「投信」と「女性」がキーワード 新動画「まねかふぇ」の狙いは?

2024年5月10日

YouTube松井証券サブチャンネル「サクッと学べる投資のメディア」でこのほど配信を始めた新番組「まねかふぇ~女神の投資術~」。筆者はファンドアナリストという立場で、側面支援の形で制作に関わった。番組の特徴は、あくまで投資信託にターゲットを絞った番組であるということと、出演者が女性だけという点だ。

対極にある「個別株」と「投信」

今回の動画企画は、投資の経験が全くないような初心者の方でも理解でき、資産運用を始めるきっかけになる情報の提供を目的とした。「何から投資を始めたらよいか」という点で思い浮かぶのが個別株式と投信だ。筆者は常々、両者は対極の金融商品でないかと考えている。例えば、以下の表のような軸が考えられる。

投資を始めようとする人は、将来に対する金銭的な不安を抱え、投資の必要性は感じているものの、自分で銘柄を選定する自信がなく、余計なリスクも取りたくないという人が多いと思う。となると、投資未経験者が最初に手を付けるのに適しているのは投信だろう。少額から始められるのも投資初心者にとっては重要なポイントだ。

余談だが、投信(特にインデックスファンド)は軽自動車、個別株はバイクにたとえることができると思っている。筆者はバイクに乗るが、荷物を多く積めない上、夏は暑く、冬は寒い。事故のリスクも自動車に比べると一般的には高い。それでも乗っている時は気持ちいいし、所有欲も満たされる。一方の軽自動車については趣味としては物足りないが、買い物など日常的な用途だけを考えれば、ほとんどの場合、事足りる(加えて低コストでもある)。多少、単純化しすぎた嫌いはあるものの、投信と個別株はそれだけの距離があると考えている。

女性向け雑誌などでも目にするマネー特集

出演者はお笑いコンビ「たんぽぽ」の川村エミコさん、プロフィギュアスケーターでタレントの村上佳菜子さん、進行役として当社の動画でおなじみのフリーアナウンサー、佐田志歩さん、そして講師役として「お金の専門家」の横川楓さんを加えた4名。全員女性だ。女性だけを視聴者のターゲットに置いたわけではないが、強く意識したのは間違いない。

ヒントになったのは雑誌だ。ファッション誌など女性向けの雑誌などを眺めると、そこまで大きな紙幅は割かれていないものの、お金や資産運用をテーマとしたコーナーを見つけることが多い。筆者も先日、女性誌から資産運用に関する取材を受けた。女性をメーンのターゲットにした投資情報のニーズはそれなりに大きいと感じる。

加えて、これは筆者個人の推測の面が強いが、投資を始めるスタートラインが男女で横一列とは必ずしもいえない面があるのではないかとも思っている。かつての証券会社では、信用取引などにおいて、女性のハードルが高く設定されていたという話を複数の関係者から聞いたことがある。さすがに今の時代にそのようなことはないだろうが、証券業界が顧客としての女性を男性とは区別していた歴史も、一部で確認できるわけだ。投資初心者向けに投信の情報を女性の視点で伝える動画は時代の要請でもあり、これまでの松井証券の動画コンテンツにはないピースともなり得る。そういう考えのもと、企画は進んだ。

簡単なことも難しく伝えてしまうクセ

初心者向けである以上、分かりやすさは重要な要素だ。一方で金融商品は元来、分かりにくいものでもある。重要な情報を正確に伝えつつ、分かりやすさを追求することの大切さは企画にかかわって痛感した点だ。「難しいことをやさしく伝える」ことを目指しているようでできていないケースは多い。金融関連の書籍で「本著は初心者に向けたものです」などと前書きで書いてあっても、筆者にとっても難解な内容のものも多い(筆者の勉強不足かもしれないが…)。言葉は思った以上に伝わっていないと考えるべきだ。そして、よりやさしく伝える余地はあると思った方がよいだろう。自戒の念を込めて強調したい。伝わらなければ意味がないのだから。

