実弾(フィジカル)の逆襲―AI・知能が「堀」を埋める時代をどう生き抜くか

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2026年02月25日

実弾(フィジカル)の逆襲―AI・知能が「堀」を埋める時代をどう生き抜くか

マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。

【今週のコラム要約】


知能の民主化によりIBM等の既存ビジネスの「堀」が埋め立てられている

週末、我が家では長年守られてきた「娘の父」としての聖域が、穏やかに、しかし確実に開かれた気がします。娘が連れてきた彼氏という存在に対し、抵抗することなく席を共にする・・・まさに「無血開城」。
横浜のレストランで、もりもりと食事をする若い男子の熱量、、、それは画面越しの情報ではない、圧倒的な「生身の現実」でした。父親として、あるいは一人の男として、複雑な感情が胸を去来しましたが、最終的にはその「実体の重み」に、私はある種の清々しい諦念を覚えました。

しかし、週明けの米株式市場が目撃しているのは、そのような温かなものではありません。AIという名の「外部勢力」によって、これまで難攻不落と思われていた企業の「堀(モート)」が、音を立てて崩されています。
2月23日、IBMの株価が13%下落しています。この急落は、まさにその象徴的な一幕と言えます。
新興AI企業のアンソロピックが放った「Claude Code」という知能は、IBMが30年以上かけて築き上げたCOBOLという名のプログラミング言語という「要塞」を、わずか数秒で埋め立ててしまいました。情報の整理や変換、あるいはレガシーな知識の独占だけで稼いできたコンサルティングという聖域は、いまや無血開城どころか、跡形もなく蹂躙されようとしています。


状況証拠:エヌビディア決算を前に「フィジカル物理」が語ることとは?

日本時間26日早朝に控えるエヌビディア<NVDA>の決算。市場の関心は、新型チップ「ブラックウェル」の出荷状況とガイダンスに集約されています。しかし、その「勝利」を裏付ける状況証拠は、既にフィジカルな世界に溢れています。

例えば、台湾TSMCの咆哮です。1月の売上高は前年同月比36.8%増の4,012億台湾ドルに達しました。AI需要の「怪物級」の勢いは止まるどころか、加速しています。そして、メモリーメーカーのマイクロンの覚悟も際立ちます。2,000億ドル(約30兆円)に及ぶ設備投資計画と、2026年分までのHBM(高帯域幅メモリ)の完売。これは日本の国家予算(一般会計約115兆円)の約4分の1を、たった一社が「工場と機械」という物理的な実体に投じるという異常事態です。

これらは単なる期待値ではありません。「工場が建ち、チップが生産され、メモリが積まれる」という物理的な事実です。エヌビディアの堅調なガイダンスは、もはやコンセンサスを通り越した「確信」に近いと言えるでしょう。


知能のデフレが招く「資本の選別」:問題は、その熱狂の「外側」で何が起きているか?

2月23日、独立系リサーチ企業Citrini Researchが描いたAIの進化の予兆を無視することはできません。Citrini Researchが描く2028年を想定した近未来は、AIがホワイトカラーの大規模な解雇を引き起こし、資産運用会社を混乱させ、国の税収基盤を危うくさせるという記事です。DoorDashのようなプラットフォームを瞬時に複製し、AIエージェントが「1円でも安い選択肢」を冷徹に選び続ける世界で、そこでは、ブランドロイヤルティという情緒は死に、企業の利益率(マージン)はゼロへと圧縮されるのです。AIの有用性が説かれるとともに、経済の適応能力を考慮し、AI進化に伴う勝者と敗者を市場が冷静に判断し始めています。

資本の動きは、その未来を予見していて、先週は、ブルー・アウル(Blue Owl)のようなソフトウェア融資を主軸とするプライベート・クレジットから資金が全速力で逃げ出しているニュースが駆け巡っています。
市場が「AI・知能によるマージンの蒸発」を確信し始めたからに他なりません。中堅ソフトウェア企業のキャッシュフローを担保にしていた融資は、もはや将来価値が減価し、「担保価値」そのものが疑われているのです。

一方で、OpenAIが1,000億ドルの資金調達に成功し、オラクルの受注残(RPO)への懸念が一時的に消えたように見えるのは、資本が特定の「AI要塞」にのみ逃げ込み、ブラックホールのように周辺の流動性を吸い込んでいるからです。


投資家はこの「選別」の嵐の中で、どこに逃げ込めばいいのでしょうか

ファーストガンダムのランバ・ラル大尉風に表現すれば、「戦いの中で戦いを忘れる」。
モニターの中のアルゴリズムや、実体のないSaaSの成長率という「虚像」に踊らされている間は、本当の戦場は見えてきません。AIがどれほど賢くなろうとも、それを動かすためには、唸りを上げるガスタービンと、膨大な熱を逃がす土地、そして情報を刻むための「物質(DRAM)」という、圧倒的な物量が必要なのです。

どんなに優れた知能(ソフト)も、それを動かす肉体(ハード)がなければ、ただの幽霊に過ぎません。今、私たちが目にしているのは、「知能」というザクが、「物理(フィジカル)」というグフに正面から激突し、その性能差に愕然としている姿です。「ソフトウェアとは違うのだよ、ソフトウェアとは!」
三菱重工やGEベルノバが上げるこの咆哮こそが、2026年のマーケットを支配する真理です。


「悲しいけれど、これ、投資なのよね」

一方で、スレッガー中尉なら、この状況を鼻で笑ってこう言うでしょう。「悲しいけど、これ、投資なのよね」。
これまでのIT投資の成功体験、マージンの高いSaaS、あるいは歴史あるブランドの「堀」。それらに固執している時間は残されていません。AIエージェントが既存のビジネスモデルを食いつぶす様は、滑稽?いや悲劇です。守るべきは、古い聖域へのノスタルジーではなく、実体ある資産で、AIにはコピーすることも移動することもできない、「物理的な真実」です。

AIに代替されない・され難いフィジカル企業の例です。
GEベルノバ(GEV):送電網接続の「7年待ち」という物理的な壁を、ガスタービンで強行突破します。
デルタ航空(DAL):ヒトはテレポートできません。情報のデフレが進むほど、生身の人間を運ぶ「物理的な翼」はプレミアム化します。
マイクロン(MU):30兆円を投じて「工場」を建てます。この物質への依存こそが、彼らの価格決定権です。
ウォルマート(WMT):他者が作ったAIを使い、自社の巨大な物流網という「物理的な堀」を深めます。

そして三菱重工という名の「実弾」:
米国が「Americas First(米州要塞化)」へと舵を切り、内向きの「知能の要塞」を築こうとするほど、その要塞を建てるための高度な製造技術、電力インフラ、そしてそれを守る防衛力を持つ日本の価値が際立ちます。
三菱重工は、最強の安全資産であるはずの「金(ゴールド)」や、グローバルの防衛テックETF<SHLD>を遥かに凌駕するパフォーマンスを見せています。これは単なるバブルではありません。「通貨」や「知能」といった情報の信頼が揺らぐ中で、投資家が最後に辿り着いた「代替不可能な物理的資産」の再評価なのです。

私はエヌビディアの第4四半期11-1月期決算発表を「審判の日(2月26日)」と呼んでいますが、知能という名の「外部勢力」に無血開城を迫られるか。それとも、自ら物理的な要塞に立てこもり、通行料を徴収する側に回るのが正しいのか。ソフトウエア企業やSaaS企業に対するネガティブな意見、風向きが変わるのかを審判の日に見極めたいと思っています。


著者プロフィール

大山季之

大山季之

松井証券マーケットアナリスト。1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。


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