「高市トレード」で日経平均5万円突破!? テーマ型を紐解く
「テーマ型投信」の歴史 時に批判される理由は?
個別株における「テーマ株投資」は、世の中の情勢を踏まえて、話題になりそうな銘柄を物色し、値上がり益の獲得を目指す手法のことだ。いわゆる「噂で買って真実で売る」といった短期投資を指すことが多い。「テーマ型投信」はそこまで短期の売買を想定したものではないが、基本的にテーマ株投資の延長で、特定テーマに絞って銘柄を選ぶファンド全般を指す。
国内の主なテーマ型ファンド
| ジャンル | 代表的なファンド | |||
|---|---|---|---|---|
| 運用会社略称 | 設定日 | 純資産総額 (25年9月末時点) |
||
| 環境関連 (エコファンド) |
損保ジャパン・グリーン・オープン | SOMPO | 1999/9/30 | 462億円 |
| IT関連 | netWIN GSテクノロジー株式ファンド Bコース(為替ヘッジなし) | ゴールドマン | 1999/11/29 | 1兆4,095億円 |
| ヘルスケア関連 | グローバル・ヘルスケア&バイオ・ファンド | 三菱UFJ | 2004/2/27 | 2,231億円 |
| ロボット関連 | グローバル・ロボティクス株式ファンド(1年決算型) | アモーヴァ | 2015/8/31 | 4,700億円 |
| AI関連 | グローバルAIファンド | 三井住友DS | 2016/9/9 | 4,850億円 |
| フィンテック関連 | グローバル・フィンテック株式ファンド | アモーヴァ | 2016/12/16 | 1,844億円 |
(出所)QUICKのデータを元に松井証券作成。テーマごとに純資産総額が大きいファンドを抜粋。上から設定日が古い順
その歴史は古い。1990年代後半は環境関連ファンド(エコファンド)が一世を風靡し、2000年代にはゲノムやバイオテクノロジー関連の投信が数多く設定され、2010年以降はAI(人工知能)やフィンテック関連に注目が集まった。テーマ型投信は主要ジャンルの1つとして存在感を示す一方、常に批判が付きまとった。批判される理由は主に以下の4つに集約されるだろう。
- 短期目的である
- テーマを定めることで銘柄選択の余地が狭まり、投資の自由度が低くなる
- 投資対象銘柄のテーマと関係がない事業分野に対する分析が軽視されがち
- テーマへの期待が過度に高まっている時に設定されることが多く、失望による下落を被りやすい
「hype」(=誇大広告)とは?
筆者自身はテーマ型投信を「使い方次第」だと思っている。資産形成における「コア(中核)」ではなく、「サテライト(衛星)」としてテーマ型投信を戦略的に使えばよい。確かに短期目的になりがちな面はあるが、そもそも投信だからといって、常に長期投資でないといけない理由はないだろう。そのように割り切れば、テーマ型投信は有効な投資のパーツになり得る。
おそらく、テーマ型投信に対する批判については、これまでの「売られ方」に大きな原因があるとみられる。例えば、上記の「④テーマへの期待が過度に高まっている時に設定されることが多く、失望による下落を被りやすい」については、テーマ型投信の商品性に対する批判というよりも、そのマーケティングに付きまとう批判とも言える。
あるテーマに対する期待が過剰になっている状況は「hype(ハイプ)」という言葉が使われる。「誇大広告」という意味合いも含む名詞で、米国の大手コンサルティング会社が発表しているテーマのサイクルは非常に有名だ。あるテーマへの期待が過剰になっている時は、普段は投資には見向きもしない人もそのテーマに対する投資に関心を抱きやすい状況といえる。
投信は個人向けの金融商品であるから、運用会社は、あるテーマについて、多くの個人の琴線に触れそうなタイミングでテーマ型投信を立ち上げ、販売会社が力を入れて販売する。少なくともこれまではそういうケースが多かった。しかし、「過剰な期待」は「失望」とも紙一重である。大衆の関心を集めている時は、投資対象が割高になっていることも多いため、購入直後にテーマの「期待」が「失望」に代わり、受益者が「高値掴み」させられることも少なくなかった。
