iDeCoで得する人、損してしまう人

まずはiDeCoのメリットを理解しよう

誰もが不安に思う老後資金。その老後資金を準備する制度の1つにiDeCo(イデコ)があります。iDeCoには、①掛金(積立金)は全額所得控除の対象となり節税効果が期待できる、②運用益は非課税、③受け取るときは公的年金等控除などを利用できるという3つの税制優遇があります。

確定拠出年金の税制優遇

掛金
  • 個人型の場合は全額所得控除となる
  • 企業型の掛金(企業拠出分)は課税されません。個人で拠出した分(マッチング拠出分)は全額所得控除となる
運用益
  • 運用益は課税されることはありません
  • 何度売買を行っても運用益は非課税
給付 老齢給付金 年金 公的年金等控除が適用(雑所得)
一時金 退職所得控除が適用(退職所得)
障害給付金 年金 課税されません(非課税)
一時金 課税されません(非課税)
死亡一時金 一時金 相続税の課税対象
  • 上記は「企業型」、「個人型」共通項目

メリットの多いiDeCoなので、対象者であれば誰もがその利用を考えるはずです。しかし、誰にでも必ずやってくる老後の準備が目的とはいえ、万人向きとは言い切れない面があるため、制度をきちんと理解することが重要になります。
ここでは主にiDeCoのメリットを受けにくい人を中心に見ていきましょう。

iDeCoのメリットを受けにくい人とは?

運用益は非課税、受け取るときの公的年金等控除の利用は、誰にもメリットとなりえますが、専業主婦や無職で働いていない人は、所得税を払っていないため①の節税効果を享受することはできません。節税効果という観点では、住宅ローンを組んでマイホームを購入し、住宅ローン控除を利用して所得税を納めていない、あるいはほとんど納めていない人も控除が終了するまでは、メリットを受けにくいといえるでしょう。

積み立てたお金は原則として、60歳まで引き出すことができません。引き出しに制限があることが、老後の準備に適していると言えますが、子どもの教育費やマイホームの購入など、60歳未満のライフイベントに積み立てたお金を充てることはできません。ライフイベントのお金の備えが出来ていない場合は、換金性の高い金融商品を利用すべきでしょう。また、貯蓄が少ない人、新入社員や入社2~3年目の勤労者で貯蓄があまり出来ていないようであれば、iDeCoよりも貯蓄を優先すべきでしょう。ある程度の貯蓄が貯まり、また60歳未満のライフイベント資金の準備が相応に進んだ段階で始めるべきなのです。

50代後半の人も要注意です。iDeCoへの拠出(積み立て)は65歳まで。2022年5月からは加入条件が65歳未満に引き上げられましたが、60歳以上の場合、厚生年金加入などの第2号被保険者、または国民年金の任意加入被保険者がその対象になります。拠出期間が短いと60歳から引き出すことはできなくなります。たとえば、拠出期間が5年の場合、引き出しの開始は63歳、3年の場合は64歳です。注意が必要なのは、iDeCoは拠出終了後も毎年口座管理料が必要な点です。年間の収益が少なかった場合、収益を口座管理料で相殺してしまうかもしれません。年金で受け取る場合は「公的年金等控除」、一時金では「退職所得控除」を利用できます。

掛金(積立金)の年間拠出額

個人型 第1号被保険者 自営業者 年間81.6万円
(国民年金基金と合算)
第2号被保険者 会社員(企業年金なし) 年間27.6万円
会社員(確定拠出年金あり) 年間24万円
会社員(確定給付年金あり) 年間24万円
会社員
(確定拠出&確定給付年金あり)
年間24万円
公務員など 年間24万円
第3号被保険者 専業主婦 年間27.6万円
企業型 勤務先に確定給付年金なし 年間66万円
勤務先に厚生年金基金・確定給付年金あり 年間33万円
  • は会社の個人型確定拠出年金の規約変更などの条件がある

節税額早見表(妻・子ども2人)

掛金/
年収
月額5000円
(年6万円)
月額1万円
(年12万円)
月額1万5000円
(年18万円)
月額2万円
(年24万円)
400万円 9000円 1万8000円 2万7000円 3万6000円
500万円 1万2000円 2万4000円 3万6000円 4万8000円
600万円 1万2000円 2万4000円 3万6000円 4万8000円
700万円 1万8000円 3万6000円 5万4000円 7万2000円
800万円 1万8000円 3万6000円 5万4000円 7万2000円
900万円 1万8000円 3万6000円 5万4000円 7万2000円
1000万円 1万8000円 3万6000円 5万4000円 7万2000円
1100万円 1万8000円 3万6000円 5万4000円 7万2000円
  • 社会保険料は14.22%とし、住民税は10%として試算した年間節税額の概算値。子どもは小学生または中学生と高校生

自営業者はiDeCoの前に国民年金基金の検討を

国民年金だけの自営業者の人なども、iDeCoの利用を最優先としない方がよいと考えられます。自営業者の人は勤労者と異なり、終身年金は国民年金(老齢基礎年金)だけの1階建てなので、国民年金基金で終身年金の2階部分を確保するのが先決だと考えられるからです。自営業者の人は国民年金基金や国民年金の付加保険料(付加年金)と合算して毎月68,000円までiDeCoに拠出できます。iDeCoでも定期預金や保険商品の元本確保型商品で積み立てができ、掛金は全額所得控除という点は国民年金基金、iDeCoともに変わりません。しかし、国民年金基金は口座管理料がかからず、運用利率もiDeCoで用意されている元本確保型商品よりも高いことが多いのです。国民年金基金への加入は、まず1口目では終身年金に加入することが義務付けられ、かつ2口目以降も終身年金を選ぶことができます。何口にするのかを選んだうえで、掛金の拠出枠が余っていれば、iDeCoの利用を考えるべきでしょう。

国民年金と国民年金基金あるいは国民年金の付加年金、勤労者が加入する厚生年金も物価上昇(インフレ)に弱い制度です。iDeCoを利用する際は、インフレリスクに備えるため、投資信託での運用を最優先するのがよいと考えられます。

深野 康彦(ふかの やすひこ)氏

執筆者

深野 康彦(ふかの やすひこ)氏

有限会社ファイナンシャルリサーチ代表
ファイナンシャルプランナー

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