スペースX上場、株価はロケット🚀の様に上昇できるのか?
マーケットアナリスト大山です。今週も宜しくお願いします。
2週続けてスペースXについて書きます。
スペースXは米国時間6月11日、新規株式公開(IPO)の公開価格を1株あたり135ドルに正式決定し、過去最大となる750億ドル(約12兆円)を調達し、翌6月12日にナスダック市場に上場しました。初日の取引は初値150ドル、終値は公開価格比プラス19%、160.95ドルでありました。
【今週のコラム要約】
ディズニー&ピクサー映画『トイ・ストーリー』の主人公の一人、バズ・ライトイヤーの有名なセリフに「To Infinity and Beyond!!無限の彼方へ!!」という言葉があります。現在の市場の熱狂と、スペースX社が掲げるビジョンを表現するのに、これほどぴったりな言葉はないと考えています。
今週は、桁外れのスケールで市場に上場した企業の実態と、それが我々の主戦場である株式マーケットにどのような影響を与えるのか見て行きましょう。
スペースXのミッションと成長のパラドックスとは?
先ずスペースXを理解するうえで絶対に外せないのが彼らの掲げる壮大なミッションです。
彼らはMARS & Beyond(火星とその先へ)、Making life Multi planetaryというミッションを掲げています。地球以外の惑星(主に火星)に移住し、人類が地球以外の星でも自給自足して生活できる文明を築くことを指します。まるでSF映画のような言葉ですが、本気で事業化をしています。
このミッションを実現するために彼らは、3つの事業セグメントからなるビジネスモデルを構築しました。
先週と重複しますが順番に見て行きます。
1つ目が「Space(宇宙)」部門。ファルコン9などの再利用ロケットで、宇宙へのアクセス費用をすでに劇的に削減しています。
2つ目が「Connectivity(通信)」部門。低軌道に約9,600基の衛星を展開し、世界で1,030万人が利用しているブロードバンドサービス「Starlink」です。
そして3つ目が「AI(人工知能)」部門。2026年2月にxAIを買収統合し、真実を追求するAI「Grok」の運営や、後ほど触れる「宇宙AIデータセンター」の構築を担う、今後の最重要フロンティアです。
このようなSF映画の様なミッションを達成するために必要な事業部門は、現在どのような財務状況にあるのでしょうか。目論見書に記載されている財務数字を見てしますと、成長のパラドックスが見えてきます。
全社売り上げはここ数年で年平均34%成長をしています。2025年は売上約187億ドルに達したのですが、最終的な利益を見ると実は「約49億ドルの純損失」を出している大赤字企業でもあることが確認できます。
このような事業構造、収益構造のスペースXは、市場からどう見られているのでしょうか。
3事業を通じて見えてくるのは、通信部門のスターリンクで稼ぎ、宇宙、AIに巨額の投資をする構図です。
現在、スペースXの稼ぎ頭は通信部門の「Starlink」です。
通信部門単体では売上約114億ドル、営業利益約44億ドルを叩き出す、全社で唯一の「金のなる木」です。ところが、このStarlinkで稼ぎ出した莫大な利益を、次世代ロケット「Starship」の開発費(約30億ドル)や、AI部門のデータセンター構築に「全額」つぎ込んでいるのです。
特にAI部門だけで年間約64億ドル規模の営業赤字を出しており、全社最大のコストセンターになっていて、稼いだそばから未来のインフラへ凄まじいスピードで資金を燃やしている・・・いわゆるキャッシュバーンの状態にあるのです。
このアンバランスな実態を市場はどう見ているのか。
3つの事業について、目論見書が伝える「事実」と、メディアが報じる「期待とリスク」を整理する必要があります。
➤「金のなる木」の通信「Starlink」。事実として最大の収益源ですが、単価(ARPU)は低下傾向にあります。市場はこれを既存の通信網を脅かす「迫り来る彗星」として期待する一方、アマゾンなどの参入による競争激化や、数万基の衛星がもたらす宇宙デブリ問題、インフラとしての地政学リスクを懸念しています。
➤次に「Starship」。ファルコン9で到達コストをすでに8割以上削減しましたが、スターシップではさらにコストの99%削減を目指します。市場はこれを、宇宙ビジネスを根本から変える「最大の切り札」と期待しています。しかし、未だ開発段階であり、これが遅延・失敗すれば成長シナリオ全体が頓挫する「最大の致命的リスク」でもあります。
