移動平均線とは?種類や基本的な見方、取引での使い方をわかりやすく解説
株式投資やFXなどの投資で利益をあげるためには、過去の値動きから将来の価格を予測する「チャート分析」が重要といわれています。そして、チャートを分析するためのツールとして有効なのが「移動平均線」です。しかし、移動平均線が示す意味や、取引にどのように役立つのか、取引の経験が少ない方はイメージするのが難しいこともあるでしょう。
本記事では、移動平均線の定義や実際の取引における使い方、活用するときの注意点を解説します。多くのトレーダーが利用する移動平均線についての理解を深め、取引に活用していきましょう。
FXにおける移動平均線とは?

FXや株式などの金融商品の値段は1日の中でも頻繁に変動しているため、過去の値動きを表す「チャート」は多くの場合ジグザグになります。移動平均線はチャートの変動をならし、相場の方向性を見極めるためのテクニカル指標です。相場の方向性は「トレンド」とも呼ばれ、移動平均線を使うと、トレンドの強さやトレンドが開始または終了するタイミングを把握しやすくなります。
※テクニカル指標とは、チャートの形状から将来の値動きを予測する「テクニカル分析」で用いられる指標のことです。
移動平均線は、1日の最後の価格である「終値」を用いて、一定期間ごとの終値の平均値を算出しつなぎ合わせたものです。例えば、算出する期間を5日にした場合は、直近5日間の終値を合計し5で割った値をとります。4月5日の値であれば4月1日から4月5日の5日間、4月6日の値であれば4月2日から4月6日の5日間といった形で、1日ずつずらして平均値を算出し、それを結んだ線が移動平均線です。
平均を算出する期間を5日とした場合は5日移動平均線と呼ばれ、短期・中期・長期の移動平均線として、それぞれ5日・25日・75日移動平均線が使われるケースが一般的です。
移動平均線は開発されてから100年ほど経っており、数あるテクニカル分析の中でもポピュラーな指標となっています。
FXの移動平均線の見方と使い方
移動平均線にはさまざまな種類があり、よく使われるのは以下の2種類です。


単純移動平均線(SMA)
「単純移動平均線(SMA)」は、一定期間を対象として終値の平均値をつなぎ合わせたものです。過去の価格を均等に平均するため、相場の急激な動きには反応しづらい特徴があります。特に長期の移動平均線は平均化に用いる価格が多いため、直近の値動きによる影響は限定的になります。こうしたことから、大きなトレンドを把握するのに有効な指標です。
指数平滑移動平均線(EMA)
最近の価格に比重を置き、終値の平均値を決定するのが「指数平滑移動平均線(EMA)」です。相場の変化に素早く反応し、トレンドの転換を早めに確認できるのがメリットです。単純移動平均線(SMA)のデメリットをカバーでき、バランスが取れたテクニカル指標といえます。
しかし、反応が早いぶん「ダマシ」が発生するリスクも高くなっているのがデメリットといえるでしょう。「ダマシ」とは、買いのサインや売りのサインが出ているにもかかわらず、実際の値動きはサインとは反対の動きをすることを指します。
移動平均線の基本的な見方
移動平均線が上向きのときは、基本的に上昇トレンドです。下向きなら下降トレンドと判断されます。明確な方向感がなければ、もみあい相場と判断できるでしょう。
また、移動平均線の位置や角度によっても相場を分析できます。下の図のように移動平均線よりも価格が上にある状態が継続している場合には上昇トレンドです。下にあれば下降トレンドと判断できます。

上昇・下降どちらのトレンドを示している場合でも、移動平均線の角度が急であるほど勢いが強く、トレンドが継続する可能性が高くなります。ただし、値動きが急である分、反転するケースもあるため、注意を要します。
また、移動平均線と価格変動が横ばいに推移している場合は、レンジ相場と判断することができます。
【関連リンク】レンジ相場とは?FX取引への活用法やほかの値動き相場との見分け方移動平均線を使った取引方法
移動平均線を読み解くことで、実際に売買するポイントを判断できるケースがあります。
