スコットランド伝統の「長期投資」 底流にある年金運用の歴史とは?

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2026年06月16日

スコットランド伝統の「長期投資」 底流にある年金運用の歴史とは?

最近、「ベイリー・ギフォード」という海外運用会社が実質的な運用を担うファンドのコンテンツ作成に関わり、ちょっぴり懐かしい気分になった。筆者がかつて在籍していた評価会社では投資信託の評価チームとは別に、年金の運用戦略を調査する部隊があった。彼らは海外ファンドの調査に出かけると、1カ月くらいをかけ、地球を一周して帰ってくる。訪問先にはスコットランドが入っていることが多く、首都エディンバラに本拠を構えるベイリー・ギフォードの名前を彼らの口からよく聞いた。


スコットランドの首都で、金融センターでもあるエディンバラの風景(画像提供:Adobe Stock / Ruth P. Peterkin)

タータンチェック、サッカー、ラグビー、ゴルフ、ウイスキー…

スコットランドはイングランド、ウェールズ、北アイルランドとともに、英国(グレートブリテン及び北アイルランド連合王国)を構成する「カントリー」のひとつである。ケルト系民族にルーツを持つ独自の文化はイングランドなどとは異なる趣があり、2014年には英国からの独立の是非を問う住民投票も実施された(結果は否決)。

そんなスコットランドと言えば、あなたは具体的に何を連想するだろうか。スコットランド発祥のタータンチェックの柄は日本人にはおなじみだ。スポーツでは、かつて中村俊輔選手が活躍し、今は前田大然選手が躍動する、サッカーのスコティッシュ・プレミアシップを思い浮かべる人も多いだろう。筆者個人としては2019年のラグビーワールドカップで日本と対戦したラグビースコットランド代表が印象に残っているが、ゴルフ好きならやはり、聖地セント・アンドリュースだろうか。

自然を生かしたセント・アンドリュースのゴルフコース。AIG女子オープンといったメジャー選手権の開催実績もある(画像提供:Adobe Stoc / christopher)

NHKの連続テレビ小説『マッサン』を観ていた人はご存じだと思うが、日本のウイスキー(ジャパニーズウイスキー)はスコットランドのウイスキー(スコッチ)をお手本に発展し、今では「世界5大ウイスキー」の1つとして数えられている。そう考えると、スコットランドは多くの日本人にとっても親しみのある場所といえるだろう。ただ、資産運用業の集積地と聞いて、ピンとくる人はあまりいないと思う。


スコットランドにとって「資産運用」は主要産業の1つ

スコットランドにとって資産運用業は非常に重要な産業の1つであり、首都エディンバラはロンドンに次ぐ、英国第2の資産運用センターとされる。それだけでない。世界の資産運用の歴史において、スコットランドは非常に重要な役割を果たしている。

諸説あるが、現代につながる投信と年金のいずれも英国が起源と言われる。世界最古の投信は1868年にロンドンで生まれた「フォーリン・アンド・コロニアル・ガバメント・トラスト」とされるが、資産運用を伴う集団の年金スキームの元祖は18世紀に形作られたスコットランドの「スコティッシュ・ウィドウズ」という説が有力だ。早世したスコットランド国教会の牧師や、ナポレオン戦争で死亡した兵士の寡婦を対象とした年金保険で、現在は英ロイズ銀行グループ傘下の金融機関として、その名を残している。

年金資産の運用は長期の視点が求められる。長期にわたる将来の負債(年金の支払い)を見越し、その原資となる掛け金の運用について、どれだけ不確実性を受け入れ、効率的な投資手法を選ぶかが常に重要視されるためだ。

つまり、長期運用は「ギャンブル」の要素をなるべく廃し、未来と真剣に向き合う姿勢が不可欠であるというのが筆者の理解であり、年金運用の歴史が長いスコットランドの運用機関には、そんな長期投資の文化がしみ込んでいるといえよう。


「年金に選ばれる」ことが意味するところは?

実際、冒頭に名前を挙げたベイリー・ギフォードは年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)をはじめ、数多くの年金の資産運用を受託した実績を持つ。「年金に選ばれる」ことの意味をもう少し丁寧に深掘りしたい。もちろん、独自の長期投資の哲学持っていることは重要な要素であるが、「定性面で高い評価を得ている」とも言えるのではないか。

特に日本の傾向であるが、個人向けの投信は、アクティブファンドであれば過去の運用実績(パフォーマンス)や分配方針などの商品性、インデックスファンドであればコストが優先される。総じて、数字として把握できる情報、つまり定量的な情報が重要視され、人気商品に育つかどうかのカギになる。

一方、年金向け運用戦略はとにかく、数値化が困難な運用方針や体制、投資哲学などの「定性評価」が、評価において大きなウェートを占める。いくら良い実績を残しても、運用方針と整合せず、「まぐれ」と判断されれば評価されない。逆に、今、運用実績が芳しくなくても、将来、好パフォーマンスが期待できそうだと判断されれば、良い評価となる。年金運用のコンサルティング会社はこうした視点で運用戦略を精緻に分析し、年金基金はそれらの情報を参考に投資先を選ぶのが一般的だ。

定量評価と定性評価

米国では独立系ファイナンシャルアドバイザー(IFA)が発信する定性評価情報も、投信の選択に影響を与えており、定量的な情報が人気を左右する日本の投信業界に示唆も与える。ただ、日本ではファンドの定性評価の経験やノウハウを持つ人材はごくわずかで、投信選びに定性評価情報が重要視されるようになるまで時間がかかりそうだ。

筆者個人としては、せめて、「年金の世界で良い評価を得ていること」が投信選びの1つの評価軸と捉えられても良いと思うのだが、いかがだろうか。


著者プロフィール

海老澤界

海老澤界

松井証券ファンドアナリスト
投資信託を多面的にウォッチし、豊富な投信アワードの企画・選定経験から客観的にトレンドを解説

略歴

横浜国立大学経済学部卒業後、日刊工業新聞記者を経て格付投資情報センター(R&I)入社。年金・投信関連ニューズレター記者、日本経済新聞記者(出向)、ファンドアナリストを経て、マネー誌「ダイヤモンドZAi」アナリストを務める。長年、投資信託について運用、販売、マーケティングなど多面的にウォッチ。投信アワードの企画・選定にもかかわる。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。


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