公開日:2022/7/7
インフレ・物価上昇が追い風に?「金融セクター」
金融セクターは、インフレ・物価上昇の環境が追い風になるセクターです。理由は利ザヤ改善です。
セクターの代表である銀行は、低い金利で得た預金を運用することで利益を得ています。長期金利が上がると、預金者に支払う利息と貸し付けなどの運用で得られる利息の差・利ざやが大きくなり、その差分(長短金利差)を利益にすることができます。
保険会社も同様です。顧客から得た保険料を保険契約期間である長期で運用しているため、長期金利が上がればその分利益を拡大することが見込めます。
金融セクターの個別企業を見ていきましょう。
セクターの構成ウエイトの高い企業はこちらになります。
JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(JPM)
バンク・オブ・アメリカ(BAC)
ブラックロック(BLK)
ゴールドマン・サックス・グループ(GS)
ビザ(V)
今回はJPM、GS、Vについてお話しします。
3社ともNYダウ30種の構成銘柄です。
JPモルガン・チェース・アンド・カンパニー(JPM)
4兆ドル近い資産を有する米国最大の金融コングロマリットで、世界60か国以上で事業展開する金融持ち株会社の1つです。
事業は以下の4つの主要部門から構成されています。
- 個人向け業務 コンシューマー&コミュニティ・バンキング
- 法人向け業務 コマーシャル・バンキング
- 投資銀行業務 コーポレート&インベストメント・バンキング
- 運用業務 アセットマネジメント、ウェルスマネジメント
米国の大手銀行株は昨年、市場全体の中でもSP500指数を上回って大きく上昇しました。
M&A(企業の合併・買収)が活況で件数増加、トレーディング収益の拡大、住宅向けのローンが大きく伸びたからです。
JPモルガンの1-3月期決算ではロシアのウクライナ侵攻による市場の混乱でコストの計上がありました。貸倒引当金の追加計上があり、利益が圧迫されました。また、地政学リスクの高まりで法人顧客は慎重になり、債券・株式の発行やM&A(合併・買収)などの企業活動は大きく落ち込みました。前年同期と比べて、JPモルガンの引受業務の幹事件数であるブックランナー件数は約4割減でした。
景気後退に備えて引当金を再び計上したのですが、5月23日、金利上昇を受けて投資家向けカンファレンスで金利収入見通しの上方修正を行いました。物価上昇を受けて今後も急ピッチでの金利引き上げがつづく見通しなので、今後も利ざや改善が見込まれます。
また、景気後退が無い場合は、昨年同様、貸倒引当金の戻し入れ益が発生する可能性もあります。
ゴールドマン・サックス・グループ(GS)
世界有数の投資銀行で、投資銀行業務インベストメントバンキング(純営業収益の20%)、市場部門グローバルマーケット(同45%)、運用部門アセットマネジメント(同20%)、コンシューマー・アンド・ウェルスマネジメント(同15%)という四つのセグメントを通じて、企業、金融機関、政府および個人に幅広い金融サービスを提供する大手証券金融サービス会社です。
この会社にとって、市場環境が激変するタイミングは収益が拡大する時と考えればよいのでしょうか。
あしもと1-3月期決算はマーケットの大きな変動(ボラティリティの拡大)が記録的な利益獲得に繋がったようです。ロシアのウクライナ侵攻とインフレ抑制に向けた政策金利引き上げ、長引く新型コロナの影響が同時に警戒されている中、これらを好機に市場部門(株式部門のみならず、FICC 債券・商品・為替部門は直近5年で最高益)が利益を上げることに成功しています。
全体の営業収入は不安定な市場環境を受けて、JPモルガン同様に顧客企業の動きが鈍く、株式・債券の資金調達が落ち込んだことが響いて、前年同期比27%減129.3億ドルで着地していますが、トレーディング収益は79億ドルで総収入の61%を占めました。
なおソロモンCEOは顧客の期待がリセットされ、資金調達活動が本格的に再開されるまで「1年はかからない」としながらも、数カ月や数四半期の時間が必要との認識を示しています。
ビザ(V)
世界最大の国際決済事業会社で、200を超える国と地域で160種類以上の通貨決済取引・デジタル決済を提供しています。
2021年度の(購入)決済取扱額は10兆ドルを上回り、世界のカード決済に占めるシェアは約6割に達しています。決済ネットワークの拡大と世界的なキャッシュレス化の進展を追い風に収益拡大を続けています。
先日開示されたビザの1-3 月(第2 四半期)では、米国内デビットカード決済は31%増加し8060億ドル(約88兆円)。消費者のオンラインショッピングや米政府からの直接給付金の支給開始が追い風となっています。
電子決済サービスが世界中に散らばっていますし、金額も大きいので世界経済の消費行動を推測することが可能なのですが、同業のマスターカード(MA)も、アメックス(AXP)も足元の業績は好調です。
ロシアのウクライナ侵攻による厳しい地政学環境の中でも収益は堅調で、同業のMA社によれば、3月時点で国外旅行は新型コロナウィルスのパンデミック以来、初めて2019年の水準を超えているとのこと。
ビザ社のアルフレッド・ケリー最高経営責任者(CEO)は欧州内の旅行に紛争による大きな影響は見られないという見方を示し、「新型コロナのオミクロン変種株感染拡大による影響は短期間で終了し、昨年半ばに始まった世界的な景気回復が継続した」と述べています。
松井証券の取り扱い銘柄で、かつNYSEに上場している銘柄のうち、業種が「サービス業」、「銀行業」、「証券、商品先物取引業」で、2022年6月30日時点の時価総額上位20銘柄の中から選んだ5銘柄
動画でも詳しく解説!
松井証券マーケットアナリスト 大山 季之
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。