「マーケットアナリスト大山季之が米国株を解説!セクターから考える米国株投資「エネルギー編」 」

公開日:2022/6/8

インフレヘッジとなるか「エネルギーセクター」

エネルギーセクターは、石油・ガスに関連する企業で構成されているため、業績が原油価格やガス価格、景気に左右されやすい特徴があります。後述する個別企業は世界のスーパーメジャー企業も含まれており、インフレヘッジができる投資妙味があります。

いま私たちは3つのリスクと向き合っています。①金利上昇、②景気後退、③インフレです。
最近は上記に加えて「Uncertain 不確実性」というリスクとも向き合っているように感じます。
(5月FOMC声明文※では the U.S. economy are highly uncertain としています)
今のマーケットを整理すると、コロナからの経済再開 「REOPEN」 で需要が爆発、しかし供給が追いつかず物価が上昇しています。
そこに今年2月24日、ロシアのウクライナ侵攻が始まり、需要爆発・物価上昇に地政学リスク・経済安全保障問題が複雑に絡み、資源価格が高騰しました。
その翌月、3月にアメリカの中央銀行FRBが金融政策の正常化に伴って政策金利を引き上げました(金利を引き上げ始めました)。

一連の物価・金利のさらなる上昇リスクを考えますと、今回ご紹介するエネルギーセクターと、素材セクター、不動産REITの3つのセクターは、コスト上昇分を顧客に転嫁することができるという点でインフレヘッジの対象になると考えています。

ここで、環境問題に関して少しお話しします。現在世界的に再生可能エネルギー、脱炭素への転換がトレンドです。2050年カーボンニュートラルの実現、「世界全体で化石燃料に対する依存度を下げる」という長期目標は正しいと考えていますが、そのための直線的なアプローチのために弊害が出ているのです。長期で考えれば化石燃料は座礁資産になる可能性が高く、将来減価することが分かっているので供給量を増やすための投資を「積極的にしたくない」のです。でも足元は需要が膨らんでいる。つまり、供給が需要に見合っていないので「需給のミスマッチ」が起きています。
この結果、アジアを含めた天然ガスの奪い合いが起き、液化天然ガスの設備も足りなくなるのです。

原油に関しては石油産出国が生産をとりやめていくと、OPECやロシアなどのごく一部の国が生産を独占するようになり、石油の生産量は減っても値段が高止まりします。実際、ヨーロッパ向けの天然ガス供給の元栓に手をかけ、いつでも暴利を得ることができる資源大国だってある。
つまり、原油価格は世界経済の活動再開・需要増加のニュースだけではなく、資源国家間の思惑も絡むので、複雑な動きをしています。

これまでエネルギーセクターは長らくS&P500株価指数のリターンを下回っていましたが、原油価格上昇でパフォーマンスが良くなってきました。個別企業が保有する資源権益と資源価格上昇、業績に与えるマグニチュードを考えると、日本株単独でインフレヘッジは難しいと考えています。日本株にも商社株、鉱業セクター(INPEXなど)がありますが、資源価格上昇が業績に与えるインパクトは米国のエネルギーセクターが突出して大きいです。この認識が投資妙味と考えています。

今回、エネルギーセクターの構成ウェイトが高い企業のうち、エクソン・モービル、シェブロン、シュルンベルジェの3銘柄をご紹介します。

エクソン・モービル(XOM)

世界各地で石油および石油化学事業を展開し、石油・ガスの探鉱・生産、発電、石炭・鉱物事業を展開する企業です。燃料、潤滑油、化学品の製造、販売も手掛ける世界的石油・石油化学会社です。
S&P500配当貴族指数に組み込まれている銘柄です。

資源価格が上昇して株価が上がったとはいえ、バリュエーションが低いので、ESGを重視する投資家 環境アクティビストから再三要求を突きつけられていて、投資家との関係は非常に緊張していると思われます。株主総会を経て、複数名の取締役が送り込まれ、業績好調にもかかわらず、CEO解任要求が出されたりしています。
1-3月期 第1四半期の決算はロシア・サハリン1からの撤退費用計上があったものの、撤退コストを除いて最終利益は88.7億ドル。前年同期を27.5億上回りました。
既報の100億ドル自社株買いプログラムを開始し、当四半期に合計21億ドルの自社株を買い戻しました。今後このプログラムを拡大し、2023年まで総額300億ドルの自社株買いを行なう予定です。

シェブロン(CVX)

石油、天然ガスの探査、開発および生産関連するパイプライン、輸送および加工事業、原油、石油および石油化学製品の供給、取引、精製、販売および輸送を行う米国石油大手。
増配記録は35年連続、エクソン・モービル同様にS&P500配当貴族指数にも組み込まれている銘柄です。
昨年は石油価格上昇に利益が出たので14億ドル分の自社株買いを行い、今年の3月には、自社株買いは毎年50億-100億ドル実施するとし、従来の30億-50億ドルから引き上げています。
ここまで株主還元に熱心なのは、シェブロンも永年割安株に放置されていたのでアクティビストの標的になったからだと考えています。
エクソンが敗北したことをうけて、物言う株主 アクティビストからの挑戦を受ける可能性を念頭に、防衛策の準備を進めているという話もある企業です。
シェブロンも昨年の株主総会ではESGファンドが株主提案を提出しています。
1-3月期決算も石油価格高騰を背景に売り上げは市場コンセンサスを上回りました。

シュルンベルジェ(SLB)

精密機器およびその技術を通して、石油・ガス産業において油層キャラクタリゼーション、掘削、生産を行う企業に対し、技術やプロジェクト管理、情報サービスを提供する国際的な油田開発会社。
石油・ガス業界向けにさまざまな製品・サービスを提供する世界最大級の石油サービス企業です。

昨年の第4四半期に続き、2022年第1四半期決算も増収増益、コモディティ価格に上昇やエネルギー需要の拡大が追い風。最大部門の建設部門が売り上げをけん引しました。
EPS市場予測0.33ドルを上回る前年比71%増0.36ドル、四半期配当を40%引き上げて1株 0.175ドルとアナウンスしています。

2022年5月9日時点で、松井証券で取引可能な銘柄のうち、業種※が「エネルギー」の銘柄を3銘柄ピックアップ
>※GICS®(世界産業分類基準)で分類される業種

動画でも詳しく解説!

金利上昇下で注目のインフレヘッジ「エネルギー」セクター|セクター解説編<米国株FOCUS5>
金利上昇下で注目のインフレヘッジ「エネルギー」セクター|個別銘柄解説編<米国株FOCUS5>

松井証券マーケットアナリスト 大山 季之

1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。

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