例えば、価格は移動平均線に近づく傾向があります。移動平均線と価格がある程度乖離したときには、価格は移動平均線に近づこうとすると捉えて、売りまたは買いのタイミングのヒントにすると良いでしょう。
また、2本の移動平均線を使った分析手法があります。短期の移動平均線が長期の移動平均線を下から上へ突き抜ける状態となった場合は「ゴールデンクロス」とよばれ、上昇トレンドに転換する示唆として、買いのタイミングと判断する投資が活発になります。
【関連リンク】ゴールデンクロスとは?一般的な組み合わせや活用する際の注意点反対に、短期の移動平均線が長期の移動平均線を上から下に突き抜ける現象は「デッドクロス」です。下降トレンドに入ることを示しており、売りのタイミングと判断する傾向が強まります。
これらの指標を用いた分析は、100%確実といえない点には注意が必要です。ゴールデンクロスやデッドクロスが発生するのを見込んで注文が集まり、理論通りの値動きをしない「ダマシ」が発生する可能性があります。

価格と移動平均線の位置関係をもとに具体的な売買のシグナルを導き出す理論としては、グランビルの法則が有名です。米国のチャート分析家のJ.E.グランビルにより編み出され、FXだけではなく株式投資にも用いられています。
ただし、グランビルの時代はインターネット環境やAI売買ソフトなどのツールもなかったため、理論通りに動くわけではありませんが、FXで取引するうえでの基礎知識として覚えておいても損はないでしょう。
買いのサイン、売りのサインとされるケースとして、以下のようなものがあります。
買いのサイン
買い意欲が強いことを示す | 移動平均線が長期間下落または横ばいで推移した後、上向きに転じたときに価格が移動平均線を下から上に突き抜けた場合 |
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利確が入った後、買い意欲が継続されることを示す | 移動平均線が上向きかつ価格が移動平均線を上回っているときに、一旦価格が下落し移動平均線を下回るも、再度上昇し移動平均線を下から上に突き抜けた場合 |
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一端、利益確定の売りで下落したものの、買い意欲が強い状況を示す | 移動平均線が上向きかつ価格が移動平均線を上回っているときに、一旦価格が移動平均線の手前まで下落するも移動平均線を下抜けることなく再度上昇した場合 |
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売り方の利確(買戻し)や新規買いの動機刺激を示す | 価格が移動平均線の下に大きく乖離した場合 |
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売りのサイン
売り意欲が強いことを示す | 移動平均線が長期間上昇または横ばいで推移した後、下向きに転じたときに価格が移動平均線を上から下に抜けた場合 |
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上げ転換を疑う動きを誘ったり、売りそびれた投資家がやれやれの売りを出したりする可能性を示す | 移動平均線が下向きかつ価格が移動平均線を下回っているときに、一旦価格が大きく下落するも再度上昇し移動平均線を上抜けした場合 |
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買い意欲の失速を示す | 移動平均線が下向きかつ価格が移動平均線を下回っているときに、一旦価格が上昇するも移動平均線の手前で止まり再度下落した場合 |
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利確実行で反落の可能性を示す | 価格が移動平均線の上に大きく乖離した場合 |
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グランビルの法則についてはこちらのページや動画で詳しく解説しています。
【関連リンク】グランビルの法則とは?8つの売買サインや活用する際の注意点
【解説動画】マネーサテライト「移動平均線を活用する!グランビルの法則とは」
