「ミラノ・コルティナ五輪」から得られる投資のヒントは?

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2026年03月03日

「ミラノ・コルティナ五輪」から得られる投資のヒントは?

冬季五輪として過去最高の24のメダルを獲得するなど、日本選手団の活躍で湧いたミラノ・コルティナ冬季五輪が閉幕した。筆者も早朝から中継に見入ってしまい、気づけば何度も目頭が熱くなっていた。陳腐な表現で申し訳ないが、国籍や言語を超えて、世界は一つという感覚を得られるのは、やはりスポーツの良いところだろう。ただ、少し冷めた目で冬季五輪を見てみると、少し違った顔が見えてくる。富裕国もしくは先進国の祭典という側面だ。



総メダル数の約9割が「MSCIワールド」構成国の選手が獲得

どの国を先進国と呼ぶかについては明確な定義はない。ただ、投資の世界には、割と強力なコンセンサスがある。株価指数である「MSCIワールド(先進国)」構成国であるか否かだ。今回のミラノ・コルティナ五輪における、国別獲得メダル数ランキングが下の表だ。上位11カ国までがMSCIワールド構成国が占める。

ミラノ・コルティナ五輪の国別メダル獲得数ランキング

今回の五輪における総メダル数は348個。そのうち、87%にあたる302個のメダルを、MSCIワールド構成国の選手が獲得している。なお、MSCIワールド構成国ではないが、もう一つのメジャーな指数算出会社、FTSEの区分では先進国に位置付けられる韓国、ポーランドを含めると、9割以上のメダルが「株式投資における先進国市場の選手」が獲得したことになる。

MSCIワールドを構成する23カ国の人口は世界人口の10%強に過ぎない。GDPでは世界の55%程度をMSCIワールド構成国が生み出しているが、冬季五輪のメダル数は大きく先進国に偏っていることがうかがえる。ちなみに、2024年にパリで開かれた夏季五輪では、MSCIワールド構成国が獲得したメダル数は約58%で、世界のGDPに占めるMSCIワールド構成国の比率に近い。いずれにしても、冬季五輪は夏季五輪に比べても、先進国のための大会の色彩が強いといえよう。

余談だが、MSCIワールド構成国でメダルを1つも獲得しなかったのは、アイルランド、ポルトガル、イスラエル、シンガポール、香港の5カ国・地域。この中では、緯度が比較的高いアイルランドに意外感があるが、調べてみると、大西洋を流れる暖流の影響によって冬でも比較的温暖で、ウインタースポーツは盛んではないらしい。


ウインタースポーツはお金がかかる

アイルランドに限らず、中東に位置するイスラエルや産油国など経済力があっても、冬季五輪ではメダルを獲得できない国はある。自然環境や気候という贖えない要素があるのは事実だ。また、「そもそも先進国が北側に多いだけでは?」というツッコミも入るかもしれない。確かにそうした側面があるのは否めないが、資本を持つ国が余剰資本を、冬のスポーツというお金がかかる余暇に投下しない限り、冬季五輪自体がここまで発展することはないという事実を無視してはならないだろう。

用具やウェアに限らず、ボブスレーやリュージュのコースやジャンプ台の建設・維持にかかるお金、フィギュアスケートのコーチ代や遠征費などウインタースポーツはとにかくコストがかさむ。経済的にある程度の余裕がなければ、強化は難しい。なお、メダル数と経済規模の関係を分析してみると、国全体の経済規模よりも1人当たりGDPとの結びつきがより鮮明に表れる傾向がある。競技環境を整えるには、国としての経済規模よりも国民1人ひとりの経済的な余裕やそれに基づいたインフラの厚みがモノを言う面があるということだろうか。


