5月相場の振り返り、AIは長期戦!?

2024年6月5日

マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願い致します。
5月の相場が終わりました。
株式市場は1-3月期にFRBの利下げ期待の高まり(前倒し期待)で約10%上昇し、4月に利下げタイミングを巡って株価は後退、約4%安。4月末S&P500株価指数終値は 5,035.69ポイント。そして5月は、アナウンスされた4月分の経済統計が軟調。『利下げの確実性』を見に行く展開に転換し、株式市場は 景気の鈍化=利下げ確実性の上昇=金融政策変更・利下げ時期の前倒し期待の高まり=金利低下・株高の流れに伴い、月間のパフォーマンスは4.8%上昇しています。

(出所:松井証券マーケットラボ 期間:2024/3/4~2024/5/31、日足チャート)

4月の経済統計だけですが(未だ単月のデータではありますが)、雇用・消費・物価など複数の経済統計で景気の鈍化が示唆されています。5月のNY連銀 ウイリアムズ総裁のコメントを拾ってみますと「政策金利を段階的に引き下げることになるだろう」(5月6日)「今年下期にインフレ率の低下が続くとみている、金融政策が景気を抑制している証拠は十分ある」(5月30日)などであり、投資家にとって非常に心地よいものだったと思います。

Bad News is Good News の視点へ

この「案外 景気がスローダウンしている」状況を1枚のチャートに示すとこのような感じになります。米シティグループが算出しているエコノミックサプライズ指数で、経済指標の発表値と事前の市場予想とのカイ離を指数化したものです。
5月頭以降、ちょうど雇用統計発表のタイミング以降は「思ったより悪い経済指標のアナウンスが続き、マイナス圏(ネガティブサプライズ圏)へ突っ込んだ」ことがお分かり頂けると思います。
これをBad news is Good news.と市場では考えていて、景気鈍化は悪いニュースだけれど政策金利低下の福音をもたらすというわけです。

市場予想を下回る経済指標が増加 1月以来のマイナス圏推移へ

(グラフ出所:Bloombergより松井証券作成:期間 2023/5/12-2024/5/31)

繰り返しになりますが、4月単月ではあるものの景気鈍化を示す複数の経済データが並びました。この傾向が5月以降も継続して確認することができるのかどうか・・・、ここからの相場を決めるポイントになると考えています。
次回FOMCは6/11-12に開催され、金融政策は日本時間6/13未明にアナウンスされます。次回FOMCまで、今週はISM製造業・非製造業景況指数、7日には雇用統計、12日はぎりぎりCPIも開示されます。企業の決算発表もひと段落しているタイミングでは、経済統計での景気鈍化の具合に大注目です。

企業決算・・・ひと段落だが、AIを通じて本当に業績は伸びるのだろうか?

先週はエヌビディアの盟友ともいえるデルテクノロジーズ< DELL>の決算、そしてNYダウ30種採用のクラウド型ソフトウエア企業 セールスフォース <CRM>の決算が発表され、両社とも決算発表を起点にして大きく株価が下がりました。DELLは年初から決算発表前日まで2.34倍に株価が上昇し、エヌビディアの年初来のパフォーマンス2.31倍を凌ぐ勢いだったため、投資家の落胆が東京にも聞こえてくるようでした。
投資家はDELLがAIの恩恵を受ける企業だとみなしており、顧客企業は生成AIのため高性能サーバーをますます必要としています。そのようなサーバーはDELLと他数社によって販売されている・・・と考えられていました。しかし決算を開けてみると、AIサーバーが ほぼ利益が出ない状態で販売されているという懸念が浮上し、株価は大幅下落。DELLのマネジメントは「AI需要の勢いが今年も続く」と予想していますので、今後も売り上げが伸びる限り利益が伸びないのか?という懸念が生じつつあります。
セールスフォースは決算、ガイダンスが市場コンセンサスを下回ることで火が付き、大きく株価が下落しました。同業他社の株価も大きく調整しているあたり、ソフトウエア企業はAIによって参入障壁が低下し、競争環境が激化しているのではないだろうか?という懸念につながっています。

AIは長期戦?

DELLもCRMも、もともとはAIで業績が伸びると信じられてきた企業です。確かに「AIは利益の増加をもたらしますが、(利益率)希薄化する」かもしれないので、決算を通じて改めて考えるキッカケになったと考えています。
利益を成長軌道に再び乗せるために、どこの誰にしわ寄せが行くのでしょうか。インフレによるコスト上昇、競争環境の激化に伴う商品単価の低下に伴ってリストラを強いられるのでしょうか、それとも半導体メーカーに単価引き下げの要請があるのでしょうか(直ぐにではなくても)。投資家は今年の残された期間、約束された利益率改善の実施を定点観測することになると考えています。
AIで業績が魔法のように変わることはない・・・しかし、AIは長期戦になりつつあるのかもしれません。

大山季之

大山 季之(おおやま のりゆき)

松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説

<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。

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