FXの両建てとは?メリットやデメリット・リスクをわかりやすく解説

2022/5/13

FXの取引経験がない方には、「両建て」とはどのような状況を指すのか、また「両建て」をする意味やメリットがよくわからないと感じる人は多いでしょう。

両建てはFXにおけるトレード手法の一つです。両建ては、大きな損失を避けるために有効な方法である一方、場合によっては取引コストの負担が大きくなるリスクもあります。

本記事ではFXの両建てについての基礎知識や、実際に取引で利用する場合のメリット・デメリットを解説します。

そもそもFXとは?という方はこちらをご覧ください

FXの両建てとは?

これからFXを始めようと考えている方にとって「両建て」という言葉はイメージを持ちづらいでしょう。ここではFXで両建ての具体的な取引手法や取引の目的について説明します。

両建てとは同一通貨ペアの売りポジションと買いポジションを同時に保有すること

通貨を買っている、もしくは売っている状態を「ポジション(建玉)」と呼びます。FXでは「売り」または「買い」どちらか一方のポジションを持ち、価格差による利益を狙うのが一般的です。しかし両建てでは、同一通貨ペアの「売り」と「買い」両方のポジションを保有します。

たとえば以下の条件下で、どのような違いがあるのか見てみましょう。

  • 米ドル/円の通貨ペア
  • 1米ドル=100円のときに1ドル分のポジションを建てる
  • 1米ドル=101円まで価格が変動したときに決済する
    (※スプレッド等の諸経費を考慮しない場合)

買いか売りのどちらか一方しかポジションがない場合は、以下のような結果になります。

  • 買いポジションのみ持っているときは1円の利益
  • 売りポジションのみ持っているときは1円の損失
FXチャートとスマホ

一方、買いと売りの両方のポジションを持った場合は「売り」の損失1円を「買い」の利益1円で相殺するため、プラスマイナス0となります。

つまり、以下に示すように「買い」か「売り」のどちらかを選択した場合に生じる損失のリスクを和らげるのが、両建ての目的です。

相場が上昇 相場が下落
買いポジションのみ 利益発生 損失発生
売りポジションのみ 損失発生 利益発生
両建て 売りの損失を買いの利益でカバー 買いの損失を売りの利益でカバー

両建てでは、買いと売りのどちらかを決済するまで、価格変動の影響を受けない状態が続くともいえます。そのためポジションを持ったままの状態から、タイミングを見て先に「買い」「売り」どちらかのポジションを決済し、利益がでているポジションを残すといった取引が可能です。

ただしスプレッドや通貨ごとの金利差スワップポイントの負担などのデメリットがある点には注意が必要です。そもそもFXは価格が上がるか下がるか、価格変動を予測して利益を狙う取引です。リスクヘッジ自体が経済的な合理性を欠く可能性があります。

FXの両建てのメリットとデメリット・リスク

両建てはどのような場面で使うとよいのでしょうか。理解を深めるために、メリットだけでなくデメリットやリスクについても把握しておきましょう。

メリットとデメリットの天秤に乗っている男性

FXの両建てのメリット

一時的な損失拡大を防げるのが両建ての主なメリットの一つです。FXでは、一時的に高値や安値を更新したあと、元の価格帯まで相場が戻るケースがあります。相場が急激に動きそうだが、現在保有しているポジションをすぐに決済したくないというときに両建ては有効です。

具体例を見てみましょう。1米ドル=110円のときに1万米ドル分の買いポジションを持ったとします。その後1米ドル=105円になると、含み損(実現していない一時的な損失)は(110円-105円)×1万米ドル=5万円です。このまま同じ方向に価格が推移し1米ドル=100円となった場合には、さらに(105円-100円)×1万米ドル=5万円の損失が発生し、含み損の合計は10万円になります。

しかし1米ドル=105円になったタイミングで新たに1万米ドル分の売りポジションを持ち、1米ドル=100円となった場合には、(105円-100円)×1万米ドル=5万円の含み益が得られます。含み損10万円と5万円の含み益を相殺し、合計では含み損が5万円です。つまり、適切なタイミングで両建てをしたことにより、含み損が軽減されることになります。

