新NISA対象外…それでも根強い人気の「毎月分配型」

2024年11月1日

新しい少額投資非課税制度(新NISA)がスタートし、10カ月が経った。「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」(オルカン)への巨額の資金流入が話題の中心だが、筆者個人としては、とある2つのトレンドが引っかかる。1つ目は新NISA対象外である毎月分配型の投資信託の人気が依然、根強いこと。2つ目は、新NISAを見据え、昨年、新規設定が相次いだ隔月分配型の投信が全くと言ってよいほど人気がないことだ。

年初来の資金流入額、毎月分配型が3位と4位に

最初に、今年に入ってから9月末までの資金純流入額(購入などによる設定額から解約額を差し引いた額)のランキングを確認しておきたい。トップは「オルカン」の通称で知られる「eMAXIS Slim 全世界株式(オール・カントリー)」、2位は「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」となっている。

この2本に追走するのが「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Dコース毎月決算型(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」と「インベスコ 世界厳選株式オープン<為替ヘッジなし>(毎月決算型)」の毎月分配型2本。当然だが、毎月分配型は新NISAの対象外なので、この2本は新NISA外の課税口座でこれだけの資金を集めたことになる。

新NISAにおける毎月分配型ニーズの受け皿として期待された隔月分配型はどうか。なんと上位100本には全く顔を出さず、「アライアンス・バーンスタイン・米国成長株投信Eコース隔月決算型(為替ヘッジなし)予想分配金提示型」が130位台にようやく顔を出す。資金純流入額を見ても、上位の毎月分配型とは比べ物にならないほど小さい。

1年前は「新NISA開始で毎月分配型は〝お役御免〟」が多数派

筆者は昨年10月6日に公開した第1回目のコラムで、「新NISAをきっかけに毎月分配型から隔月分配型に人気はシフトするかもしれない」と書いた。現時点で予想は外れたということになるが、多くの人にとっても想定外だったのではないか。例えば、10月18日付の日本経済新聞は「毎月分配型投信に4600億円 4~9月、流入超 退職世代に需要」と題し、毎月分配型ニーズの根強さを伝える記事を掲載している。意外感がなければ日経がこのように大きく取り上げることもないだろう。

数か月前だが、以前一緒に働いたことがある人から突然、「新NISAで対象外の毎月分配型が、なぜこんなに売れているのだ?」といった電話がかかってきた。思い出してみると、1年くらい前は新NISAのスタートで「毎月分配型はお払い箱になる」と考える人が多数派だった。「毎月分配型は意外に生き残るのでは」と話していた人も確かにいたが、少数派だった。

新NISA開始前後、毎月分配型は流出超になったが…

件の日経記事には、私の上司である松井証券のシニアマーケットアナリスト、窪田朋一郎のコメントも使われている。新NISA開始前後に対象外になる毎月分配型から、対象商品に対する「乗り換えが発生した」とするものだ。このことはデータでも表れている。下のグラフは毎月分配型投信の毎月の資金流出入動向を示したものだ。確かに新NISA開始前後である2023年11月、12月、2024年1月の3カ月は、解約額が設定額を上回る「資金純流出」になっている。

非課税期間が無期限の新NISAとは異なり、旧NISAの非課税期間は5年間なので、旧NISAの枠内で保有していた毎月分配型を売る動きが出たのは確かだろう。一方で、設定額(購入額)の合計をみると2024年1~9月は約3兆2000億円。旧NISAで毎月分配型を買うことができた2022年、2023年の同期間よりも多い(2022年1~9月は約2兆9000億円、2023年1~9月は約3兆900億円)。

まとめると、新NISAの開始で毎月分配型からの資金流出は確かにあった。旧NISA口座で細々と投資していた人は、毎月分配型から離れていった可能性がある。しかし、全体の傾向として、毎月分配型そのもののニーズが衰えることはなく、課税口座で今でも継続的に買われているというのが実情だと考える。

富裕層にとって新NISAは?

なぜ、毎月分配型の人気は揺るがないのか。断定的なことは言えないが、富裕層の強いニーズに支えられている面が大きいのではないかと筆者は考えている。新NISAの非課税枠は年間360万円。そのうち、120万円がつみたて投資枠なので、一括で口座に入れられる額は240万円だ。仮に保有する金融資産が1億円だったとして、毎年、新NISAに入れられるのは、せいぜいその3%程度に過ぎない。

もちろん、金融資産がどんなに大きくても、非課税口座を優先的に使うべきだが、それなりに腰を据えた資産運用をするとなると、富裕層にとって新NISAは窮屈すぎるので、おのずと課税口座を使わざるを得ない。必然的に、新NISA口座では買うことができない毎月分配型も投資先候補として浮上する。