冬季五輪は世界経済の縮図か

さて、話はガラッと変わるが、筆者は「オルカンかS&P500か」という、よくある論争の際に、「先進国株インデックス」という第3の選択肢を提示するようにしている。先進国と新興国の間には、ある程度明確な線が引かれると面もあると思うためだ。21世紀に入り、誕生した言葉に「中所得国の罠」というものがある。ある国がそれなりの規模まで発達しても、成長が足踏みしてしまい、高所得国(≒先進国)に脱皮できない状況を指す。

マクロ経済学における「ソロー・スワンモデル」では、人口増加と資本の蓄積という「量」の要素だけでは、いずれ一人当たりの所得の伸びが止まる「定常状態」を迎え、経済成長は止まる。その先の経済成長はイノベーション(技術革新)によって生産性を改善していけるかどうか、つまり、「質」を重視する経済に変わっていけるかどうかにかかってくる。しかし、多くの新興国はそれができなかった。それがまさに「中所得国の罠」に符合するわけだ。

多少古いが、20世紀を代表する経済学者、サイモン・クズネッツの「世界には4種類の国々がある。先進国と発展途上国、日本とアルゼンチンだ」という有名な言葉もこのような状況に示唆を与える。日本(発展途上国→先進国)、アルゼンチン(先進国→発展途上国)を例外とすれば、先進国と発展途上国の地位は概ね固定されているというメッセージだ(この場合、「発展途上国」を「新興国」に置き換えても差し支えないだろう)。

資本(スポーツ設備や装備など)を備えた先進国がイノベーション(最新のスポーツ科学など)を駆使して、経済的なリターン(メダル)を獲得し続ける…という具合に、冬季五輪の現状を世界経済の実態に当てはめるのはこじつけだろうか。しかし、筆者は現在の冬季五輪について、不都合な事実も含めた世界経済の縮図のように見えてならない。

主要外国株指数の推移(2025年末~)

スポーツの感動は別、投資は現実を直視すべき

報道によれば、国際オリンピック委員会(IOC)は室内で行われる球技や格闘技など夏季五輪種目の一部を冬季五輪に移管することを検討しているという。夏季五輪の肥大化を抑制することが目的とされているが、おそらく、活躍する国が先進国に偏った冬季五輪のバランスを是正することも隠れた狙いのように思える。あくまで推測に過ぎないが、IOC会長にアフリカ・ジンバブエ出身のコベントリー氏が就いてから、このような議論が出てきたことからも、そんな意図が背後にある可能性は高いといえるのではないか。

筆者は夏季五輪から冬季五輪への一部競技の移換に賛成だ。そして、ミラノ・コルティナ五輪で試された地域分散開催も五輪の持続可能性のためには有効だと思う。このフォーマットを前提に考えれば、東京を中心とした広域での冬季五輪の開催も可能だと思うし、コロナ禍で非常に中途半端な形になってしまった2021年の夏季五輪で得られなかった盛り上がりを取り返せるのではないかという期待もある。

個人的な妄想はさておき、人種、宗教、国や地域の偏りがなく、世界全体が盛り上がれるのが五輪の理想であることはおそらく間違いない。オリンピックの目的の1つが感動の最大化であるとすれば、夏季五輪と冬季五輪の競技の「リバランス」は効果的だろう。ただ、投資や資産形成においてはシビアに現実をみることも大事だ。

詰まるところ、「世界人口は増え続け、経済成長を続けるから、先進国・新興国構わず世界全体に投資し続けるのがよい」というのはどこか単純化しすぎていると思えてならないのだ。


著者プロフィール

海老澤界

海老澤界

松井証券ファンドアナリスト。横浜国立大学経済学部卒業後、日刊工業新聞記者を経て格付投資情報センター(R&I)入社。年金・投信関連ニューズレター記者、日本経済新聞記者(出向)、ファンドアナリストを経て、マネー誌「ダイヤモンドZAi」アナリストを務める。長年、投資信託について運用、販売、マーケティングなど多面的にウォッチ。投信アワードの企画・選定にもかかわる。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。投資信託を多面的にウォッチし、豊富な投信アワードの企画・選定経験から客観的にトレンドを解説。


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