FOMCタカ派転換でも株高はなぜ? マイクロン決算の「罠」とスペースXが描く10年後の未来

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2026年06月24日

FOMCタカ派転換でも株高はなぜ? マイクロン決算の「罠」とスペースXが描く10年後の未来

マーケットアナリスト大山です。今週も宜しくお願いします。
先週は、ウォーシュ新議長の下で初めてとなるFOMC(米連邦公開市場委員会)という一大マクロイベントと、スペースXの史上最大規模のメガIPOというミクロの熱狂が交錯する、極めて密度の濃い1週間でした。
今週は、日本時間25日早朝に控えるマイクロン・テクノロジー<MU>の決算に向けた「短期的な戦い方」と、スペースXが突きつける「長期的なバリュエーションの議論」、そして現在のマクロ環境の読み解き方について整理したいと思います。


FOMCの「タカ派サプライズ」が、むしろ株高を支えている理由

まずはマクロの振り返りです。
先週のFOMCは政策金利が据え置かれましたが、特段サプライズのないものでした。また、金融当局が即時の利上げを主張したわけではなく、当面、政策金利を現状の水準に据え置くと見られています。
金融当局の景気判断は強く、一言で言えば「景気は強いから利下げは当分しない」。
しかし経済情勢の展開次第では、政策が不意にいずれの方向にも(上にも下にも)転換し得ると考えています。新議長は市場とのコミュニケーションの姿勢を大きく変え、今後は手の内を明かさない(フォワードガイダンスを示さない)ことになるので、市場の受け止めと今後の注目点は不確実性とボラティリティの高さになると考えています。

不確実性の高さ・ボラティリティの高さとは、金融政策の転換が事前の明確なシグナルを伴わない可能性です。
たとえばFOMC記者会見では(景気が強く、インフレが上昇過程にあるのに)「なぜ利上げをしなかったのか?」と追加的な説明を求める質問に対し、ウォーシュ議長の回答は「声明文そのもの以上に言うことは無い」I’ve got nothing more to say than the statement itselfであり、声明文と記者会見で丁寧な説明を尽くしてきたこれまでのFRBの姿勢からの転換を印象付けていました。
FRBの情報発信に否定的なウォーシュ議長はドットチャート(金利予測分布)に点を入れることもありませんでした(予測を示さなかった)。予想外に年内利上げを支持するメンバーが増えていたこともあり、市場は一時不確実性の高さと「利上げの恐怖」に怯えて急落しました。
しかし、その後マーケットは案外堅調に推移しています。利上げ観測が浮上しているのに、なぜ株価は崩れないのでしょうか?

そのヒントは「期待インフレ率(10年BEI)」の低下にあります。
ウォーシュ議長がフォワードガイダンスを捨ててまで、「委員会は物価の安定を実現する(The Committee will deliver price stability.)」と断固たる決意を示したことで、債券市場は「このFRBは、インフレの制御不能(テールリスク)を絶対に許さないだろう」と確信しました。
さらに、米国とイランの和平合意(覚書署名)に伴う原油価格の下落も重なり、インフレ期待がスッと低下したのです。

原油が下がり(コスト低下)、インフレがピークアウトの兆しを見せ始めた中で、AIやインフラ向けの需要が爆発しています。企業業績がこれほど力強いのであれば、名目金利の少々の高止まりや利上げは十分に吸収できるでしょう。つまり、市場は「悪い利上げ(スタグフレーション警戒)」から、「良い利上げ(純粋な業績相場)」へとパラダイムシフトを起こしている可能性が高そうです。


マイクロン決算:短期の「罠」と長期の「確信」を切り離す

こうした「業績相場」の試金石となるのが、日本時間25日早朝に発表されるマイクロン・テクノロジーの決算です。
AIブームによる高帯域幅メモリ(HBM)需要の爆発により、同社の業績には大きな期待が寄せられています。しかし、決算発表を前に投資家の皆様にぜひ知っておいていただきたいデータがあります。
金融情報会社FACTSETのデータによると、マイクロンは「過去12四半期連続で予想を上回る好決算を発表しているにもかかわらず、決算発表直後に株価が下落したケースが7回もある」のです。

つまり、マイクロンの決算がどれだけ予想を上回ったかと、翌日の株価反応との間には、厳密な相関関係がありません。
なぜなら、短期的には「イベント通過」を理由としたヘッジファンド等の強烈な利益確定売り(利食い)が浴びせられることが多いからです。直近3月の決算でも、過去2年で最高のサプライズだったにもかかわらず、翌日の株価は3.8%下落しました。しかし、その後現在までに株価は大きく上昇しています。

ここから得られる教訓は一つです。短期的な「決算プレイ(値動きの当てっこ)」に巻き込まれることなく、
「AIサーバーを稼働させるために不可欠なメモリ需要が長期的に急増する」という成長シナリオへの確信を、短期のノイズと明確に切り離して考えることです。短期的な下落があれば、それは長期投資家にとって絶好の拾い場になる可能性があります。


スペースXと「宇宙データセンター」が破壊する未来のバリュエーション

最後に、少し先の未来の議論をしましょう。
先週、見事にIPOを成功させたスペースXですが、彼らが調達した巨額資金の行き先について、CNBCが非常に興味深い考察を報じていました。(参考:CNBC記事 https://www.cnbc.com/amp/2026/06/21/do-space-based-ai-data-centers-make-economic-sense.html

現在、地上でAIデータセンターを建設・拡張する際の最大の障壁は、半導体の確保以上に「電力とインフラ(土地・水)の確保」です。地域住民からの反発(NIMBY問題)も深刻化しています。
CNBCは「地球上にAIデータセンターを建設することを望む人は誰もいない」と指摘しています。

そこでスペースXが本気で狙っているのが、目論見書でも壮大なTAM(潜在市場規模)を掲げた「軌道上AIデータセンター(宇宙ベースの計算インフラ)」です。
宇宙空間には無尽蔵の太陽光エネルギーがあり、極低温の環境が冷却を助けます。近隣住民(NIMBY)もいません。現在のところ、宇宙での建設・運用コストは地上の約3倍かかると試算されていますが、次世代ロケット「スターシップ」による打ち上げコストの劇的な低下によって、この経済的ハードルは越えられる可能性があります。

もしこの「宇宙データセンター構想」が2030年代に向けて現実味を帯びてきたら、株式市場に何が起きるでしょうか。

それは、地上の既存インフラ企業に対する「バリュエーションの破壊」です。
現在、AI需要の恩恵を受けている地上の公益事業会社(電力会社)や、既存の電力インフラ向け機器メーカーが享受している「インフラ・プレミアム」は、無尽蔵のエネルギーを持つ宇宙インフラという脅威が顕在化した瞬間に、強力な下押し圧力を受けることになるでしょう。

スペースXのIPOは、単にロケット会社の資金調達にとどまらず、遠い未来の「AIインフラの覇権争い」と「既存セクターのバリュエーション再評価」の号砲を鳴らしたと言えます。

マクロのインフレ退治に対する安心感と、ミクロの途方もない技術革新の熱狂。
この二つが入り混じる現在の米国株市場は、過去に類を見ないほどエキサイティングです。
短期のノイズに惑わされず、変化の本質を見極めていきましょう。


著者プロフィール

大山季之

大山季之

松井証券シニアマーケットアナリスト。1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。


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