長期投資家は「トランプ関税ショック」にどう向き合うべきか?

2025年4月18日

4月2日に米国のトランプ大統領が発表した相互関税を受け、世界中のマーケットが乱高下を繰り返している。米国では株式・為替・債券のトリプル安が急速に進展。トランプ氏は4月9日、報復措置をとっていない国に対し、追加関税を90日間停止すると発表したが、いまだ不確実性はくすぶり続ける。投資信託などを通じて、長期で資産形成を進める個人投資家は、今回の「関税ショック」にどのように向き合うべきだろうか。

トランプ関税で、日経平均株価は史上3番目の下げ幅に

トランプ関税の発表があった翌週の月曜日である4月7日、日経平均株価は2644円下落した。過去3番目に大きい下落幅となり、2024年8月5日の大暴落に続く「令和のプチ・ブラックマンデー」の様相となった。先進国に限らず、ベトナムやインドネシアなど、新興国の株式相場も大幅な下落が起きた。

トランプ相互関税と国内の単一国株ファンドの状況

相互関税の対象
となった主な国
当初発表した
相互関税率
対象国に投資する国内籍の単一国株式ファンドの状況
(2025年3月末時点)
純資産総額
(億円)
本数 ETFのみの
純資産総額
(億円)
ETFのみの
本数
ベトナム 46%(※) 1,458 15 0 0
タイ 36%(※) 8 1 8 1
中国 34%(⇒145%に) 1,379 49 116 7
インドネシア 32%(※) 159 5 0 0
スイス 31%(※) 300 5 0 0
南アフリカ 30%(※) 0 0 0 0
インド 26%(※) 35,116 57 768 4
韓国 25%(※) 0 0 0 0
日本 24%(※) 968,366 893 799,437 123
マレーシア 24%(※) 8 1 8 1
EU 20%(※) 201 6 86 2
イスラエル 17%(※) 0 0 0 0
フィリピン 17%(※) 21 3 0 0
英国 10% 0 0 0 0
オーストラリア 10% 2,325 18 0 0
ブラジル 10% 339 10 23 1

(出所)ホワイトハウス発表資料、各種報道、QUICKのデータを元に作成。「対象国に投資する国内籍の単一国株式ファンドの状況」について「EU」はドイツ、フランス、イタリア、オランダに投資する単一国株式ファンドの合計。中国は香港株ファンドも含む
(※)4/9に相互関税の上乗せ分の90日間延期を発表

トランプ氏の相互関税において、もっとも打撃を受けるのが実は米国経済であるとの試算も多い。個別の企業をみても、スポーツ用品大手のナイキは、当初、46%という非常に大きな税率を課されたベトナムで、履物の50%、衣服の28%を製造している(2024年の同社アニュアルレポートより)。同社の株価は、相互関税の発表とその後の猶予の発表を受けて乱高下している。

そういう意味では、今回の騒動に関しては、勝者があまり見当たらない。例えば、米中の関税の応酬はゲーム理論でいう「囚人のジレンマ」そのものだ。関税ありきのもと、新しい国際経済の秩序が構築されていく未来もあるのかもしれないが、移行には非常に長い時間を要するだろう。トランプ氏が現在の関税政策をいずれ大幅に修正してくるとみる向きも多いが、現時点では楽観論の域を出ない。世界経済はこれまで経験したことがないような先が読めない状況が続いている。

資産運用のリスク=不確実性

映画『バック・トゥ・ザ・フューチャー』シリーズに登場する悪役、ビフは、当時実業家として名を馳せていたトランプ氏をモデルにしているとされる。『バック・トゥ・ザ・フューチャーPART2』では、若き日のビフが、デロリアン(タイムマシン)に乗って未来から来た老人ビフから、スポーツ年鑑を手渡され、スポーツ賭博で大儲けし、大富豪になる話が描かれる。

もしかして、トランプ氏は相互関税によってもたらされる米国の輝かしい未来を知っていたから、大きな賭けに出られたのだろうか。いや、そんなことはないはず。未来を知ることはファンタジーの王道ではあるが、現実世界では、あり得ないためだ。

今回の「関税ショック」で筆者が痛感したのが、「資産運用のリスクは不確実性」であるという、ごく当たり前のことだ。トランプ氏が荒唐無稽とも思われる関税政策を実行しようとし(それも税率の算出の根拠となった式が誤っていた可能性も一部で指摘されている)、世界中をここまで混乱に陥れると、どのくらいの人が予測できただろうか。

投資の「リスク」はリターンの振れ幅を指す

資産運用において、リスクを数値化する際、使われる指標は価格変動のぶれを示す標準偏差だ。将来は分からない(不確実である)から期待より上にも下にもぶれ得る。「どれだけぶれるか」という不確実性の大小に使われるのが標準偏差であり、投資におけるリスクの尺度になるわけだ。

