祝 NYダウ5万ドル到達と「残酷な選別」の始まり~アマゾンの現金減少、SaaS銘柄の死

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2026年02月10日

祝 NYダウ5万ドル到達と「残酷な選別」の始まり~アマゾンの現金減少、SaaS銘柄の死

マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願いします。
先週末、NYダウ工業株30種平均がついに史上初めて50,000ドルの大台を突破しました。この歴史的なマイルストーンは、単なる株価の上昇というだけでなく、日米両国における政治的な不透明感が払拭されたことへの「祝砲」と言えます。

【今週のコラム要約】


NYダウが5万ドルに到達した週末

日本では衆院選で自民党が歴史的な大勝を収めています。これに対し、米国のスコット・ベッセント財務長官はいち早く祝意を表明していました。FOXニュースのインタビューに応じた同氏は、高市氏率いる自民党の勝利を「米国にとって不可欠なパートナーの安定」として好意的に受け止めています。
ベッセント氏は以前から「強い日本、強いドル、強いアメリカ」を志向してきましたが、今回の日米双方の政権基盤安定を受け、いよいよ両国は本格的な経済政策、「実体経済」を動かすフェーズに入ったと言えるでしょう。しかし、浮かれ気分で市場全体を買えばよいという単純な相場ではありません。水面下では、極めて冷徹な「選別」が始まっています。


10-12月期決算ハイテク決算の明暗

企業の決算発表シーズンですが、ここまでS&P500構成企業のうち約300社が決算を開示し、約80%の企業が予想以上のEPSをアナウンス、70%の企業が売上予想を上回ってきています。注目は時価総額の大きなAI関連企業ハイテク企業でしたが、市場ではAmazonとAlphabetの決定的な差が話題でした。NYダウが最高値を更新する一方で、ハイテク株の決算発表では、投資家による企業の「選別」がかつてないほど厳しく行われています。その象徴となったのが、AmazonとAlphabet(Google)の対照的な評価でした。

今シーズンのハイライトの一つは、Amazonが突きつけた「2,000億ドル」という衝撃的な設備投資額(Capex)見通しでした。市場コンセンサスの1,500億ドルを遥かに超えるこの投資規模に対し、株価は一時急落し、ブルームバーグのヘッドラインには「Lackluster(精彩を欠く)」という言葉が躍りました。なぜなら、投資家は「攻めの姿勢」そのものではなく、その代償として失われた「フリーキャッシュフロー(FCF)」の激減を問題視したからです。
手元のデータによれば、AmazonのFCFは2024年末の382億ドルから、2025年末には112億ドルへと大幅に縮小しています。営業キャッシュフローは増えているにもかかわらず、それを上回るペースで投資が出ていったのです。「AIに巨額を投じるのは良いが、その結果、株主に還元できるキャッシュ(果実)がこれだけ減ってしまうのか?」という失望感が、売りを誘った形です。

対照的に、同じく巨額のAI投資を行うAlphabetは評価を上げました。検索シェアの防衛とクラウド部門の成長によって、その投資が「生存のための必須コスト」であり、かつ収益を守る強固な「城壁(Moat)」であることを証明したからです。彼らのインフラ投資は、AIという外敵から身を守るための強固な要塞として機能しています。足元のGeminiの月間ユーザー数が拡大基調にあることもフォローだったと感じました。
市場は今、「AIという夢に幾ら使うか」ではなく、「使った後に現実に幾ら残るか(FCF)」を冷徹に見極めています。この「稼ぐ力」の格差こそが、ダウ5万ドル時代のパフォーマンスを分かつ決定打になるでしょう。


「SaaSの死」とK字型経済の深化

ハイテク分野での選別は、Capex(設備投資)の多寡だけではありません。「ビジネスモデルの賞味期限」についても、残酷な議論が始まっています。先週、米国の投資家界隈で話題になったのが「SaaS is DEAD(SaaSの死)」という過激な議論です。

