コンテンツ産業は日本を救うか? 「期待」と「不安」をまとめる
ゲームやアニメ、キャラクターなど日本のコンテンツビジネスに対する期待が強まっている。高市内閣が経済成長のけん引役と位置付ける「戦略17分野」にも「コンテンツ」は含まれており、公募の投資信託でも関連商品が生まれている。果たして、日本のコンテンツビジネスに死角はないのだろうか。
日本のキャラクターの 「稼ぐ力」は強い
最初に強調したい。日本のコンテンツ、それもキャラクターに関連する知的財産(IP)の「稼ぐ力」は強い。内閣府知的財産戦略推進事務局が2025年10月3日に公表した「新たなクールジャパン戦略の推進」によると、キャラクターが誕生してからの累積収入ランキング(米ドルベース、2018年まで)は「ポケモン」が921億ドルでトップ、「ハローキティ」が800億ドルで続く。トップ10中、5つが日本発のキャラクター・コンテンツだ。
下のグラフは、誕生した年を横軸、累積収入を縦軸にしたものだ。「くまのプーさん」「ミッキー&フレンズ」といった100年もの歴史を持つキャラクターよりも、誕生から今年で30年のポケモン、約50年のキティーの方が累積収入は高いことが視覚的に確認できる。
日本のキャラクターの稼ぐ力の源泉は、多重的なメディアミックス構造にある。典型的なのはポケモンだ。カード、アニメ、映画、テレビゲーム、スマホゲーム、テーマパーク、グッズ…とあらゆる手段が、時に相乗効果を生みながらファンを獲得し、お金に変えている。内閣府の資料では「メディア・フランチャイズ」という言葉が使われているが、まさにコンビニエンスストアのフランチャイズチェーンのように、キャラクターの使用権利を広げ、ロイヤリティー収入を得る仕組みと捉えればよいだろう。
興味深いのは、上位のほとんどを、日本および米国のキャラクター・コンテンツが占めている点だ。英国の「ハリーポッター」や「ジェームズ・ボンド(007シリーズ)」なども上位にランクインするものの、ごく少数にとどまる。理由は日米のメディアミックス構造の厚さのほか、文化に起因する面もあるかもしれない。
政府は2024年6月に、日本発コンテンツの海外市場規模を2033年に20兆円とする官民目標を閣議決定した。2023年の海外市場規模は5.8兆円であるため、10年で3.5倍程度に広げる目標となる。なお、20兆円というのは日本の自動車(四輪、二輪、部品)の輸出額(2023年で21.6兆円)に匹敵する数字だ。政府の意気込みの強さがうかがえる。
2025年後半以降、失速した日本のゲーム・アニメ関連株
では、投資対象としてみた場合、日本のコンテンツビジネスは魅力的なのだろうか。この点は注意深く見ないといけない。下のグラフは、日本のゲーム・アニメ関連株20銘柄で構成する指数「Solactive Japan Games & Animation Index GTR」と東証株価指数(TOPIX)配当込みの過去10年のパフォーマンスを比べたものだ。
確かに累積ではゲーム・アニメ指数はTOPIX配当込みを上回るものの、足元は大きく値下がりしていることが分かる。年度ごとにリターンを比べてみると、2025年度(2025年4月~2026年3月)はTOPIX配当込みに36%も劣後している。
振り返ってみると、2025年前半、ゲームやアニメといったエンターテインメント株が脚光を浴びた。製造業などに比べ、「トランプ関税」の影響を受けづらいとされ、日本株の新たなけん引役と位置付けられたためだ。しかし、昨年後半以降は失速。理由を1つに絞ることは難しいが、AI(人工知能)の台頭が大きく関係していることはおそらく否めない。
「AIによる代替」の影はコンテンツ産業にも