「netWIN」から見えてくるテーマ型のもう一つの姿
1999年11月に設定された「netWIN GSテクノロジー株式ファンド」シリーズ(ゴールドマン・サックス・アセット・マネジメント)は、スタートだけをみれば、その典型例ともいえるかもしれない。設定直後にITバブル崩壊という憂き目に遭ったことで、基準価額は2000年3月27日の1万4621円から、2002年10月10日の2850円まで最大で80%超も下落した。
もっとも同ファンドはその後も運用を続けた結果、パフォーマンスは回復、足元のファンドの規模は1兆5000億円を超え、「超長寿の優良ファンド」といったイメージも持たれている。ITバブルのころ、多くの人は「インターネットが生活の隅々まで浸透し、人々の営みを一変させる」と信じていた。すぐに達成されなかったが、今、我々は当時の人たちが思い描いた未来に生きている。当時の人たちが見誤っていたのは実現のタイミングだけなのだ。
「netWIN GSテクノロジー株式ファンド Bコース(為替ヘッジなし)」の基準価額等推移
(出所)QUICKのデータを元に松井証券作成。期間:1999年11月29日~2025年10月28日 日次
※上記はあくまでも過去の実績であり 将来の動向や運用成果等を示唆・保証するものではありません
「人間が想像できることは、人間が必ず実現できる」というのはフランスのSF作家、ジュール・ヴェルヌの有名な言葉だ。いつかは分からないが、VR・AR(仮想現実・拡張現実)空間の日常化やヒト型ロボットとの共存・協働、空飛ぶタクシーが当たり前の世の中が実現するかもしれない。そんな未来を見据えた投資だと考えると、テーマ型投信は短期目線の商品どころか、究極の長期投資にも思えてくる。「netWIN」の辿った道から、そんなことを思う。
新たな戦場、「宇宙」「サイバー空間」「認知領域」
多少、漠然とした話になってしまったので、ここからは高市新政権の話に戻り、筆者なりに関連する投資テーマを考えていきたい。高市氏を思い浮かべたときに真っ先に浮かんでくるワードは「防衛」だ。高市氏は防衛力強化と防衛費増額を掲げており、このほど来日したトランプ米大統領にも伝えている。もっとも、高市氏はおそらく、もう少し広い意味で「防衛」をとらえているだろう。
「陸」「海」「空」に次ぐ、第4、第5、第6の戦場と言われるのが、「宇宙」「サイバー空間」そして「認知領域」だ。現代の戦争において、宇宙を飛びまわる衛星システムは敵への攻撃や偵察、情報収集において欠かせない存在だ。そもそも宇宙用ロケットと軍事用ミサイルなど、宇宙と防衛は共通の技術が使われてきた歴史もある。サイバー空間は宇宙同様、防衛に欠かせないインフラになっているだけでなく、国や軍事に係る機密情報に対するサイバー攻撃から守る意味でも、率先して強化しなければいけない分野といえる。
「認知領域」を簡単に言えば「人間の脳みその中」である。例えば、「ディープフェイク」と呼ばれる虚偽情報を、SNSなどを通じて拡散し、人々の心を支配するような行為はまさに認知領域への攻撃と言えるだろう。認知領域を支配することで、世論を操作し、あわよくば社会の分断を引き起こすことも可能となる。AI(人工知能)の発達によって、認知領域への攻撃はより巧妙になっており、実効性も強まっている。
主要投資テーマと「新しい戦場」
| 投資テーマ | 投資テーマとの関連度 | 備考 | ||
|---|---|---|---|---|
| 宇宙 | サイバー | 認知領域 | ||
| AI | ○ | ◎ | 「認知領域における戦い」においてAIは欠かせない存在 | |
| 半導体 | ◎ | ◎ | ◎ | すべての領域において高性能半導体は不可欠 |
| 自動運転・EV | ○ | ○ | ○ | 3領域の技術の発展が自動運転の発展に寄与 |
| エンターテインメント・ソフトパワー | ○ | ◎ | ソフトパワーは認知領域における戦いでは重要な役割 | |
