スタグフレーションとは?インフレやデフレとの違い、市場に与える影響
投資に関する情報を集めている中で、「スタグフレーション」という言葉を聞いて気になった方もいるのではないでしょうか。
スタグフレーションとは、景気が停滞しているにもかかわらず物価が上昇する状態を指します。市場の動きや資産価値に大きく影響するため、投資をする上で知っておきたい重要な経済用語の一つです。
本記事では、スタグフレーションの意味や原因、インフレやデフレとの違いを初心者にもわかりやすく解説します。
スタグフレーションとは?
スタグフレーションとは、景気の停滞と物価の上昇が同時に発生する、特殊な経済状態を指します。
スタグフレーションの意味
「スタグフレーション」は、景気の停滞を意味する「スタグネーション (Stagnation)」と、物価の上昇を意味する「インフレーション (Inflation)」を組み合わせた造語です。
通常、景気が後退(リセッション)すると、需要の減少により物価も下がる傾向があります。しかし、スタグフレーションでは景気が停滞または後退しているにもかかわらず、物価が上昇するという、通常の経済理論では説明しづらい現象が発生します。
スタグフレーションは、不況とインフレという二重の苦しみをもたらすため、経済政策の選択が困難となり、国全体の経済状況に深刻な影響を与える可能性があります。
「インフレ」や「デフレ」との違い
インフレ(インフレーション)とは、物価が継続的に上昇する現象を指します。景気が拡大しているときに発生することが多くなっています。一方、デフレ(デフレーション)は、物価が継続的に下落する現象です。景気の停滞や後退と結びつくことが多く、企業収益や労働市場に悪影響を及ぼします。
スタグフレーションは、これらの特徴が混在する異常な状態であり、インフレのように物価が上昇する一方で、デフレに近い景気停滞も同時に起こる点が特徴的です。このため、従来の経済政策では効果的な対処が難しいことも少なくありません。
スタグフレーションが起きる主な原因
スタグフレーションは、さまざまな要因が複雑に絡み合って発生します。
スタグフレーションの代表的な原因として挙げられるのが供給ショックです。例えば、エネルギー危機や自然災害、戦争などにより供給が突然途絶えたり減少したりすると、物価が急騰します。一方で、生産コストが上昇するため、企業の利益率は低下し、経済成長も鈍化します。
また、中央銀行や政府による政策の失敗もスタグフレーションを引き起こす大きな要因の一つです。景気低迷中の過度な財政支出や金融政策が自国通貨安を引き起こし、物価上昇による、スタグフレーションにつながるケースがあります。
スタグフレーションが与える影響とは?
スタグフレーションが発生すると、経済全体に深刻な影響を及ぼします。特に一部の産業や業界は、収益構造や運営体制の大きな見直しを迫られることが少なくありません。
スタグフレーションの影響を受けやすい産業や業界
スタグフレーションは、多くの産業や業界にコスト増加や需要低迷をもたらします。
製造業や運輸業などは、石油や天然ガスの価格が高騰すると、製造コストや輸送費が増大します。コスト増加を製品価格に転嫁しきれない場合、収益の減少につながります。
また、小売業や卸売業なども、スタグフレーションの影響を受けやすい業界です。物価の上昇により仕入れ価格が高騰する一方で、景気の停滞により消費者が節約志向になるため、売上が伸び悩むケースが増えます。
スタグフレーションは産業や業界全体の構造的な課題を浮き彫りにする現象でもあります。各業界は、このような状況に対応するため、コスト管理や需要創出に向けた新たな取り組みが求められることも少なくありません。
スタグフレーションが経済に与える影響
スタグフレーションが経済に与える影響は、広範囲に及びます。
顕著な影響の一つは、家計への負担増加です。物価が上昇する一方で、賃金は上がらないため、実質的な生活水準が低下します。特に、食料品やエネルギーといった必需品の価格高騰により、家計のやりくりが厳しくなる家庭が増加するでしょう。
また、企業の業績悪化は、雇用環境にも影響を及ぼします。収益が減少した企業は、新規採用を控えるほか、人員削減に踏み切る場合が少なくありません。その結果、失業率が上昇し、さらに消費が冷え込む悪循環を引き起こします。
さらに、スタグフレーションは、国際市場における競争力にも悪影響を及ぼします。物価上昇により輸出品の価格が高騰すると、価格競争力が低下し、外国市場でのシェアを失うリスクが高まるでしょう。
スタグフレーションが市場に与える影響
スタグフレーションは、株式市場や為替市場などにも多大な影響を及ぼします。
スタグフレーション下では、物価高騰によるコスト増加が企業の収益を圧迫し、業績悪化が懸念されることで株価が下落する可能性が高くなります。また、インフレ抑制のために長期金利上昇で、債券価格の下落につながることもあるでしょう。
さらにスタグフレーションは、為替市場にも不安定要素をもたらします。経済の不確実性が高まる中で、投資家は安定した通貨を求めて資金を移動させるため、為替レートの急激な変動が起こる可能性があります。
