フェラーリの迷走、AI投資が示唆する「二極化相場」
マーケットアナリスト大山です。今週も宜しくお願いします。
【今週のコラム要約】
表面的なノイズを排する「実体経済分析」
現在の株式市場は、AIがもたらす熱狂と、インフレ・高金利がもたらす悲観とが交錯する、極めて難解な局面を迎えています。
一見すると全く無関係に見える「高級車市場におけるフェラーリの迷走」と「半導体市場におけるマイクロンやデルの熱狂」を、「参入障壁」で串刺しにします。そこから浮かび上がるのは、現在の相場を貫く究極の真理、激動のK字型経済を生き抜くための投資戦略です。
フェラーリの悲劇に見る「アイデンティティ」の喪失
イタリアの至宝であるカーメーカー、フェラーリが初のEV/完全電気自動車「Luce(ルチェ)」を発表しました。しかし市場の反応は冷酷で、厳しいノーが突きつけられ、株価は下落しています。
この反応は愛なのかそれとも憎しみなのか。元来フェラーリは単なる移動手段を超えた芸術作品と称され、そのデザインは官能的です。曲線と圧倒的な空力性能の融合により「甘美」と言われています。伝統的なピニンファリーナ時代から、機能美を追求する社内デザインセンター(チェントロ・スティーレ)の現代に至るまで、時代を超えて人々を魅了し続ける普遍的な美学が息づいています。
今回、フェラーリが今回犯した(犯した…と言われる)最大のミスは、「新車のデザインが単にダサかったから」ではなく、顧客が7,000万円以上という大金を支払ってでも求めていた「情緒(内燃機関・エンジンの轟音、ガソリンの匂い、メカニカルな鼓動)」を自ら放棄してしまったことかもしれません。
見る者の心を揺さぶるようなブランドへの深い愛情や憧れが無くなったのでしょうか?
元アップルの最高デザイン責任者であるジョニー・アイブ氏が持ち込んだデザインは、「滑らかで摩擦のないデジタル世界」の象徴です。しかし、フェラーリのファンが求めていたのは「もっとメカニカルなドラマ」であって、洗練された白物家電の類ではありませんでした。無機質な「デジタル・ガジェット」の土俵にフェラーリが自ら降りてしまえば、圧倒的なコスト競争力とソフトウェア技術を持つ中国製EVやテスラと全く同じ土俵(スペック競争)に引きずり込まれることは明白です。
「スマートなテック企業」のフリをした瞬間、フェラーリがこれまで築き上げてきた「参入障壁」だった極めて複雑な機械そして希少性は崩壊、残存価値の毀損リスクを露呈することになります。元フェラーリ会長のモンテゼモーロ氏が「あの車から跳ね馬のエンブレムを外せ」とまで酷評した通り、ブランドが歴史を守るのか、時代に適合するために変革するのかという二律背反の問いに対し、Luceはあまりにも痛々しい答えを出してしまったと言えます。
※大人の事情でフェラーリの画像を添付できませんが、たとえば、新しいEV車 Luceと 個人的に「甘美」だと考える アマルフィを下記URLから御覧ください。
マイクロンとデルの躍進が証明する「ゴリゴリのインフラ」の勝利
どうもフェラーリが自らの手で「堀」を埋めてしまい、参入障壁を放棄しているようにも感じるのです。
「デジタル(スマートEV)」にすり寄って時価総額を毀損したのとは対照的に、半導体市場では全く逆の現象が起きています。
世界中が「AI」に熱狂している裏で、それを物理的に稼働させるための「ゴリゴリのインフラ(GPU、HBM、CPU、電力、冷却)」というボトルネックを完全に支配した企業群が、天文学的なキャッシュを吸い上げているのです。
今年のダボス会議(1月)、エヌビディアカンファレンス(GTC3月)でエヌビディアファンCEOはAIバリューチェーンを『すべてを変える5層のケーキ』と称して説明しています。
「5層のケーキ」は、最下層のエネルギーインフラ、チップ、計算インフラ、AIモデル、最上層のアプリケーションであり、このケーキを焼くために(説を裏付けるために)広範な分野でAI投資が進んでいます。その投資先にリスクマネーが集中しています。
