エリオット波動とは?見つけ方や使えないと言われる理由、分析方法を解説
FXのテクニカル指標について情報収集をしている中で「エリオット波動理論」という相場分析の手法があることを知った人もいるでしょう。エリオット波動理論は、チャート上の値動きに一定の規則性を見出す分析手法で、世界中の多くのトレーダーに活用されています。
本記事では、エリオット波動の基本的な原理やチャート上での見つけ方、さらには実践的な使い方まで、FX初心者の方にもわかりやすく解説します。エリオット波動を理解できれば、FXで利益を狙う上で重要な相場の予測やエントリーポイントの判断に役立てることができるでしょう。
エリオット波動とは?
エリオット波動はアメリカの会計士であるラルフ・ネルソン・エリオットが確立した相場分析の理論です。元々は株式市場の分析から生まれ、世界恐慌やブラックマンデーを的中させたことでも注目を集めました。現在では為替市場の分析にも活用されています。
エリオット波動の理論は、一言で表すと「相場波動は5つの上昇波と3つの下降波を基本としてひとつの周期が成り立っている」とする考え方です。FXにおける相場分析の方法には、相場の方向性を探るのに役立つ「トレンド系」の指標や過熱感を分析するのに役立つ「オシレーター系」の指標があります。エリオット波動は、トレンド系の指標に分類できます。
波動の規模は「メヌエット」と呼ばれる数日単位のものから、「グランドスーパーサイクル」と呼ばれる100年単位のものや「ミレニアムサイクル」と呼ばれる1000年単位で形成されるものまで、幅広く存在しています。
波動はさまざまな時間軸で発見できるため、入れ子構造のような形でそれぞれの波の中に、さらに小さな5つの波や3つの波が存在しているのが特徴です。FXのチャートには「日足」「週足」といった時間軸がありますが、どのような時間軸で見ても、波動を確認できる可能性があります。

エリオット波動の基本形は推進5波・修正3波
エリオット波動は、トレンド(相場の方向性)を押し上げる5つの「推進波」と、トレンドに逆らうように動く3つの「修正波」から成り立っています。上昇トレンドの中では「上げ→下げ→上げ→下げ→上げ」の順で上昇し、その後に「下げ→上げ→下げ」の順で下降する「上昇5波→下降3波」のパターンとなるのが特徴です。ただしFXでは、ある通貨の上昇は別の通貨の下落を意味するため、下降トレンドとして「下降5波→上昇3波」といった逆のパターンを示すこともあります。修正3波が終了すると、推進1波に戻ります。
1・3・5波は大きく動く「アクション波」、2・4波は流れを一時的に中断したり押し戻したりする「リアクション波」と呼ばれることもあります。3波が最も大きなトレンドを形成するというのが、エリオット波動の基本的な動きです。
また、エリオット波動には以下の3原則があります。これらの原則を満たしているときにはエリオット波動が成立する可能性があるため、注目しておきましょう。ただし原則を満たしていたとしても必ずエリオット波動が成立するとは限らないため、注意が必要です。
- 原則➀ 推進波において3波は1波、3波、5波の中で最も短くはならない
- 原則② 推進波の中で2波が1波より安値をつけることはない
- 原則③ 推進波の中で4波が1波の高値を下回ることはない

エリオット波動の「エクステンション」とは?
実際のチャート上ではエリオット波動のパターンが崩れているものや、波の数が違うものがあります。この現象はエリオット波動の変形型として「エクステンション」と呼ばれています。
エクステンションの例で多いのは、第3波や第5波が長くなるケースです。いくつもの細かい波が連なっており、一見エリオット波動が成立していないように見える相場でも、3つの原則に照らし合わせて分析すると、エクステンションが成立している場合があります。