スタグフレーションが発生した世界的な事例
スタグフレーションは、過去に何度も発生し、そのたびに世界経済に深刻な影響を与えてきました。ここでは代表的な事例を2つ紹介します。
1970年代のオイルショック
1970年代に発生した2度のオイルショックは、典型的な供給ショックによって引き起こされたスタグフレーションです。
1973年、第四次中東戦争をきっかけに、石油輸出国機構(OPEC)が石油の価格引き上げと供給制限を実施したことで引き起こされたのが「第1次オイルショック」です。アラブ諸国が戦争支援を行った米国やオランダなどの国々に対して石油禁輸措置を取ったことが、石油価格の急騰を招きました。
原油価格は短期間で約4倍に跳ね上がり、世界中でエネルギー価格が高騰しました。これにより、多くの国で物価が急上昇し、企業の生産コストが増加したため、経済成長が鈍化しました。日本や欧米諸国でもインフレ率が急上昇し、同時に失業率が増加するスタグフレーションが発生しました。
1979年、イラン革命によって中東地域の政治情勢が不安定化し、原油供給が減少したことが引き金となって、原油価格が上昇したのが「第2次オイルショック」です。
第1次オイルショックと同様に、エネルギーコストの増加が世界経済に深刻な打撃を与えました。特に、先進国ではインフレ率がさらに上昇し、景気の低迷が続きました。一方で、石油消費への依存が高かった国々は、生産活動の減少や貿易収支の悪化に苦しむこととなりました。
これらのオイルショックは、エネルギー政策や経済政策の見直しを世界的に迫るきっかけともなりました。
イギリスのEU離脱
イギリスのEU離脱(Brexit)は、同国経済に大きな混乱をもたらし、スタグフレーションを引き起こしました。
景気が減速する中、EU離脱による貿易コストや供給網の混乱が原因で輸入物価が上昇し、物価が高騰しました。EU離脱に伴いポンドの価値が下落したことで、輸入品の物価上昇はさらに加速し、インフレ圧力が強まりました。
投資家が個人でできるスタグフレーションへの対策
スタグフレーションが発生すると、投資環境は不安定になりやすいといえます。こうした状況でも資産を守り、運用するためには、リスク管理が重要です。
スタグフレーションに強い資産を増やし分散投資を行う
株式、債券、REIT(不動産)、コモディティなど、複数の資産クラスに投資先を分散することで、それぞれの特性を活かしたリスク管理が可能です。
例えば、REITを投資先とすることでスタグフレーションに強いとされている不動産分野に、流動性や資金面といった不動産に掛かるリスクを抑えて投資を行うことができます。金・銀といった貴金属類や穀物といった生活必需品もスタグフレーション下で価格が保たれる傾向があるため、物理的な資産を買わずとも、ETFや投資信託を活用し、ポートフォリオに組み入れることで、スタグフレーションの中でも資産運用の安定性が高まるでしょう。
分散投資は、スタグフレーションに備える方法として効果的な方法の一つです。国内資産だけでなく、海外資産にも投資することで、特定地域の経済停滞による影響を抑えやすくなるでしょう。
長期的な視点での投資を行う
スタグフレーションのような経済が不安定な状況では、短期的な市場の変動を予測するのは難しいものです。そのため、長期的な視点で資産運用を行うことがリスクを抑えながら資産を増やすためには重要になります。
長期投資の大きなメリットは、相場の短期的な値動きに振り回されにくいことです。相場が一時的に大きく上下しても、長い目で見ればその影響が薄まり、安定して資産を増やせる可能性があります。スタグフレーションのように物価が上昇して景気が停滞する複雑な状況でも、時間をかけて資産を運用することで、その間の変動を乗り越えて利益を狙える可能性があるのです。
長期投資を実践する方法としては、定期的に少額ずつ投資を行う「積立投資」があります。定期的に一定量の商品を購入し、価格が高いときは少なく、価格が安いときは多く購入することで、購入価格を平準化する効果が得られます。
株式の配当金や債券の利息、不動産の家賃収入など、継続的な収入を得られる投資も長期投資と相性の良い方法の一つです。スタグフレーションのような経済停滞下でも、一定の収益を確保できる可能性があります。
スタグフレーションに備えて分散投資をするなら松井証券がおすすめ
スタグフレーションは、物価が上がる一方で経済が停滞する状況のことで、投資判断が難しい局面といえます。しかし、分散投資や長期投資を実践することで、リスクを軽減しながら安定した資産運用を目指すことが可能です。
とくに分散投資の効果を最大限に引き出すためには、さまざまな銘柄に投資できる環境が必要になります。松井証券では、1,800種類以上の投資信託を取り扱っており、購入時手数料はすべて無料です。毎月100円から積立投資も始められるので、初心者でも気軽に投資を始められます。これから投資を始める方は、松井証券での口座開設を検討してみてはいかがでしょうか。