| フィンテック・暗号資産 | ○ | ○ | サイバーセキュリティの強化は不可欠 | |
| セキュリティ | ○ | ◎ | ○ | 特にサイバーセキュリティに絡むが、宇宙、認知領域にも関係 |
| ロボット | ○ | ○ | ○ | 人が暮らせない宇宙におけるロボットの役割は大きい |
(出所)筆者作成
現代の防衛はこうした新しい戦場に対する攻撃も視野に入れた「ハイブリッド戦争」を想定しなければならない。そして、新しい戦場は、技術の軍民共用(デュアルユース)や民間技術の積極活用が不可欠な分野と言ってよいだろう。であれば、この3つの新しい戦場に絡む技術や分野が重要な投資テーマになるのではないか。なぜなら、国策の恩恵に与ることで技術力を高め、新しいイノベーションを生み出すことにもつながるためだ。
その点、まとめてみたのが上の表だ。戦場を投資の手がかりにするのは物騒な話ではあるが、インターネットも戦争で使われた技術の応用である。腰を据えて投資できるテーマを探るひとつのアプローチではあるだろう。
高市氏の「指示書」から得られる投資のヒント
高市氏が新しい戦場を意識していることは、組閣に合わせて18人の閣僚に出した「指示書」からもうかがえる。2025年10月23日付の日本経済新聞電子版に掲載された「指示書」全文の中には、「宇宙」や「サイバー」といった文言がちりばめられている。
例えば、林芳正総務相、松本尚デジタル相に対しては、「関係大臣と協力して、高度なサイバー攻撃やサイバープロパガンダ、偽情報等に対応できる技術開発・人材育成を加速する」といった具体的な指示を出している。インターネットやデジタル空間を通じた虚偽情報の拡散を意味する「サイバープロパガンダ」という言葉を敢えて使うあたりからも、高市氏の危機意識の高さが分かる。
認知領域を新たな戦場と捉えた場合、ソフトパワーの存在も無視できない。日本の代表的なソフトパワーは言うまでもなく、アニメ、マンガ、ゲーム、そして、それらに登場するキャラクターだろう。こうしたソフトパワーは日本の価値観を反映したナラティブ(物語)を生み出し、ネガティブなサイバープロパガンダに対抗する武器となる。つまり、ソフトパワーは日本の外交や安全保障において極めて重要な存在といってよい。
長く愛されるキャラクターは日本・米国発祥が多い
| 国境を越えて愛され続けるキャラクター・コンテンツ | |
|---|---|
| 日本 | スーパーマリオ、ドラえもん、ハローキティ―、ポケモン、ゼルダの伝説、キャプテン翼、ワンピース、ガンダム、ドラゴンボール、となりのトトロ(その他ジブリ系キャラクター・コンテンツ)…など |
| 米国 | ミッキーマウス(その他ディズニー・ピクサーキャラクター)、スパイダーマン、スーパーマン、キャプテンアメリカ、スヌーピー、トムとジェリー、バックスバニー、セサミストリート…など |
| その他 | ムーミン(フィンランド)、ミッフィー(オランダ)、ピーターラビット(英国)、タンタン(ベルギー)、星の王子様(フランス)、チェブラーシカ(ロシア)…など |
(出所)筆者作成
実際、「指示書」の中にも、茂木敏充外相、松本洋平文部科学相への指示として、ソフトパワー外交の強化について触れられている。高市氏の指示書の内容は非常に具体的かつ明瞭だ。中長期の投資のヒントを得る意味においても、一読をおすすめしたい。
海老澤 界(えびさわ かい)
松井証券ファンドアナリスト
投資信託を多面的にウォッチし、豊富な投信アワードの企画・選定経験から客観的にトレンドを解説
<略歴>
横浜国立大学経済学部卒業後、日刊工業新聞記者を経て格付投資情報センター(R&I)入社。年金・投信関連ニューズレター記者、日本経済新聞記者(出向)、ファンドアナリストを経て、マネー誌「ダイヤモンドZAi」アナリストを務める。長年、投資信託について運用、販売、マーケティングなど多面的にウォッチ。投信アワードの企画・選定にもかかわる。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。