これまで企業の生産性を支えてきたのは、CRMやERPといった業務支援ソフトウェア(SaaS)でした。人間が画面に向かって入力し、操作するツールです。しかし、ゴールドマン・サックス(GS)がAnthropicと進めているプロジェクトが、その常識を覆そうとしています。GSは、コンプライアンスや会計業務といったルールベースのタスクを、従来のソフトウェアではなく「AIエージェント」に任せる実験を開始しました。結果は衝撃的で、AIは人間がソフトウェアに入力・操作するプロセスを省略し、直接業務を完遂できることが証明されつつあります。

これは、「人間が使うための道具(従来のSaaS)」の価値が激減し、「自律的に働くAIインフラ」の価値が飛躍的に高まることを意味します。かつて「勝者」であった高PSR(株価売上高倍率)のSaaS銘柄であっても、AIエージェントに代替される機能しか持たないものは、K字経済の「下側」へと転落するリスクがあるのです。ハイテク株の選別物色が強烈に進んでいます。
Forbs誌は【ソフトウェアが機能の追加ではなく「仕事の再定義」になる】【ソフトウェアが消えるということではない、レガシーなソフトウェアの経済性が書き換えられている】【ソフトウェアはデータを入れておくだけの「容器」に。価値があるのは、その中で動く知能の方】と述べた後に、AIにソフトウェアが代替される恐怖についてこう記しています。
【顧客離れが顕在化する頃はワークフローの代替は既に完了している】
銘柄選別の大ヒントです。


再びベッセント財務長官が受けていたインタビューからです。

ベッセント・プランの切り札である「トランプ・アカウント」では、AIインフラ以外に資金はどこへ向かうのか?その答えの一つが、ベッセント長官がFOXインタビューで強調した新制度「トランプ・アカウント(Trump Accounts 2026年7月4日口座開設開始の18歳未満の子供を受益者とする資産形成制度)」であります。

長官は、これが単なる個人の非課税貯蓄口座(Tax free investment)にとどまらず、米国の製造業復活の「原動力(スーパーチャージャー)」になると明言しました。ポイントは以下の3点です。
① 富の民主化:従来の401kなどを超えた、広範な非課税投資手段の提供。
② 製造業への還元:国民の貯蓄が国内企業への投資に回り、それが工場の建設や近代化につながるサイクルの創出。
③ MAGA経済学の完成:「関税で国内産業を守り、トランプ・アカウントで投資資金を供給する」という両輪。

これにより、米国内に物理的な生産拠点を持つ企業や、エネルギー産業への投資は、政策的な追い風を背に「スーパーサイクル」を迎える可能性があると述べています。
この春は予算法案or減税法案(OBBBA)からの税還付が追加で実施されることで、ウォール街の予想では、その規模が3500億ドルまで膨らみ、高額消費に弾みがつくほか、一部はこのような直接投資に向かう資金に振り向けられる観測もあります。春から夏以降にかけては、ニューマネーが断続的に市場に向かうことは想定すべきではないでしょうか。


最後に投資のヒントです。

「夢」から「物理」へAmazonの決算が示したのは、ただ闇雲にAIに投資すれば評価されるフェーズの終わりです。そして「SaaSの死」の議論が示すのは、古いハイテクの終焉です。
ダウ5万ドルの世界で買われるのは、AIエージェントを動かすための「物理的な基盤(データセンター、エネルギー、半導体)」を持つ企業、そしてトランプ・アカウントの恩恵を受ける「米国内の実体経済(製造業)」です。

NVIDIAとOpenAIの関係性を巡っては様々な報道もありますが、AIインフラそのものの不足(物理的な制約)は変わりません。週末、GEベルノバのスコット・ストレイジックCEOがバロンズのインタビューに答えていたのですが、CEOが語るように、電力需要の空前の増加は「疑いの余地がない」現実です。市場は今、劇的なパラダイムシフトの渦中にあります。「物理(フィジカル)」と「政策(ポリシー)」、そして「キャッシュフロー(現金)」に裏打ちされた新しいリーダーを見極める目が、これまで以上に求められている・・・と感じました。


著者プロフィール

大山季之

大山季之

松井証券マーケットアナリスト。1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。


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