含み損が大きくなるとロスカットが発生する可能性が高まり、ロスカットが発生するとポジションを持ち続けて相場状況が回復するのを待つことはできなくなりますが、含み損を小さくできればロスカットの可能性を低くし、相場が回復したあとに決済をして利益を狙うことも可能です。

また、両建てで複数のポジションを保有する場合、取引金額の多いポジションのみの証拠金(口座に預け入れたお金)で取引ができることもメリットです。たとえば買いのポジションで10万円、売りのポジションで1万円の証拠金が必要な場合には、10万円あれば取引できます。FX会社によっては両方のポジション分で証拠金が必要となるケースもあるため、よく確認しておきましょう。松井証券では両建てをした場合、通貨ペア毎に取引金額の多いポジションの証拠金のみで取引ができます。

  • ロスカットとは
    証拠金がFX会社の定める証拠金維持率を下回ったときに、保有するすべてのポジションが決済されることを指します。
複数通貨とFXチャートを確認している図

FXの両建てのデメリット・リスク

両建てのメリットばかりではなくデメリットにも目を向けておきましょう。

両建てをした場合、スプレッドは双方のポジション分発生します。流動性が低下しやすい早朝の時間帯や、重要指標の発表などにより相場が急変動するタイミングではスプレッドが広がるケースもあります。売買のタイミングによっては、スプレッドの取引コストが増加し、利益を出しにくくなることがあるでしょう。

また買いポジションと売りポジションのどちらを取るかによって、スワップポイントは異なります。どちらかのポジションのみ保有していればスワップポイントを受け取れる通貨ペアでも、両建てにより相殺されて逆にスワップポイントを支払わなければならないケースも出てくるでしょう。

【関連ページ】松井証券 FX スワップポイント履歴

さらに注意したいのは、両建ては「塩漬け」になりやすいことです。一般的に塩漬けとは、含み損を抱えたポジションを長期保有することを指します。

両建てによりリスクヘッジをしているという安心感から、ポジションを決済せずに長期間保有してしまう場合もあるでしょう。両建てのままポジションを長く持ち続けると、相場の急変やスワップポイントの支払いが続くことにより、ロスカットを招く可能性があります。

そもそも、両建てを有効に機能させるためには「売り」と「買い」両方のポジションを適切なタイミングで決済しなければなりません。つまり、それなりの相場観が求められることになります。良い相場観を持って両建てを行い、更にその両建てしたポジションをそれぞれ良いタイミングで決済をするというのは簡単なことではありません。

両建ては必勝法ではなく積極的には利用しないほうが無難

両建ては、FXで利益を出すための数多くある手法のうちの一つです。相場変動に対するリスクヘッジができ、状況によっては利益も狙えます。うまく活用できたときのメリットは大きく、一見失敗しにくそうな取引方法です。

実際は、スワップポイントやスプレッドなどの取引コストを加味すると損失につながる可能性もあります。両建てを使う適切なタイミングを推測するのは難しく、初心者の場合は損失を広げてしまうこともあるため、積極的にはおすすめできません。

ただし、両建てを、一時的に損失を回避するトレード戦略の一つとして知っておくことは重要です。実際の取引での利用については、慎重に検討しましょう。

<監修者>

川口一晃

<プロフィール>

1986 年銀行系証券会社に入社。銀行系投資顧問(現・三菱UFJ国際投信)や三洋投信で11年間ファンドマネージャーを務める。2004年10月に独立してオフィスKAZ 代表取締役に就任。テレビ番組やラジオなどメディア出演は多数。現在、FMナック5「お金の世界の歩き方」でパーソナリティを務める。「SMAP×SMAP」では木村拓哉氏とも対談。著書も多数。また、テレビ朝日のドラマ「アイムホーム」をはじめ、フジテレビの月9のドラマの監修も担当。行動経済学学会会員。

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