今週は2024年前半の“大一番”の週です

2024年6月12日

マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願い致します。
先週の株式市場S&P500株価指数は1.32%上昇。現在、年初来12.10%プラスで推移しています。
今週は水曜日に米CPI、日本時間 木曜午前3時に金融政策がアナウンスされるFOMC、金曜にはミシガン大消費者信頼感指数の発表を控え、年前半の “最大の注目週” になると考えています。
ここ数週間、多くの金融当局高官は、インフレが持続して成長見通しが堅調に推移していることから『利下げを急ぐ必要はない』という見解を示し続けており、6月FOMCでは7会合連続で金利を据え置く予想が大勢です。本コラムを書いている10日正午現在、6月FOMC利下げ確率は「ほぼゼロ」で、『無風通過』がベースシナリオです。しかし本当に『無風』で通過できるのか?という事を考えています。

FOMC:メッセージ次第では市場がネガティブに反応することも・・・?

FOMCの注目点は声明文、パウエル議長記者会見、開示される金利見通しドットチャートの形状と、経済見通しです。7会合連続で利下げ見送りと考えられていますが、全てはデータ次第というパウエル議長の “マントラ” を何度も聞くことになりそうです。

足元は4月に続き、5月も米国経済がスローダウンしつつある経済統計データが示されています。
直近発表された消費関連企業の決算を確認しても、低価格品を多数扱うウォルマートは好調で、高所得者層の取り込みが評価されています。バーゲン品を買い求める裕福な消費者の買い物が増えていると報告されており、消費トレンドの変化を感じます。また、マクドナルドとスターバックスは、消費者の支出の鈍化・買い控えが売り上げ低迷に影響しつつあることが報告されています。
しかし5月末にアナウンスされたPCE価格指数は、金融当局の物価目標2%に対して2.7%であり、依然高めのインフレが示されています。物価はピーク時から低下傾向にはあるものの“粘着的で、物価の低下のペースは鈍い”という印象を未だ拭うことができない状態です。
FRBが安心して利下げに踏み切るには、インフレ率が2%に近づき、景気鈍化という “良好なデータ” が今後も ”継続的に” 出現することが必要だと考えています。要するに、判断を下すには材料が足りていないので、今回のFOMCでは、FRBパウエル議長が『利下げを急ぐな』『(利下げは)データ次第』というメッセージをたくさん残してくれそうな気がします。つまり、利下げの確実性が上昇するまで時間がかかる、利下げのタイミングはまだ先か・・・と市場が考えることになれば少しネガティブに反応するかもしれないのです。
(先週末の段階で、Bloombergの調査によれば、41%のエコノミストは年内2回の利下げが示唆されると予想している一方で、ほぼ同数のエコノミストは利下げは1回もしくは年内の利下げがゼロを想定しています)

米雇用統計(5月)は曖昧、『消化に時間がかかりそう』

6月7日(金)、米雇用統計がアナウンスされました。

-非農業部門雇用者数27.2万人(予18.0万人、前回16.5万人)
-失業率4.0%(予3.9%、前回3.9%)
-平均時給 前月比0.4%(予0.3%、前回0.2%)

発表直後のマーケットの反応は「堅調な雇用・賃金の伸び=インフレ懸念再燃」で金利(10年米国債利回り)は、前日までの4.3%割れから4.4%台に跳ね上がり、ドル高/株安の反応。ドル円は156円台の取引に戻りました。

表面上、雇用者数は上記の通り大きく市場予想を上回る伸びを示し、市場は「雇用統計は強かった」と解釈しているように見えますが、今回の雇用統計は“弱い”内容も含まれています。
失業率はここ2年余りで初めて4.0%に達しています。また家計調査から正社員(フルタイム)とパートタイムの増減をみると、パートタイムが前月比で28.6万人増加している一方で、正社員は62.5万人減少しています。本当にアメリカの雇用は強いのか?何かが合わない・・・と考えてしまいます。

市場予想より9.2万人多い雇用者数増加でしたが、内訳を確認すると、ヘルスケア分野で6.8万人、政府雇用で4.3万人、レジャー産業分野で4.2万人増えています。 前週アナウンスのあったADP雇用統計は民間部門だけの数字ですが、市場予想を下回る結果になっていました。しかし今回の統計では政府部門の雇用は引き続き強い。またヘルスケアに関しても、介護職員は(ヘルスケアの大部分は介護職員で、低賃金)保険適用範囲の拡大で慢性的に人手不足。この人手不足を合法的な移民の増加で穴埋めしていると考えれば整合的・・・の様に見えます。レジャー分野もコロナからの回復期で、先日、ユナイテッド航空は1万人の雇用を増やすとアナウンスしたばかり(ボーイングの機体納入が遅れ、少し雇用が前年比で減っていますが)。
このように、雇用者数増加数(27.2万人)と市場予想との乖離は説明することができそうで、市場の反応よりも 実体は雇用が弱いのではないか?とも考えられる「曖昧」な結果・・・と考えることができそうです。(曖昧な・・・と書きましたが、労働市場の緩和が見えてきたので、景気鈍化が示された良好な結果かもしれないという事です)
この「曖昧」な感じのまま、この流れで今週は物価統計米CPI、米PPIを確認し、FOMCに突入となりそうです。

ビッグイベントが続くが、個別企業にも注目

個別では大手テック企業火曜オラクル、水曜ブロードコム、木曜アドビの決算発表が予定されています。また月曜からアップルの開発者会議が週を通じて行われ、AI戦略を発表する予定になっています。日本時間11日午前2時にアップルティム・クックCEO基調講演が予定されています。

大山季之

大山 季之(おおやま のりゆき)

松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説

<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。

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