この設備投資拡大の筆頭がマイクロン・テクノロジー(MU)です。先日、同社の時価総額は1兆ドルを突破しました。これまでメモリチップ業界は、供給不足と供給過剰を繰り返す周期的な市況産業と見なされ、投資家から「どうせすぐに供給過剰で値崩れする」と低いバリュエーションしか与えられてきませんでした。しかし現在、マイクロンはAIデータセンターの「CAPEXスーパーサイクル」を支える絶対的なインフラとして再評価され続けています。なぜなら、顧客であるハイパースケーラー(巨大IT企業)たちは、将来の覇権を握るために「絶対にメモリチップを買い負けるわけにはいかない」から。彼らは価格面で妥協することなく、長期契約を通じて物理的なメモリを確保しにきているのです。
さらに、デル・テクノロジーズ(DELL)の最新の第1四半期決算が、このトレンドが本物であることを決定づけました。市場コンセンサスを大きく上回る決算と通期売上予想の大幅な引き上げを発表し、株価は時間外で一時+37%という急騰を演じました。決算資料の中でデルは、AIサーバー需要が「前年比+757%」という爆発的な急増を見せていることを明かし、「AIの機会は減速の兆しがない」と断言しました。顧客はデータセンターの効率化を急務とし、物理的な「スペース、電力、冷却」を喉から手が出るほど求めており、デルの価格引き上げにも十分に対応(許容)しています。
消費財(高級車)であれ、B2B(AIインフラ)であれ、現在の相場を貫く究極の真理は一つです。「デジタルの夢に浮かれる者は敗れる可能性が高い、しかし実需・フィジカルを握った者が勝つということです。
K字型経済のリアル、「悲観の死角」を突くダラーツリー
翻って、消費の現場に目を向けてみましょう。現在の米国経済は、富める者がより富み、厳しい者がより厳しくなる、典型的な『K字型経済』の様相を呈しています。
それを如実に表したのがウォルマートの決算です。第1四半期は市場コンセンサスを上回ったものの、第2四半期見通しは市場予想に届きませんでした。同社のCEOは、Q1の好業績は税還付が押し上げた可能性が高く、その効果が薄れるにつれて、(Q2以降は)ガソリン価格の高騰が消費支出を圧迫する可能性が高いと警告を発しています。低所得者層の予算圧迫によるストレスは確実に表面化しています。
しかし、だからといって「K字の下側における需要が完全に剥落している」と考えるのは早計です。
その決定的な証拠が、ダラーツリー(DLTR)の好決算です。同社は決算発表後に前日比+17.8%と、2022年以来の記録的な株価急騰を演じました。ダラーツリーは顧客数の減少という逆風に直面しながらも、1ドル前後の商品を販売する従来の戦略から転換し、玩具やパーティー用品など「3ドルから5ドル」の高価格帯商品を提供する戦略(マルチプライス展開)へと舵を切りました。結果として平均取引額が4.5%増加し、既存店売上高を大きく押し上げたのです。
この業績が意味するものは何でしょうか。それは、経済的不確実性とインフレの時代において、消費者は単に消費をやめたのではなく、より裕福な層も含めて「お買い得品を求める賢い選択」へと確実にお金の使い方をシフトさせているという事実です。市場がマクロの不安から一律に消費セクターを売り叩く中に生じた、強烈な「悲観の死角」がここに見事に表れています。
今こそ「バーベル戦略」を
議論を総括します。市場の表面的なノイズに惑わされてはいけません。
現在の歪んだ相場において私たちが取るべき戦略は、両極端の強みを持つ『バーベル戦略』だと感じます。
- 一方の極(左翼):過剰なマクロ懸念から徹底的に売り叩かれながらも、実はしたたかに実需を捉え、需要が極めて底堅い「ディフェンシブ・消費株(ダラーツリーなど)」をしっかりと保有する。
- もう一方の極(右翼):デジタルの夢を支えるために絶対に避けて通れない、圧倒的な物理インフラの実需(FEMO)を持つ「AIグロース株(マイクロン、デル、エヌビディアなど)」を中核に据える。
単なる熱狂に乗るだけでもなく、過度な悲観に怯えて市場から逃げ出すのでもない。市場の期待値と実体経済のズレを冷静に分析し、物理的なモート(参入障壁)を持つ企業と、不況下でも強靭なプライシングパワーを持つ企業を掛け合わせる。
このバーベル戦略が、未来永劫において本当に正しいのかは、まだ誰にも分かりません。しかし、極端な二極化が進む現在の複雑な市場環境を生き抜くための、現時点における「最適解」ではないでしょうか。