得る。

TOPIXの年毎リターン推移(2015年~)

安心して人を頼ることができる社会は、皆が安心して長期投資できる社会ともいえる。長期投資で築いた資産は、思うように働けなくなった時に、自分を支える「頼れる相棒」にもなる。こうした好循環をもたらすのが、真のフィデュ―シャリー・デューティーなのかもしれない。

※本稿は、フィデュ―シャリー・デューティー(FD)の基礎的な概念を整理したうえで、筆者個人の経験にもとづく視点を加えたものです。FDについては歴史的経緯や法的な解釈など、多岐にわたる専門的な考察があります。詳細については専門家による著作やレポート(一部を参考文献として記載)をご参照ください。

【補足】投資信託における「委託者」「受託者」「受益者」

投資信託とフィデュ―シャリー・デューティーの関係については、多少複雑なので補足したい。国内の一般的な投信の場合、信託契約の「委託者」となるのは資産運用会社であり、「受託者」となるのは信託銀行だ。投資家は「受益者」という形で、運用の果実を得る。委託者が他人の利益のために働く信託契約がベースになっている制度であり、こうした信託形態を「他益信託」という。

受託者はあくまで信託銀行のため、資産運用会社は受託者責任と無関係のようにみえるが、そうではない。資産運用会社は信託銀行に対し、運用を「指図」するので、受託者の権限を分担して負っているとも解釈できる。信託銀行と資産運用会社が一緒になって、「受益者のための利殖」を目的に働くスキームが一般的な投資信託だ。

信託契約の受託者が負う義務には「善管注意義務(=善良な管理者としての注意義務)」や「忠実義務」がある。仮に資産運用会社がそうした義務に違反し、受益者に損害を生じさせた場合、受益者に対して損害賠償責任を負う(投信法21条)。


著者プロフィール

海老澤界

海老澤界

松井証券ファンドアナリスト。横浜国立大学経済学部卒業後、日刊工業新聞記者を経て格付投資情報センター(R&I)入社。年金・投信関連ニューズレター記者、日本経済新聞記者(出向)、ファンドアナリストを経て、マネー誌「ダイヤモンドZAi」アナリストを務める。長年、投資信託について運用、販売、マーケティングなど多面的にウォッチ。投信アワードの企画・選定にもかかわる。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。投資信託を多面的にウォッチし、豊富な投信アワードの企画・選定経験から客観的にトレンドを解説。


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