エリオット波動とダウ理論との違い
エリオット波動とダウ理論は、どちらも相場のトレンドを分析するための有名なテクニカル理論ですが、分析の目的や構造に違いがあります。
ダウ理論は、主に過去の価格変動パターンから現在の市場トレンドを判断することを目的した、相場分析をするための「考え方」の一つであり、一定のライン等をチャート上に表示させるものではありません。一方、エリオット波動は、ダウ理論を基盤としつつ、さらに未来の価格変動の波形パターンを予測することを試みる理論です。
また、ダウ理論では、高値と安値が連続して切り上がっている状態を「上昇トレンド」、逆に高値と安値が連続して切り下がっている状態を「下降トレンド」と定義します。これに対し、エリオット波動は、市場心理の変動が「5つの推進波」と「3つの修正波」という特定のサイクル構造(波動)を生み出すと考え、このパターンに基づいて今後の相場の動きを予測しようとします。
エリオット波動が「使えない」や「意味ない」と言われる理由は?
エリオット波動は多くのトレーダーに支持されている一方で、「使えない」「意味がない」と言われることも少なくありません。
その理由として第一に挙げられるのが「どの部分が第1波で、どこからが第2波か」といった、波動のカウントが分析者の主観に左右されやすいという点です。分析者によって波動の解釈が異なるケースも少なくないため、再現性に乏しいという指摘があります。
また、教科書通りの推進5波・修正3波のパターンは、現実の相場では稀にしか出現しません。実際のチャートはノイズが多く、理論をそのまま適用するのが難しい場面が多くあります。
さらに、分析する時間軸(5分足、1時間足、日足など)によって、波動の認識やカウントが変わってくる点もよく指摘されるポイントです。短期的な分析と長期的な分析で矛盾が生じたり、分析に一貫性を持たせることが難しくなったりする場合があります。
エリオット波動をうまく活用するためには、トレード経験を積んで独自の判断能力を養うことや、ほかのテクニカル指標やファンダメンタルズ分析と組み合わせて使うことが重要です。
【関連リンク】FXのテクニカル分析とは?代表的な6つの分析指標と注意点
【関連リンク】FXのファンダメンタルズ分析とは?相場予測に関連する要素や注意点
エリオット波動を用いたチャートの分析方法
エリオット波動を活用することで相場状況の的確な把握や、適切なエントリーポイントの発見につなげることが可能です。
エリオット波動理論の基本的な使い方
エリオット波動理論を活用したトレード方法の一つとして有効なのは「3波に乗る」ことです。3波は全5波の中で最も値幅が大きくなる傾向があるため、利益を狙いやすいとされています。3波の途中、1波の高値を超えたタイミングでエントリーし、3波の終盤で決済するといった手順をとります。
ただし、このような手法が有効なのは「2波が1波の安値を更新していない」というエリオット波動の基本原則を満たしていることが前提となるため注意が必要です。

また4波に注目するのも一つの方法です。4波で3波と逆サイドの注文を行い、5波の推進波が来る前に決済することで、相場の下落局面でも利益を狙うことができます。ただし、4波は3波と比べると値幅が小さくなるため、素早い決済の判断が求められることになります。

さらに、波動の起点となる「1波」を見つける方法も有効です。1波は前の戻り高値や押し安値をブレイクする動きで始まることが少なくありません。また、RSIなどのオシレーター系指標が「売られ過ぎ・買われ過ぎ」のシグナルを示したあとに反転した場合や、ダブルボトム・ダブルトップなどのチャートパターンからの反転も、1波の兆候として注目されます。
エリオット波動の基本形を踏まえて複数の波を捉える戦略を持つことで、相場に応じた柔軟なトレード判断が可能になります。
エリオット波動理論の応用
エリオット波動理論は、フィボナッチ比率と組み合わせて用いることで、各波動の長さや価格の反転ポイントの予測精度を高められるとされています。
フィボナッチ比率とは、フィボナッチ数列(1, 1, 2, 3, 5, 8, 13, 21…と続く、前の2つの数を足した数が次の数になる数列)から導き出される特定の比率のことです。代表的な比率には、0.382、0.500、0.618、1.000、1.382、1.618などがあります。
エリオット波動分析では、フィボナッチ比率を以下のように活用します。
- 推進波の伸びの目安
第3波は第1波の長さに対して1.618倍になりやすいとされています。この分析には「フィボナッチエクスパンション」と呼ばれるテクニカル指標を用いるのが一般的です。 - 修正波の戻りの目安
第2波は第1波に対して0.382倍、0.618倍程度まで戻すことが多いとされます。この分析には「フィボナッチリトレースメント」と呼ばれるテクニカル指標を用いるのが一般的です。
【関連リンク】フィボナッチリトレースメントとは?FXとフィボナッチ比率の関係と使い方を解説!
【関連リンク】フィボナッチエクスパンションの使い方と手法について徹底解説!
エリオット波動の特性を理解してトレードの武器にしよう

エリオット波動は、推進5波・修正3波のサイクルで未来の相場を予測するテクニカル理論です。基本原則や見つけ方、ダウ理論との違いなどを理解することで、FXにおける相場分析の精度向上が期待できます。しかし、波動のカウントが主観的になりやすく、「エクステンション」といった変則パターンも存在するため、実際のトレードで活用するのは難しい場面もあるでしょう。
しかし、投資する人の心理を知る手掛かりとして「波動」を参考にすることは有益です。FXで利益を狙うためには、エリオット波動だけではなく、ほかのテクニカル指標をいくつか組み合わせて、結果に結びついた相性の良いものを絞り込んでいくとよいでしょう。そして何よりも、実際の相場と向き合い経験を積むことが、エリオット波動を使いこなすために重要な要素と言えるでしょう。
<監修者>
木村佳子
<プロフィール>
一級FP技能士(国家資格)。NPO法人 日本FP協会上級資格CFP。IFTA国際テクニカルアナリスト連盟最上位資格MFTA®の日本で最初の女性取得者。早稲田大学大学院ファイナンス研究科専門職MBAファイナンス修士。日本ベンチャー学会。日本IR学会。生活経済学会。消費者行動学会正会員。YouTube 「木村佳子チャンネル」で資産運用情報を発信中。