投資の地域性とは? NISA開設率格差から見えてくるもの
松井証券は北海道札幌市にコールセンターを構えている。インターネット専業証券である当社にとって、コールセンターは顧客との接点が生まれる貴重な場所である。筆者は先月、ここを訪問、研修や意見交換を通じて、投資情報の提供に関する様々なアイディアを醸成してきた。
東北・北海道はNISA口座開設率が低い
札幌コールセンターを訪問する前、「北海道」と「投資」を関連付ける興味深い記事を目にした。日本経済新聞1月11日付朝刊に掲載された『「NISAは地方で伸び悩む 東京は開設32%・青森15%、高齢化や情報格差」』というデータ分析記事だ。この記事によると、北海道は東北地方の県などと並び、人口対比のNISA(少額投資非課税制度)口座開設率が低く、都道府県別でみると、ワースト3位の低さだという。
筆者も金融庁公表データと総務省発表の人口推計をもとに算出してみると、同じ結果が出てきた。北海道の人口比でのNISA口座開設率は16.8%でトップの東京(31.9%)の半分強に過ぎない。せっかくの機会なので、コールセンターの方々との対話を通じて、理由を探ってみた。
記事では、NISA口座開設率が低い原因として、情報格差や高齢化などをあげている。いくらインターネットの普及で情報がいきわたるようになったとはいえ、リアルでの人と人との接点は人口が密集する東京などと比べると北海道は相対的に少ない。日常のコミュニケーションにおいて、具体的な投資の話につながる場面が多くはないことを、実感を元に語ってくれる人もいた。
年代別のNISA口座開設率をみてみると…
高齢化の影響はどうだろう。確かに長期の資産形成に主眼が置かれたNISA制度に対し、高齢者はあまり積極的ではないとはいえるだろう。高齢化が全体のNISA開設率を下げているという仮説は十分成り立つ。しかし、北海道の場合、年代別にみると、10~30代の若い人たちの開設率も他都府県に比べると低い。もちろん、高齢化も全体の開設率が低い原因の1つとはいえるが、他にも理由はありそうだ。
実際に聞いてみると、様々な意見をうかがうことができた。例えば、「名古屋などほかの国内主要都市と比べると札幌は有名企業が少なく、持ち株会などを通じて投資に触れ合う機会が少ない」というものや、先祖が開拓したことを通じて、広い土地を持っている人は多いものの、「それを“守る”ことに主眼が置かれ、リスクをとることをしない」「投資と言えば『株式よりも不動産』になりがち」といった意見もあった。これらはすべて仮説だが「なるほど」と唸るものばかりだった。
一口に「欧州」といっても投資文化は異なる
筆者は決して、北海道のNISA開設率の低さを嘆いているわけではない。日本国内におけるこのような違いは、情報格差や人口動態だけでは必ずしも説明ができず、文化的、歴史的、地理的といった様々な要因が複雑に絡み合っている可能性があるということだ。それは投資情報の提供の仕方にも関わってくるかもしれない。つまり、「将来のためにはリスクをとって投資をしなければならない」という単純なフレーズが必ずしも多くの人に同じように刺さるとは限らないだろう。
海外の状況にも目を向けてみよう。例えば、以下のような棒グラフは、日本人の金融資産における現預金比率の高さを示す際に使われることが多い。こうみると、米国と欧州の違いも結構浮き彫りになるわけだが、「ユーロ圏」と一括りにすることも、実はあまり適切ではないかもしれない。例えば、欧州一の経済大国であり、GDP(国内総生産)で日本を抜いたドイツは比較的貯蓄志向が強いと言われる。ドイツ連邦銀行のデータによれば、ドイツ家計の現預金比率は40%近くで推移しており、他のユーロ圏諸国や英国、北欧諸国などよりも高い。
マックス・ヴェーバー著の「プロテスタンティズムの倫理と資本主義の精神」(日本語訳版は大塚久雄訳、岩波文庫、1989年)」では、営利追及とキリスト教プロテスタントの親和性について掘り下げられている。欧州内における、リスク性金融商品との向き合い方に見られる差異は、キリスト教の分布(カトリックとプロテスタントの影響度合いの違いなど)が関わっている可能性もある。いずれにしても、日本国内と同様、「欧州」という大きなくくりでは単純に語れない部分は大きいだろう。
日常生活で得られる「効用」も影響しているかも…
1月の札幌は数年に一度レベルの寒波に覆われていたが、不思議とそこまで寒さを感じなかった。体感とは裏腹に、心温まることが多かったからだろうか。
美味しい食べ物に豊かな自然、数多くの魅力的なレジャー…。日常生活で得られる効用の大きさも、「投資」という行動の優先順位に影響しているのかもしれない。そんなことを考えながら、北の大地を後にした。
※「さっぽろ雪まつり」の準備が進む大通公園。さっぽろテレビ等を背にして(筆者撮影)