➤最後に「宇宙×AI」。これが今回の公開価格135ドル、時価総額1.77兆ドル、そして初日19%株価が上昇したという天文学的な評価額の最大の根拠ではないかと思うのですが・・・、
イーロン・マスク氏は自社の潜在市場(TAM)を人類史上最大の「28.5兆ドル」と強気に見積もり、地上の電力不足を宇宙の太陽光と冷却で解決する「軌道上データセンター」を展開する計画を公表しています。Google、Anthropic等との巨額契約で期待は膨らんでいますが、現在の評価額を正当化するには売上を今の60倍にする必要があり、非現実的だという厳しい声が上がっています。
では「この株価は何を意味している?」のでしょうか。異なる時間軸の中で答えが2つあります。
➤短期的には、株価指数に採用される思惑で、投資家が先回りして買ってやろうという思惑が働いたこと、そしてindexファンドやパッシブ運用による異常な買い需要に対して市場に出回る株が極端に少ないと見られていることが需給的に非常にポジティブであると見られています。
➤中長期的には業績への期待です
それは何かと言えば、EWSイーロンweb Serviceと一部で呼ばれるデータセンターに対する期待です。
イーロンマスクは宇宙空間軌道上にデータセンターを構築する構想を掲げていますが、これを実現するために不可欠なのが、宇宙への打ち上げコストを過去の平均から1/10099%減に劇的に引き下げる事なのです。
機関投資家が考えたであろうバリュエーションは・・・
「スペースXのAIインフラ事業/データセンタービジネスがどれくらい儲かるのか」を計算する必要があります。この計算式を求めるディスカッションの中で、機関投資家はどの様に考えたのでしょうか。
昨年明らかになったオラクルとOpenAIが交わした契約から、現在のAI業界のデータセンター容量の標準相場を見ることが出来ます。2社間で交わされた1GW当たり140億ドルという契約を分解すると、エヌビディアなどが作るGPU半導体1基当たりの月額レンタル料は1500-1800ドルになります。
スペースXIPO直前に公表されたスペースXがAnthropicと交わした契約だと相場の2.5倍から3倍程度で、Googleには相場の約5倍、約8400ドル(月額9.2億ドル/11万基)で課したと計算されます。
先ほどスペースXは売り上げを60倍にする必要があると述べましたが、「2035年までに年間1.1兆ドルの売上高」を達成しなければならない計算です。ここでオラクルとOpenAIのレンタル料金計算(1GW=140億ドル)が活きてくるのですが、イーロン・マスク氏は最終的に「宇宙空間に100GWの演算能力を配置する」という目標を掲げています。オラクルの指標を当てはめれば、100GWのAIインフラは年間1.3兆ドルの計算処理売上高に相当します。
つまり、マスク氏の宇宙AIデータセンター構想が計画通りに進めば、公開価格(135ドル)を正当化するために必要な「1.1兆ドルの売上」という高いハードルを、AIインフラのレンタル収入だけでクリアできるという計算が成り立ちます。
また、宇宙AIデータセンター構想が完全に実現し、100GWクラスのインフラ構築に成功した場合のアップサイド(上値余地)は、AI計算能力のレンタル収入だけで年間2.6兆ドルに達するとのウォール街の見方もあります。「もし軌道上データセンターが実現すれば、スペースXは10兆ドル規模の企業になるだろう」と指摘され、株価に直せば、公開価格135ドルからさらに5〜6倍の大化けをもたらす夢のシナリオが提示されていました。
つまり、強気の「買いの判断」は、宇宙空間の無尽蔵な太陽光と冷却環境を活用して100GW(1.3兆ドル〜2.6兆ドルの収益)を実現できると信じるなら、公開価格135ドルは「10兆ドル企業」に向けた通過点に過ぎず、買いになると判断できる・・・ということだったのだろうか。
今一度、スペースX株投資の原点を考えてみる(今週も書きます)
スペースXへの投資はクーポン収入や元本回収を考えるような債券投資ではなく、株式投資です。
目論見書には、映画アルマゲドンのような宇宙デブリのリスクから、巨額のキャッシュバーンまで、生々しい現実が詳細に書かれています。だからこそ、「イーロン・マスク氏の描く未来に共感し、その壮大な夢を共有できるか」――そこに魅力を感じることが出来れば株を買えばいいと思うのです。
今回のスペースXという企業への投資は、途方もないイーロンの夢に共感できるかどうかです。
これが投資に向き合う最大の鍵になると私は考えています。