毎月分配型に対する一番の批判は、言うまでもなく「複利効果が得られない」というものだ。キャッシュとして分配金を受け取ってしまうと、仮にそれを投資に回していた場合に得られる将来の果実を放棄することになる。もっとも、高齢の富裕層は、必ずしも複利効果の追求を最優先する必要はない。むしろ、運用しながら、取り崩してくれる毎月分配型はニーズに適ったありがたい金融商品と映るだろう。

課税口座がメーンの高齢者以外の富裕層の場合はどうか。いろいろな意見があると思うが、筆者個人としては、毎月分配型が合理的な選択だとは思わない。ただ、課税口座であれば、どのみち、キャピタルゲイン(売却益)も課税されるので、例えば、大きな金融資産を築き、リタイアもしくはセミリタイアしたような若年・中年層にとっては、毎月分配型も選択肢の1つだという考え方もあるのかもしれない。いずれにせよ、「まずはNISA枠で資産形成するべきなのに、敢えて課税口座で毎月分配型を購入する」といった行為とは異なる。

なお、松井証券としての毎月分配型の考え方については、こちらを確認してほしい。

毎月分配型投資信託に関する松井証券の考え方 | はじめての投資信託(初心者の方へ) |

全金融資産の2割を富裕層が保有

野村総合研究所の調査では、金融資産から負債を差し引いた「純金融資産」が1億円を超える富裕層世帯は、2021年時点で149万世帯にのぼると推計している[1]。この数値は、安倍政権の経済政策、通称「アベノミクス」が始まった2013年以降、増え続けているという。厚生労働省の国民生活基礎調査(2022年)[2]によると、2022年6月2日時点における全国の世帯総数は5431万世帯。そこから計算すると、全世帯に占める富裕層世帯の割合は3%弱になる。富裕層は思ったよりも身近な存在という印象だ。

なお、野村総研の推計では、2021年時点の富裕層世帯が保有する純金融資産の総額は364兆円。日銀の資金循環統計[3]によれば、家計全体の金融資産はここ数年、2000兆円を超える水準で推移している。野村総研の推計値は負債を差し引いた純金融資産のため、単純比較はできないが、少なく見積もっても、全家計金融資産の20%程度は富裕層世帯が保有しているとはいえそうだ。

毎月分配型が新NISAの非課税枠に収まりきらないくらいの投資額を抱える富裕層に好まれる金融商品になっているのであれば、一定の存在感を示し続けるのは当然のようにも思えてくる。

毎月分配型の規模はここ数年横ばい

このように考えてみると、隔月分配型の人気が高まらない理由もなんとなく分かる気がする。課税口座を中心に取引している富裕層にとって、毎月分配型も隔月分配型も、分配金(普通分配金)や売却益が課税されてしまう点で変わらない。見方を変えれば、商品性にも大差がないといえるのだが、「毎月分配金がもらえる」ことのインパクトは大きく、敢えて隔月分配型が選ばれる状況は考えにくい。

筆者は当初、新NISAを活用するのは資産形成層とは限らないので、毎月分配型の排除は行き過ぎの面があると考えていた。ただ、新NISA開始以降も隔月分配型が選ばれていない状況を考えると、制度利用者の間で「新NISAは資産形成のために活用すべきだ」との認識が強まった可能性もあり、少なくとも政策的には成功だったのだろう。

昨今の高配当株人気をみると、新NISA利用者のインカムゲインを求めるニーズは分配型ファンドではなく、個別の高配当株に向かった可能性もある。ただ、前述のように、投資家の意識が以前とは異なってきたのは間違いないだろう。でなければ、オルカンのような分配金を出さないファンドにあれだけの資金が集まるとは考えにくい。

なお、毎月分配型の純資産総額の割合は足元で2割を切っているが、合計残高はここ数年、20兆円程度の状況が続いている。分配によって純資産を減らす商品設定であるのにも関わらず、一定の規模を保ったままだ。

空前の毎月分配型ブームの後、「分配金はタコ配になることも多い」という認識が広まり、「資産運用の王道は複利効果の追求である」という意識が強まっていった結果、徐々に投資家の毎月分配型離れが進んだ。現在は「目的に応じて定期分配型ファンドを持てばよい」という真っ当な考えを持つ個人投資家が多くなっていると感じる。

<参考サイトおよび補足>

海老澤界

海老澤 界(えびさわ かい)

松井証券ファンドアナリスト
投資信託を多面的にウォッチし、豊富な投信アワードの企画・選定経験から客観的にトレンドを解説

<略歴>
横浜国立大学経済学部卒業後、日刊工業新聞記者を経て格付投資情報センター(R&I)入社。年金・投信関連ニューズレター記者、日本経済新聞記者(出向)、ファンドアナリストを経て、マネー誌「ダイヤモンドZAi」アナリストを務める。長年、投資信託について運用、販売、マーケティングなど多面的にウォッチ。投信アワードの企画・選定にもかかわる。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。

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