移動平均線を活用するときの注意点
移動平均線はテクニカル分析をする上で有用なツールですが、万能ではありません。その特性を理解して使用することで、より精度の高い分析ができるでしょう。
期間の設定によって分析結果が異なる
移動平均線は、期間の設定によって分析結果が大きく異なります。取引スタイルに合わせて、適切な期間の移動平均線を活用しましょう。
短期の移動平均線(5日〜20日など)は、直近の価格変動に敏感に反応するため、短期的なトレンドや細かな値動きを捉えるのに適しています。そのため、デイトレードやスキャルピングといった短期間での売買を行うトレーダーが主に活用します。
一方、中期(50日〜75日)や長期(100日〜200日)の移動平均線は、日々の細かい値動きに左右されにくく、より長期的なトレンドを把握するのに役立ちます。これらの移動平均線は、スイングトレードなどの比較的長い期間でポジションを保有する際に活用されることが多くなっています。
また、移動平均線の期間設定を選ぶ際は、一般的によく使われる期間を意識するのもおすすめです。多くのトレーダーが同じ期間の移動平均線を見ているため、相場の心理が反映されやすく、その分、機能しやすい傾向があるからです。
レンジ相場では有効性が低下する
移動平均線は、主にトレンドがある相場において有効に機能しやすいツールです。
一方、価格が一定の範囲内で上下を繰り返すレンジ相場では移動平均線も横ばいになり、短期と長期の移動平均線が頻繁に交差します。このため、ゴールデンクロスやデッドクロスといった売買シグナルが頻繁に発生し、「ダマシ」が多くなる傾向があります。
レンジ相場を識別するためには、移動平均線だけでなく、ボリンジャーバンドやADXなどのほかのテクニカル指標を併用することが有効です。ボリンジャーバンドは、価格の変動範囲を示す指標であり、バンドの幅が狭い場合はレンジ相場、広い場合はトレンド相場と判断できます。ADXはトレンドの強さを示す指標で、ADXの数値が低い場合はトレンドがない、つまりレンジ相場である可能性が高いと判断できます。
【関連リンク】ゴールデンクロスとは?一般的な組み合わせや活用する際の注意点 【関連リンク】ボリンジャーバンドとは?見方や活用方法を紹介ほかのテクニカル指標と組み合わせて使う
移動平均線は単体でも有用なツールですが、ほかのテクニカル指標と組み合わせることで、分析の精度を高められます。
例えばボリンジャーバンドやRCIとの組み合わせにより、エントリーポイントを探る方法もあります。例えば、移動平均線とRCIの両方で上昇トレンド発生のサインが出ている場合は、買いでエントリーをすると利益を狙いやすくなります。
また、RSIやMACDといったオシレーター系指標(相場の過熱感を測る指標)と併用することで、相場の転換点を把握しやすくなります。例えば、移動平均線が買いサインを示していても、RSIが買われすぎの領域にある場合は、一旦様子を見るという判断もできます。
【関連リンク】テクニカル分析とは?代表的な6つの分析指標と注意点 【関連リンク】MACD(マックディー)とは?使い方や活用時の注意点 【関連リンク】RCIとは?仕組みや特徴、計算方法やトレード手法と注意点移動平均線を理解して精度の高いチャート分析をしよう
移動平均線は、FXや株式投資において多くのトレーダーが活用しているテクニカル指標です。トレンドだけではなく、買いや売りのサインも読み取れることがあるため、理解すればより効率的な取引ができるでしょう。
ただし、移動平均線は期間設定によって分析結果が大きく異なります。また、レンジ相場ではダマシが多くなることもあるため、取引に慣れてきたあとはボリンジャーバンドやRSIなどほかのテクニカル指標も参考にしながら実際のトレードに取り入れてみましょう。
<監修者>
木村佳子
<プロフィール>
一級FP技能士(国家資格)。NPO法人 日本FP協会上級資格CFP。IFTA国際テクニカルアナリスト連盟最上位資格MFTA®の日本で最初の女性取得者。早稲田大学大学院ファイナンス研究科専門職MBAファイナンス修士。日本ベンチャー学会。日本IR学会。生活経済学会。消費者行動学会正会員。YouTube 「木村佳子チャンネル」で資産運用情報を発信中。