「AI疲れ」が勝機に? スポーツは有力な投資テーマになるか
秋の大型連休「シルバーウィーク」も終わり、気候もすっかりと秋めいてきた。本格的な「スポーツの秋」の到来だ。筆者は先日、出身地の愛知県を中心に開かれたアジア大会のいくつかの競技を観戦してきた。アジア大会はオリンピックなどと比べると地味な印象が強いし、今回は大会運営に対する批判も多かった。しかし、普段、間近に目にすることが少ないマイナー競技を観る機会にもなり、個人的には好きなスポーツイベントである。
スポーツが産む感動の希少性
ふと思った。スポーツは投資テーマとして有効だろうか。投資の世界ではいまだにAI(人工知能)が話題の中心だ。一部AIの自発的な暴走を受け、開発の減速を訴える声が開発者側から出ているが、AI開発は米中という2大国の覇権争いにも絡むため、一筋縄ではいかないだろう。加えて、防衛や宇宙、ヒューマノイド(ヒト型ロボット)などの投資テーマも、AIなくしては語れない面が多い。
当然、スポーツにも、トレーニングや器具などにおいてAIが絡む余地はある。しかし、人と人が競い合うことで生まれる筋書きのないドラマはAI時代において、非常に希少性のある存在ではないか。『AI時代、「生身」の価値』――。2026年9月25日付日本経済新聞スポーツ面に掲載されたサッカー三浦知良選手の連載「サッカー人として」に掲載された記事のタイトルだ。筆者が最近感じていたモヤモヤを、核心を突いた言葉で表現してくれていた。
スポーツがAIに代わる投資テーマになることはあり得ないだろう。しかし、生身の人間が産む感動、肉体を動かすことで得られる快感はAIをもってしても代替できない。AIが作り出す世界に疲れた多くの人はそこに意味を見出し、消費を惜しまない可能性もある。
「スポーツGDP」は2022年に初めて10兆円突破
日本政策投資銀行が2026年3月に公表した「わが国スポーツ産業の経済規模推計」によると、スポーツ産業が生み出した正味の付加価値(スポーツGDP)は2022年に初めて10兆円を超えた。2012年と比べると、37.7%プラスだ。年率の成長率は3.3%だが、コロナ禍で大きく落ち込んだ後の成長スピードは目を見張るものがある。
なお、国全体の名目GDPに占めるスポーツGDPの割合も伸び続けており、2022年は過去最高の1.83%になっている。もっとも欧州の中には同比率が3%を超える国も多く、日本の伸び代は大きいともいえる。
スポーツGDPの数値は2022年が最新となっている。ChatGPTが一般公開されたのが2022年末で、それ以降、生成AIが身近になってきた。前述の筆者の仮説(=AI疲れがスポーツ消費を促す)が的外れでなければ、2023年以降のスポーツGDPの伸びは、本格的なコロナ禍からの解放も相まって、さらに加速している可能性もある。
オフィスシーンに食い込むスポーツブランド
ファッションシーンにおけるスポーツブランドの存在感も強まっている。民間調査会社のサカーナ・ジャパンによれば、2025年のスポーツシューズ・アパレルの国内市場規模は1兆5256億円で前年比7%増となった。
これは同年の名目GDP成長率(4.3%)を大きく上回る。
国内スポーツメーカーの代表選手であるアシックスの決算説明資料(2026年12月期中間)によると、同社の粗利益率(商品の原価を引いた利益率)は57.3%。消耗品の印象が強いスポーツ用品メーカーとして非常に高い数値と言えよう。東京・銀座にある「オニツカタイガー」の直営店を覗くと、いつも外国人観光客でにぎわっている。直営による中間マージンの削減と、値下げしなくても売れるブランド価値の確立が高収益構造につながっているといえよう。
コロナ禍で在宅勤務が普及し、服装のカジュアル化が進む中、紳士服業界は苦戦を強いられた。その陰で台頭したのがスポーツ業界かもしれない。街中を歩いていても、OnやHOKAなどのスポーツシューズをジャケパンスタイルに合わせている人を目にすることがある。オフィスカジュアルの進展と新しい働き方もスポーツブランドを後押ししている。
国内市場だけに目を向けると、少子高齢化の影響は避けられないようにも思える。スポーツ庁の発表資料によると、働き盛りの30代、40代がスポーツに当てる時間は少ないのに対し、時間に余裕ができる60代以降のスポーツに関わる時間は大きく伸びる傾向がある。必ずしも少子高齢化がスポーツ業界にとって逆風ともいえない。加えて、働き盛りの世代についても、「健康経営」の推進といった国の施策を考慮すれば、成長余地が残されているとの見方もできる。

スポーツ産業は栄枯盛衰が激しい?
国内の投資信託でもスポーツ関連のテーマ型商品(eスポーツ関連も含む)はいくつか存在する。一方、スポーツを投資テーマとしてとらえた場合、注意点もある。9月19日付日本経済新聞夕刊は『スイス発「On」サッカー参入 エムバペ選手と契約 20年来のナイキ痛手』と題し、サッカーフランス代表のエムバペ選手がスポンサー契約を大手スポーツメーカーであるナイキから新興スポーツメーカーのOnに切り替えたことを伝えている。
スポーツメーカーは栄枯盛衰が激しい。ユーザーにとって「乗り換え」のコストが小さく、「ダサい」「機能性に劣る」などと判断されれば、すぐに他のメーカーに移られてしまう。ここ数年の株式相場のけん引役であるGAFAMをはじめとするプラットフォーマーは「Winner Takes All(=勝者総取り)」の構造の恩恵を受けていた。それに比べるとスポーツ関連産業は主役交代が起きやすい仕組みを内包していると言えるだろう。
9月13日付の日本経済新聞には『ナイキ、S&P100から除外』と言う見出しの記事が掲載された。「希少モデル」に依存し過ぎたビジネスモデルがナイキのブランド価値の低下と業績低迷につながっている点を詳細に報じている。
なお、今回のコラムで紹介した記事以外にも、日本経済新聞にはスポーツとビジネス・経済を絡めた記事がここ最近目立つ。日本を代表する経済メディアがこのような内容をたびたび取り上げる事実自体が、投資テーマとしてのスポーツの重要性を物語っているように思えてならないのだが。