水面下のリスク:K字型経済は 今年も続く【大山季之の週間マーケットUPDATE】
マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。
今の米国経済は想定外の底堅さを示していますが、経済は二極化し、2026年はさらにギャップが拡大するとみられています。
【今週のコラム要約】
持てる者と持たざる者の格差を示すK字型経済は、コロナ以降に進行し、経済格差は拡大
昨年は英語でThe K-shaped Economyと評された「K字型経済」に沿う動きが顕著でした。
経済上位層(富裕層)は資産価値の上昇から恩恵を受け上昇傾向にある一方で、下位層(低所得者層)はインフレ圧力と賃金停滞の中で苦境に立たされ、かろうじて持ちこたえている状況にあることを指します。つまりK字型経済とは、”持てる者と持たざる者の格差”を指し、二つの消費者層の運命が分かれる状況を説明しているのです。
“持てる者と持たざる者の格差”は目新しいものではありませんが、足元では経済的な痛みが低所得層から中間層へと広がりつつあるように見えますし、富裕層との格差はいっそう鮮明で、FRBパウエル議長は昨年12月10日の記者会見で「明らかにK字型化が進行中(clearly a thing)」とした上で、「持続可能だとは思えない」との見方を示しました。一部の経済学者は、これが景気後退リスクを高める要因になっていると指摘しています。
“K-shaped Economy”この概念を最初に広めたのはピーター・アトウォーターという経済学者ですが、一般的に使われ始めたのは前大統領のバイデン氏と言われています。2020年米大統領選でバイデン氏が“K-shaped Economy”を引用し、コロナ明けの経済を表現する言葉として使い始め、富裕層だけが潤い労働者が苦しむK字型経済を終わらせるという文脈でトランプ氏と対峙したことで、政治・社会用語として定着したとみられます。
この時の様子をCNNはこう伝えています。2020年10月 CNN:
Joe Biden said the economic recovery is ‘K-shaped.’ Here’s what that means:
Joe Biden says it’s a “K-shaped” recovery.
Donald Trump said the bounce-back is “V-shaped.”
バイデン氏はこのタイミングの景気回復をK字回復と説明した一方で、トランプ氏はV字回復と述べています。
ピーターはK字型経済を説明した後で、「I hoped it would be short-lived 短命に終わることを願う」と述べていますが、幸か不幸か、この”効果”は持続しています。
2020年大統領選のタイミング以降の米国株価指数の推移を見ると、コロナ明けに上昇基調に入る様子が窺えます。前々回の大統領選では、バイデン氏は労働者・企業の大きな格差を伴う形での米国経済の回復を批判し、第1期トランプ政権下で実施された法人減税、所得減税が、コロナ下での格差を一段と拡大させた、と批判を繰り返し大統領選を制しました。
その後で米国経済は、さらに格差拡大を伴いながら回復を遂げていくのですが、バイデン氏は分断・二極化の修正ができなかった民主党大統領として烙印を押され、民主党ハリス候補は大統領選で共和党トランプ氏に敗れ、第2期トランプ政権が誕生しました。そしてこの動きが、さらに加速・拡大するとみられています。
経済格差の結果、短期的には所得上位層10%に向けた施策を実施すべき
このK字型経済の結果、トランプ関税に耐えられる企業は富裕層に依存する傾向が強まり、こうした超一流企業と富裕層が米国経済を支え、依存する度合いが高まっています。
さらに過度な集中が景気後退リスクを高めて多くの中低所得者層を苦しめていくと言われています。
ムーディーズアナリティクスによれば所得上位層10%世帯が半分の消費を占め、30年前の36%と比べて増加しているとのことです。
米国経済が景気後退を回避できるかどうかは、まさにこの層の動向にかかっています。
年収約25万ドル以上の世帯は株式市場・不動産価格の上昇、ビジネスの回復に支えられて概ね好調で、休暇取得・消費支出の拡大を通じて、多くの中低所得者層が直面する負担を覆い隠していると言えます。
短期的には、すべては上位10%の層が何をするのかしないのかで決まる、経済学的には、残りの所得分布は重要ではない・・・のでしょうか
10-12月期決算発表で再びK字型経済が意識されました。再燃しているとも言えます。
つまり、この所得階層別でみる経済格差が、明らかになっているのです。たとえばアメリカンエクスプレスは、より付加価値の高いプレミアムカードの刷新を発表しました。関税後に高級車ブランドのポルシェ、アストンマーチンなどは顧客離反が無いと考えて直ぐに値上げを実施しました。このように可能な限りで「高級化」を図ろうと企業は動いています。
消費支出の偏りで、従来のビジネスを通じた資本コストの回収は不可能。高所得層をターゲットに変えられる企業は?
足元、デルタ航空の第4四半期決算では、二極化した収益構造を明らかにしています。
同社は他社に先駆けて高所得者層と低所得者層の顧客に於ける航空券予約パターンを分析、高価格帯のプレミアムシートに対する需要の変化を見据えて大規模改修を行っています。
結果、プレミアムシートを増やすことで収益は改善、プレミアムシートからの収益は9%増加したと報告しました。一方でメインキャビンのベーシックエコノミーシート収益は7%減少し、前四半期の4%減よりも急激な落ち込みになっています。
このシートにおける収益格差、当然ながらプレミアムシートの収益性が高いわけですが、昨年は年間を通じてエコノミークラスの需要減をプレミアムシート需要が補ったとマネジメントは報告しています。
Forbes誌は、決算説明会で「プレミアム」という言葉をCEOが24回も言及したこと、2026年を見据えて、プレミアム需要が直ぐに終わることが無いと説明したことを伝えています。
このデルタ航空の動きはユナイテッド航空にも見られ、さらに全米第3位のエアライン会社であるアメリカン航空も競合に追いつくためにプレミアム路線に乗り出したという報告をしています。
富裕層がプレミアム商品需要を牽引している一方で、中低所得者層は中級・低価格帯での支出を抑制し続けています。
航空業界のみならず宿泊業界も同様、堅調な成長を示したのは高級ホテルセグメントのみと見られます。ホテル分析STRデータによれば、高級ホテルの客室稼働が3%増加に対し、エコノミーは1.9%減を記録。マリオットホテルでは財務担当マネジメントCFOは、高級ホテルとフルサービス部門がマリオットの客室の半分を占め、世界的に低価格帯チェーンを大きく上回る業績が継続すると報告をしています。
またテーマパーク業界に於いてもディズニー、ユニバーサルスタジオリゾートでも高収益化の傾向が同様に見られるとしています。
米連邦政府の地区連銀報告(ベージュブック)では、所得階層別で景気が分断されていることが報告され、脆弱かもしれない経済状態に神経をとがらせています。
ビジネスの資本コストをどのように回収するのかという点で、ターゲットを変えることで増収増益が叶う企業は勝ち残り、回収ができない企業は合理化を進めることになる点を憂慮しているとみられます。旧来のビジネスモデルではコストを賄えなくなり、統合・清算・再編という流れになるのか、抗えるのか。この点、前述のデルタ航空は市場全体から利益シェアを大きく獲得することに成功した可能性が高く、株価も上昇基調にあります。ホテル業界の勝ち組、ヒルトンワールドワイド、マリオットも然り。
企業からの報告を整理すると下記の様になりますが、資本コストを回収できる質の高い企業への投資が2026年のカギになると考えています。