「難しいことを難しく」ならまだしも、「簡単なことも難しく」伝えるような悪癖を持っている金融の専門家も多いように感じる。当たり前だが、簡単なことはやさしく伝えればよい。動画の#1で「究極の選択」として、「真面目に働く or 寝て暮らす」という問いが出てくる。拍子抜けしてしまうほどシンプルな問いだが、トマ・ピケティがベストセラー「21世紀の資本」で示した「r>g」(資本収益率(=r)が経済成長率(=g)を上回る)と、メッセージとしては大差がない。

難しい「リスク」という言葉の使い方

やさしく伝えるのは前提ではあるが、誤解を与えないように気を付けないといけない。特に難しいと思ったのが「リスク」というワードの使い方だ。筆者は投信について情報発信する場合、「価格変動リスク」や「標準偏差」以外の意味で「リスク」という言葉をなるべく使わないようにしている。「標準偏差以外はリスクではない」とまで意固地になるつもりはないが、「リスクが小さい」という言葉を使った結果、本当は小さくならない価格変動リスクが小さくなるような誤解を与えてしまうこともあるためだ。

例えば、積み立て投資は「リスクを小さくする」と表現されることも多いが、同じ投資対象に投資している以上、買うタイミングを分散しても価格変動リスクは小さくならない。この点は過去にコラムでも触れているのでよかったら読んでほしい。

【海老澤界の投信コラム】新NISA前に正しく理解したい「積み立て投資」《前編》

【海老澤界の投信コラム】新NISA前に正しく理解したい「積み立て投資」《後編》

今回の動画では当初、アクティブ型とインデックス型について、リスクの大小で説明することも検討されていたが、筆者は違和感を覚えたため意見した。標準偏差の意味でリスクと言うのであれば、それは投資対象次第なので、リスクについて「アクティブ型>インデックス型」と片付けるのは不正確な面がある。「インデックス型はほぼ指数に沿った結果になるので、安心感がある」という意味であれば、安心感の大小の話であり、リスクという表現を使わない方が無難だ。

最終的には「肉食系か草食系か」という表現に置き換わったが、出演者の方々にも好評だったし、良かったと思う。ちなみに「安心感の大小など投資には関係ない」という意見もあるかもしれないが、筆者はそこまでは思わない。安心感は投資を続けるモチベーションになるためだ。ただ、「リスク」という言葉が市井の人々の琴線に触れやすいこともあり、「安心感がある=リスクが小さい」というように、いつの間にか置き換わってしまうことは多々ある。その点、気を付けながら分かりやすく情報発信ができるかは筆者にとっても今後の課題と考えている。

出演者の方が素直に表現してくれる「疑問」

筆者は撮影現場にも立ち会ったが、打ち合わせの段階で「良い動画ができるのではないか」と感じる瞬間があった。出演者の方が素直に口にしてくれる疑問が、世の中の多くの人が抱いていると思わるそれと合致していたためだ。そして、実際に撮影を見ても期待通りだった。分からない時、また、疑問に思っていたことが理解できた瞬間のリアクションが最高だった。芸能人の方にこうした動画に出演していただく効果を思い知った一日だった。企画全般を通じて、松井証券における動画制作チームの人材力を再認識することもできた。

ということで、松井証券の動画を今後もよろしくお願いします。

海老澤界

海老澤 界(えびさわ かい)

松井証券ファンドアナリスト
投資信託を多面的にウォッチし、豊富な投信アワードの企画・選定経験から客観的にトレンドを解説

<略歴>
横浜国立大学経済学部卒業後、日刊工業新聞記者を経て格付投資情報センター(R&I)入社。年金・投信関連ニューズレター記者、日本経済新聞記者(出向)、ファンドアナリストを経て、マネー誌「ダイヤモンドZAi」アナリストを務める。長年、投資信託について運用、販売、マーケティングなど多面的にウォッチ。投信アワードの企画・選定にもかかわる。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。

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