【関連リンク】知って得する! 投資における「リスク」の話

「これからこうなりそうだ」といった情報を提供するのはアナリストの仕事だ。投資家にとっても、明らかに誤った方向の選択肢を排除するために情報収集は重要といえよう。とはいえ、本当の未来は誰にも分からない。どんなに情報を集めたとしても「何かに賭ける」という投資スタンスを取ってしまえば、不確実性というリスクに対する対処にならないのだ。もちろん、将来を予測し、それが的中することは投資の醍醐味でもある。そのような投資スタンスを堅持するのも自由だが、「長期の資産形成」の定石とはいえないだろう。

本当に長期目線でリスクに向き合っていたか

将来の不確実性に対応できるのは、詰まるところ、投資対象の「分散」しかない。過去のコラムでも解説しているが、異なる値動きの投資対象に分散投資することで、期待リターンと価格変動リスクの関係を改善できる。確かに、株式や債券との資産分散ではなく株式だけの投資、株式でも、世界の国や地域への分散でなく米国株だけの投資、という具合に投資対象を絞っていけば、期待リターンは高まる。しかし、同時にリスクも大きくなり、リスク1単位当たりのリターン、つまり「効率性」は劣っていくのがセオリーだ。

【関連リンク】やっぱりポートフォリオ分散が大事なワケ

「日本の個人投資家は逆張り志向が強い」とよく言われるが、投信を長年、眺めてきた立場からすると、実感とは異なる。米国株が好調なら米国株投信、インド株が上昇していればインド株投信といった具合に、足元で好調なマーケットに関連するファンドが人気を集めることが多いためだ。短期のリターンにばかり目が言って、長期を見据えたリスク分散についての意識が疎かになっていなかっただろうか。長期の資産形成を目指す個人の方は、適切な分散をしていたか、この機会に立ち止まって考えてみると良いだろう。

必要なのは、不確実性に備える「分散」と少しの「勇気」

さて、今回のマーケットの混乱で、投資家の不安心理の大きさを示すVIX指数、別名「恐怖指数」は4月8日に終値で50を超えた。平常時は10~20で推移することを考えれば、どれだけの異常事態か想像できるのではないか。過去、終値で50を超えたのは、2008年後半から2009年初めのリーマンショック時と、2020年3月から4月にかけてのコロナショック時の2度だけだ。いずれも、VIX指数はピーク時に80を突破している。

VIX指数の推移(2008年以降)

しかし、80を超えた「恐怖のピーク時」をスタートとすると、その後5年間でS&P500はいずれも130%超(2.3倍超)、値上がりしている。無論、これは過去の実績に過ぎず、将来に当てはめることはできない。しかし、「強気相場は悲観の中で生まれる」というのは相場の有名な格言でもある。人間が豊かさを求めて生活し、企業が創意工夫でそれに応え続ける限り、経済が生み出す付加価値の総和は増え続ける。トランプ氏の相互関税は確かに、実体経済に影響を与え得るが、それでも、本当に必要とされる企業は残り、利益成長を続けるだろう。

【関連リンク】恐怖指数(VIX指数)とは?数値からわかることや市場における代表的な恐怖指数

VIX指数が80を超えてピークを付けた後のS&P500の値動き

なお、多くの人はリスクと聞くと「危険」といったイメージを思い浮かべるのではないか。しかし、「リスク」という言葉の由来とされる、イタリア語の「risicare」には「勇気を持って試みる」といった意味がある[1]。適切なリスクをとる(無駄なリスクをとらない)ことは資産形成において非常に重要だ。そのためには、今一度、自分にふさわしい分散を考えるべきだろう。ただ、恐怖に立ち向かうほんの少しの勇気も長期投資には必要ということを付け加えたい。

<参考文献>

  • [1]ピーター・バーンスタイン著、青山護訳『リスク・上 神々への反逆』(日本経済新聞出版社、2001年)27頁を参照
海老澤界

海老澤 界(えびさわ かい)

松井証券ファンドアナリスト
投資信託を多面的にウォッチし、豊富な投信アワードの企画・選定経験から客観的にトレンドを解説

<略歴>
横浜国立大学経済学部卒業後、日刊工業新聞記者を経て格付投資情報センター(R&I)入社。年金・投信関連ニューズレター記者、日本経済新聞記者(出向)、ファンドアナリストを経て、マネー誌「ダイヤモンドZAi」アナリストを務める。長年、投資信託について運用、販売、マーケティングなど多面的にウォッチ。投信アワードの企画・選定にもかかわる。日本証券アナリスト協会認定アナリスト。

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