イベント週が終わって・・・
次のリスクは欧州?欧州の極右リスク?

2024年6月19日

マーケットアナリスト大山です。今週もよろしくお願い致します。
先週の株式市場 S&P500株価指数は1.58%上昇。月初来2.92%上昇、年初来13.87%プラスで推移しています。月間のパフォーマンスは情報技術セクターが断トツ、セクター内では好決算のブロードコム<AVGO>が+30%で頭一つ抜けていて、月初からの良い流れが続く(好決算アナウンス)ヒューレート パッカード エンタープライズ<HPE>+22%、そしてアドビ<ADBE>+18%、オラクル<ORCL>+17%と続きました。
上昇銘柄は生成AI関連&好決算で一括りできそうですが、AIを通じた収益化は単純な話ではなく、個社要因がとても大きそうです。先週はセールスフォース決算ショックを経て出遅れていたITソフトウエア企業が再評価され、物色が横に広がった気がします。とくにアドビは好印象でした。

先週のイベントレビュー:ドットチャートが機能していない?

-マクロはイベントが多く、CPI⇒FOMC⇒PPIがアナウンスされています。
-消費者物価指数CPIは、エネルギー価格とサービスの低下で「インフレ鈍化」の見方が浮上してFOMCに繋がりました。FRBパウエル議長が好んで見ている スーパーコアと呼ばれるグループは、前月比マイナスで推移しており、今後はサービス価格鈍化(賃金鈍化)の持続性に焦点が当たりそうです。
-FOMCは7会合連続で政策金利が据え置かれ、最大の焦点だったドットチャートでは、年内の利下げ回数は 従来の3回⇒1回に修正されて『タカ派姿勢(金融引き締め的)』が鮮明になっていますが、25年の利下げ見通しは これまでの3回⇒4回に引き上げられ、『ハト派姿勢(緩和的)』を示してバランスがとられている気がします。
今回のFOMCはインフレに関する金融当局の “表現” に注目が集まりましたが、緩やかな進展が見られているとありました。 加えて、前述のCPI低下、2025年の利下げ増幅の姿勢を通じ、リスクマーケットは 金利低下・ドル買い・株高で反応しています。
-生産者物価指数PPIも予想以上に低下、米金融当局がインフレ目標とするPCE価格指数(次回28日公表)の算出に使われる幾つかのカテゴリーは前月比で低下してマーケットにとってはポジティブです。

⇒先週のイベントを通じてFOMCでは 今年の利下げは1回だけとの見方を伝えていますが、この物価統計は強気の材料になりそうです。
マーケットにインフレ率が下がっているディスインフレが伝わる 「良いこと」 が続いています・・・。FOMCで示されたドットチャート(年内の利下げは1回!)が全然機能していません 笑
つまり、複数のデータで2か月(4月統計・5月統計)続けてディスインフレ・インフレ率の低下が認識されてきたことになります。景気が持続可能なペースでディスインフレが深まってきていることはポジティブ。FRBパウエル議長は「データ次第・・・」と伝えていますが、データは明確に示してきたというわけです。 

これを受けてBloombergでは「『ドンピシャ』のタイミングでディスインフレが進んでいる、このままいけば9月利下げが本番」というニュースを伝えています。「FRBは2021年、2022年はインフレ対応に出遅れて金利を急激に引き上げた。今回は逆だが、2024年に同じ過ちを繰り返すことにならない様に祈る」とも伝えています。
CME Fed Watchで年内の2回以上の利下げ確率を見れば、1週間前46.2%から68.1%に上昇しています(2024/6/17 AM09:30現在)。

上記、ここまで見れば、リスク低下の良い流れがあり、金利低下・株高が演じられたと考えていますが…

突如浮上した欧州リスク、史上最も右寄りの欧州議会成立へ:
おフランスでリスクオフです。

6月7日(金)、米雇用統計がアナウンスされました。

6/6から6/9にかけて実施された欧州議会選挙(定員720、5年に1度)の投票がEU各国で実施され、右派が勢力を伸ばす一方で中道リベラルや左派、環境会派が議席を減らしたため『史上最も右寄りの欧州議会が成立することになる』 見込みです。フォン・デア・ライエン氏の欧州委員長続投の可能性が高いことを踏まえれば、EU政策の方向性が大きく転換することはないのですが、各国の政治・選挙には注意を払う必要性が出てきました。
欧州議会選挙は国政の信任投票的な意味もあります。景気低迷・インフレ・移民増加への不満を背景に、今回の選挙では各国の政権与党の勢力が後退し、極右が議席を増やすケースが目立ちました。いま特に問題になっているはフランスです。マクロン大統領が欧州議会選挙の結果を受けて、国民議会(下院)を解散し、6月から7月にかけて総選挙を行うと発表しています。世論調査では、極右政党が躍進することが確実視され、極右勝利で財政状況が悪化するとの懸念に圧迫され、フランス株式、フランス国債は大きく売られています。
総選挙は、マクロン大統領自身の職には影響しません。大統領任期はまだ3年残っていますし、下院選と大統領選は別物だからです。しかしマクロン氏は議会では多数派でないため、法案通過が現状でも難しいのです。国民のほとんどが明らかにマクロン氏を支持していない現状では、近く審議に入る予算案を含めたすべての法案が危機を招きかねません。
近い将来、フランスの大統領が変わるのでは?とか、フランスは『Frexit』(フレグジット:フランスの欧州連合離脱)の話で盛り上がってきました。Bloombergによれば、フランス市場は大荒れで、時価総額は33兆円減少し、フランス国債は売り込まれ ドイツ国債に対する利回り上乗せ幅は週間ベースで過去最大に達しています。

右寄りに欧州が傾けば(欧州)連合としての体はどうなるのか、今後のマネーマーケットはどうなるのか、まだその様な議論が行われているわけではないですが、市場関係者が議論の場に於いてFrexitを想定し始めていることは大きいのではないでしょうか。良くも悪くも、EU、ユーロで得をしているのはドイツだけでしょうからね。

足元、アメリカ単体ではリスクは低下基調にある・・・と考えていましたが、欧州極右リスクはグローバルでリスクオフの動きを助長しかねないという事に、注意を向けたいと思っています。 フランス不安で安全資産に資金逃避されるのか。ドル買い・米国債買いが起きるのか。。。

大山季之

大山 季之(おおやま のりゆき)

松井証券マーケットアナリスト
経験から得た幅広いネットワークと確かな知識で複雑な世界情勢を紐解き分かりやすく解説

<略歴>
1994年慶應義塾大学卒業後、国際証券(現三菱UFJモルガンスタンレー証券)に入社。2001年ゴールドマン・サックス証券、2010年バークレイズ証券、2012年から金融コンサルを経て現職に至る。これまで、機関投資家向け株式営業を中心に、上場企業へのファイナンス提案・自社株買い・金融商品組成に関わった。
現在は前職の経験をもとに、国内外マクロ・ミクロの分析を行う。

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