地政学リスクの高まり
マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。
先週のコラムは2026年相場の方向性に関して書きましたが、今週は年始から明らかに変化してきた指標があり、気付きも得られたので少しお話ししたいと思います。
南米ベネズエラをめぐる情勢が、年始に大きく動いた
トランプ米大統領はベネズエラで米軍が作戦を展開し、マドゥロ大統領を拘束したと発表しています。
世界最大の石油埋蔵量を誇るベネズエラ。この国では反米左派のチャベス氏が1999年に大統領に就いて以来、米国と確執を続け、米国はブッシュ(ジュニアの方)政権の2005年からベネズエラへの制裁を始め、オバマ、第1次トランプ、バイデンの各政権も人権侵害などの理由から制裁を行っています。
足元は、この膨大な石油利権を中国が狙っていて、資源開発やインフラ整備等のための資金提供としてベネズエラに対する融資総は600億ドルに達するとみられていたこともあり、中国の西半球関与は、もはや看過できない状態にありました。さらに近年は、違法薬物問題の根源として取り沙汰されていました。米司法省はマドゥロ大統領の関与を指摘し、マドゥロ氏が麻薬カルテルを率いていることを述べています。
このように米トランプ政権は、薬物流入抑制のため、資源(石油利権・生産利権)獲得のため、中国との結びつきにクサビを打ち込む等の複合的な要因のため、(米国の対ベネズエラの行動は特殊要因まみれで特別だと思いますが)米国関与は「待ったなし」の状態でありました。
年明け早々、1月3日、フロリダ州マール・ア・ラーゴでの記者会見において、トランプ大統領は、ベネズエラマドゥロ大統領を拘束し、国外移送を行い、米国が今後ベネズエラを「運営する(run)」と発言しています。これはベネズエラ政府の意思決定や日常的な行政関与することを示唆するものです。
マール・ア・ラーゴでの記者会見においては、米国はベネズエラの石油に「完全なアクセス」を得ると述べ、米国の石油企業を投入して老朽化した生産インフラを再建すると述べました※。
またチャベス政権以降の左派政権が米国企業の権益を収用してきた歴史に言及し、「我々の石油を取り戻す」との表現も使っています。
※ベネズエラの石油世界シェアは19%に達するとみられ(OPECによる2024年時点集計)、重質油は生産コストの高さが指摘され、政情不安・インフラ老朽化などの理由で原油生産は世界シェアの1%弱に留まる状況です。
全てトランプ氏の中間選挙対策だと言い切れば簡単ですが、米国の狙いが世界最大の原油埋蔵量にあったのかどうかは未だ分っていません。ともかく、今回の米国の行動が、ロシアや中国にどのような影響を与えるか?をマーケットが考え始めたと思います。米国の西半球関与の高まりに対して、地政学リスクのレベル感を確認すると、この様になっています。
この地政学リスクチャートは、主要メディア新聞10紙をベースに、戦争やテロなどに関わる記事の割合を指数化したものです。●紺色は月次地政学リスク、●黄色は30日移動平均を見たもので趨勢を確認することが出来ます。こうしてみると、ベネズエラへの行動でチャートは上方にシフトし、「趨勢」を見ても徐々にじわじわと上方にシフトしつつあることが確認できます。
マーケットは、今回の米国の行動を機に、ロシア、中国が今回と似たロジックで動くことが考えられないのか?ロシアのプーチン大統領がウクライナのゼレンスキー大統領を「逮捕」するために行動することは無いのか?あるいは中国の習近平主席が台湾の指導者を「逮捕」または「謀反人」と位置づけて行動を起こしたらどうなるのか?さらに、米国は中国・ロシア牽制に絡み、隣国グリーンランドに対する行動を起こすのか?など、目が離せない状態にあります。
地政学リスクの高まりで金価格が上昇したが・・・
世界全体の地政学リスクの高まりで、市場はドル安・円高、金利上昇などで反応しました。リスク回避の傾向がやや強まり始めています。このトレンドは2025年末、2026年初から始まったことでありませんが、政治的・軍事的な緊張が高まることでリスク資産から資金が引き揚げられ、価値が安定している金(実物資産)に資金が逃避することが起きています。
ここで、金価格の推移と防衛産業のETF<SHLD>の価格の推移を重ねてみます。ドンピシャです。
むしろ地政学リスク=自国第一主義の高まり=安全保障という事だと理解することが出来ます。
コロナ以降で考えられる地政学リスクの高まりは、ロシアウクライナ侵攻と右傾化した政治姿勢、自国第一主義が前面に出たことが要因だと考えています。金の上昇タイミング・金需要の高まりは、世界経済の不確実性や通貨価値の下落に対するヘッジ手段の結果・・・のハズです。
この構図は、2026年以降も継続する可能性があるのでしょうか?
年始から米国1強が崩れ、ドルが売られることは有るのでしょうか?
米中央銀行の独立性が損なわれること(FRBへの、FRB議長人事への介入を強めていること)、
大規模減税などを盛り込んだ法案が成立したことで、アメリカの債務問題の大幅な悪化が懸念されたこと、
米議会での予算審議の難航とそれに伴う政府機関の閉鎖と、政治分断と政治不信(政治プロレス不信)など枚挙に遑が無いほど不安要素が山積しています。
国家に対する信認の低下、そして政策が導いたインフレリスクも合わさり、通貨価値が下落する可能性があって、その信用リスクヘッジで実物資産である金の需要が高まったのですが、とくに今のマーケットに於いては、「金」をポートフォリオに入れた方が良いのではないか?ということで金需要が発生してここまで買われているような気がしますが、本質はそうではなくて、ここ1-2年の政治右傾化に伴った、主要先進国の債務膨張、G2対立と言う事ではないかと思うのです。
政治の右傾化、安全保障への変化の対応という観点で金価格や防衛産業ETFを見て行くと理解しやすいのではないでしょうか。
金のパフォーマンスとGlobal XのディフェンステックETF<SHLD>※のパフォーマンスを並べるとそういうコトだ・・・とお判りいただけると思います。
・・・むしろ私には、地政学リスクには、金投資よりも防衛産業投資の方が効きそうな気がします。
※<SHLD>の保有銘柄は月次レポートに公開されています。
日本の三菱重工や川崎重工が入っているわけではありませんが、欧米の防衛テックが組入れられていますのでぜひご参考ください。
※今週の松井証券アナリストのコラムでは、投資信託担当の海老澤さんも地政学リスクに関してお話しされています。ぜひそちらも併せてご覧ください。