足元、話題になっているのが、AIが既存ソフトウェアを代替してしまうという懸念であり、実際、今年に入り多くのソフトウェア株が調整を余儀なくされている。しかし、「AIによる代替」という面ではキャラクター・コンテンツも無縁ではない。AIがキャラクターを使って物語やゲームを作ることはすでに可能とみられるし、キャラクターそのものだって作れるだろう。
そもそもの話をすれば、レジャー産業は「可処分時間」の奪い合いでもある。例えば、ゲームは旅行などに比べると比較的安価に時間をつぶせるレジャーであるため、不況下に強いディフェンシブ銘柄の1つと捉えられることもあった。ただ、昨年以降、ChatGPTやGeminiといった生成AIが爆発的に普及し、構図が変わった可能性もある。若い人は「チャッピー」(ChatGPT)に恋愛相談するのが当たり前だと聞くし、Geminiとの会話のキャッチボールを楽しむ大人も増えている。要するに、余暇の奪い合いにおいて、AIに浸食されている面も否めないのだ。
「スイッチ2」など据え置き型ゲーム機の販売不振が報じられているが、背景にはメモリ価格上昇などに加え、生成AIの台頭も見え隠れする。AIの普及が歴史の必然だとすれば、コンテンツやキャラクターはAIとうまく付き合っていく術を探るしかない。ただ、OpenAIとウォルト・ディズニーの交渉が暗礁に乗り上げるなど、コンテンツ業界とAIの間には依然として溝があり、適度な距離感は見いだせていない。
株価は将来の「期待」と「不安」を反映する。株式市場の反応を見る限り、投資家の心理としては期待よりも不安が先行しているといえそうだ。筆者個人としては、生身の人間が息を吹き込んだキャラクターやコンテンツが、AIによって淘汰されるとは思えないし、そもそもAIの発達はエンタメ業界にとって追い風にもなり得る。「国策」という後ろ盾も無視できないだろう。
件のゲーム・アニメ株指数の予想PER(株価収益率)は過去5年平均を下回る水準で推移している。どこかでコンテンツ関連株の反転のきっかけを探ってもよい時期ではないか。
エンタメビジネスの育成には明確な戦略が必要
なお、エンタメビジネスを拡大させていくという政府の方向性は堅持すべきだと筆者は考える。日本独自の価値観を反映した「ナラティブ」を世界に普及させ、国際関係の構築においても非常に大きなアドバンテージを生むという副次的な効果もあるためだ。ただし、相応の戦略と覚悟は必要となる。
2026年は19世紀米国を代表する作曲家、スティーブン・フォスターの生誕200年にあたる。先日、たまたまテレビで「BS日本・こころのうた」(BS日テレ)という番組をみていたら、コーラスグループ・フォレスタによるフォスターの曲が流れていて、美しいメロディーにしばし魅了された。
「おおスザンナ」「草競馬」「ケンタッキーの我が家」などの曲を耳にしたことがない人はおそらくいないだろう。しかし、フォスターが生きた時代は著作権という発想が現代ほど浸透していなかったため、数多くの名曲を残したのにもかかわらず、作曲家としてのフォスターは貧困にあえいだ。37歳でこの世を去った時、財布に入っていたのは、わずか38セントの小銭だったと言われる。
著作権が非常に重要な概念であることは言うまでもない。創作者が安心して表現活動を続けることができ、文化の発展にも寄与するためだ。一方でこのようにも思う。別れて暮らす妻への思いを綴った「金髪のジェニー」のような哀愁漂う曲を、裕福なフォスターは生み出すことができただろうか。AIとは異なり、血が通い、複雑な感情を持つ人間が生み出すものは、常に偶然の要素と隣り合わせでもある。
日本が本気でコンテンツビジネスを主軸産業に育てるのであれば、過去のIPで稼ぐだけでなく、今後生み出すコンテンツやキャラクターでも世界を引っ張っていくくらいの気概が必要だろう。そこで必要なのは、不確実性に左右されるクリエイティブな才能の出現を、確率論に変える戦略的な仕組みづくりだ。その点、自国発のK-POPやドラマが世界を席巻した韓国のエンタメ産業から学ぶべきところも多いのではないか。